すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「フロイトの函」 デヴィッド・マドセン (イギリス)  <角川書店 単行本> 【Amazon】
汽車の食堂車で一人、停電に見舞われたぼくは、暗闇のなかで知らない男に声をかけられ、淫らな行為を仕掛けられた。危ういところで灯りがつき、事なきを得たが、なぜか向かいの席には見知らぬ老紳士が座っていた。老紳士はジークムント・フロイトと名乗った。あのフロイト博士とは別人の精神科医で、ユング博士とは犬猿の仲で、「夢判断」という著書もあるという。 混乱するぼくは名前を名乗ろうとするが、自分の名前も、そして、なんの目的で汽車に乗り、どこへ行こうとしているのかも、なにも思い出せなくなっていた。そこにマルコヴィッツという名の車掌が現われ、切符を持たないぼくを逮捕すると言う。
にえ グノーシスの薔薇」から2冊めのデヴィッド・マドセン作品です。
すみ 危なかったよね、この著者の邦訳本がまたでたら必ず読むとか言っておきながら、すっかり忘れて流してしまいそうになってた(笑)
にえ それにしても、また「グノーシスの薔薇」のような歴史的な背景をたっぷり堪能させてくれるものだとばかり思っていたんだけど、違ったね。
すみ 夢のなかで夢を見て、その夢のなかでまた夢を見て、醒めてもまだまだ夢のなか……って、そういう話なのよね。
にえ 基本的にはそういう話って好きじゃないんだけどね、ウネウネしてハッキリしないところが不快だし、最初っから夢オチですよと言われているようなものだし。
すみ なんだかわざととはわかっていても、妙に表面的なところだけをとらえてパロディにしたようなフロイト博士の存在も微妙にむかつくしね。
にえ そうなんだよね、けっこう嫌い要素タップリ。でも、けっきょく最後まで読んだし、まあ、なんというか、けっこう楽しみました(笑)
すみ ホントにねえ、悪ふざけで書いてるとしか思えないような、精神医学をバカにしてるのかっ、って感じなんだけどねえ、けっこう読めた(笑)
にえ 前置きも何もなく、いきなりのっけから夢か現実かわからない状況なんだよね。汽車の食堂車、いきなりの停電。すぐに現われる謎の男。
すみ そして明るくなるとフロイト博士、でしょ。明るくなってからが夢ともとれるし、暗いときが夢ともとれるし、どっちも夢ともとれるし。とにかく会話からなにから非現実的で、とても現実とは思えないのよね。
にえ 暗いときにいた男はいきなり禅の話なんて始めちゃうし、明るくなったらフロイト博士(笑)
すみ ジークムント・フロイトという名前だけど、本物、というか、みんなが知ってるジークムント・フロイトはもう亡くなっていて、この方は精神科医で、ユングとは犬猿の仲で、「夢判断」という著書を出していて、ユダヤ人で……って同じじゃないっ(笑)
にえ でも別人なんだよね。で、記憶を失った主人公とフロイト博士が会話をしていると、現われるのが車掌のマルコヴィッツ。この男がまた性的な悩みをいろいろと抱えていたり、性格も歪みまくっていたりで。
すみ 三人セットで行動することになるのよね。
にえ 性的に問題ありのお色気タップリ美少女とか、怖ろしい牛の集団とか、まあ、次から次へと夢ならではの世界が展開されていくの。
すみ しかも、これは夢だとか夢なのかとか語られたり、そういう夢を見るってことは、なんて分析されたり。
にえ そうそう、この本でもグノーシスについて触れられていたよね。著者のグノーシスへのこのこだわりについては、説明してもらわない限りわからないけど。
すみ デヴィッド・マドセンは本名不明で、哲学者であり神学者って人らしいんだよね。
にえ グノーシスってなんだろうと思ってチラッと調べたけど、調べれば調べるほど話がややこしくなるね。そういうところも魅力?(笑)
すみ とりあえずまあ、この本についていえば、展開が早くて、ちょうどいいってところで場面が変わっていくから、意外と息が詰まらず、嫌になることなく読めちゃうってところはあるよね。
にえ うん、でも、人には勧めづらい(笑)
すみ これは人に勧められて読む本じゃないよね。好みそうなら試してみればって感じだよね。多少なりとも本物のほうのフロイトのことは知っていた方がおもしろいかな。かなりパロってるから。って、ことで以上っ。
 2006.10.10