=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「イナゴの大移動」 デイヴィッド・ガーネット (イギリス)
<河出書房新社 単行本> 【Amazon】
ジミー・リークスは操縦士としては一目置かれる存在だった。長身で隻眼、鼻がつぶれて身体中に傷や火傷のあとがある。火傷は1917年、墜落炎上した飛行機から逃げ出したあと、仲間を救おうと機内に戻ったときに負ったものだった。 富裕な未亡人リリー・ビーンランズとその恋人、ウィルモット・シャップ中佐は、ジミーを雇い、長距離飛行の記録に挑もうとしていた。すでに三度失敗し、注目は薄れていたが、三人は大型単葉機<ウェイズグース>号に乗りこみ、空の旅へと出発した。 | |
私たちにとっては、「アスペクツ・オブ・ラブ」から2冊めのガーネットです。 | |
河出書房新社から出ているガーネット傑作集の、これが5冊めで最終巻、「アスペクツ・オブ・ラブ」が2冊めなんだよね。飛び飛びで読んでしまった(笑) | |
傑作集は「狐になった人妻/動物園に入った男」「アスペクツ・オブ・ラブ」「水夫の帰郷」「ビーニー・アイ」「イナゴの大移動」の全5巻なんだよね。 | |
あとの3巻もいずれ読まねばね〜。「狐になった人妻」と「動物園に入った男」なんて、これまでにも何度も翻訳されているぐらいだから、かなり期待できそうだし。 | |
そういえば、デイヴィッド・ガーネットっていう作家については、前回まったく紹介していなかったけど、お祖父さんもお父さんも作家で、お母さんは翻訳家っていう、文学一家で生まれ育ったんだって。 | |
お父さんは、あのアラビアのロレンス、T・E・ロレンスと親しくて、デイヴィッドもその縁で親しくなったんだけど、空軍に所属して飛行機の操縦士だったロレンスは、この小説を書くことを知って大丈夫なのかと心配したんだって。でも、出来上がったものを読んで絶賛したと巻末解説に書いてあったよね。 | |
ロレンスは空軍に所属して、充分な飛行経験のある人で、ガーネットはこの小説を書くとき、ちょうど操縦の免許をとろうとしていたところだそうだから、ロレンスにしてみたら、充分な知識も経験もないのに、憧れだけで書かれてもな〜みたいなところがあったんだろうね。 | |
でもさあ、読んでビックリしたっていうのはわかるよね。がんばって書きました〜っていう気負いもないし、わからないところは誤魔化しちゃえってところもないし、本当に飛行経験たっぷりの人が書いたようなさりげなさなの。 | |
上手いだけじゃなくて、機内での会話の交わし方とかは、小説の設定としての面白味もあるよね。狭い空間に閉じこめられているというのに、三人は直接会話をすることができず、伝声管を通して話をするの。 | |
会話のしづらさと、長距離飛行だから体力を温存しておかなければならないという事情から、それぞれが物思いにふける時間も多いんだよね。 | |
リリーは裕福な男性と結婚できたことは良かったけど、義理の娘や息子には見下されたような態度を取られ、かならずしも幸せではなかった結婚生活のことなんか思い出すの。 | |
そんな私が今、冒険をしている! って気持ちが強いみたいね。結局、この長距離飛行記録の挑戦に打ち込み、本気でやりたいと思っているのはリリーだけのような。 | |
恋人のウィルモットはやる気がないわけじゃないけど、リリーの機嫌を取るためにってほうが強そうだしね。 | |
ジミーはへりくだりながらも、しょせん女と心のなかでは見下してるのよね。でも、ウィルモットのことはさらに嫌いみたいで、わざと無視してみたりして。 | |
あ、でも、リリーについては最終的に見直すことになるから、女性読者が読んでも不快じゃないのでご安心を。 | |
そうだよね、人の本性って窮地に立って初めてわかるものだからね。リリーはメソメソしたり、ヒステリーを起こしたりするタイプじゃないから。 | |
窮地といえば、タイトルからしてイナゴが来るなとだれもが思うでしょうが、来ますよ〜(笑) | |
でもさあ、いきなりイナゴの大群がやってきて、襲いかかられてギャーって感じかと思ったら、そういうわけでもなかったよね。 | |
うん、私は蜂の子とかイナゴの佃煮とか、ぜったい、ぜったい食べられない〜っと思っていたけど、これを読んだらイナゴが食べたくなった(笑) | |
たしかに美味しそうだった(笑) それはともかく、ワー来た来た、イナゴって感じじゃなくて、段階を踏んでリアルに描かれているんだよね。 | |
ぜんぶで100ページ弱の小品で、ストーリーもあらすじを言ってしまえば至極単純なんだけど、けっこう読みごたえがあったし、なんだろう、夢中になれる冒険の物語でもあったのかもしれない。 | |
そうだね、あんまり感情移入とかさせない、こざっぱりした感じで終始しているけど、なんだかけっこうおもしろくて、読み終えたら、何がそんなに良かったんだろうとすぐ読み返したくなってしまった。やっぱり上手い作家さんですよってことで。 | |
2006. 9.10 | |