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 「アスペクツ・オブ・ラブ」 デイヴィッド・ガーネット (イギリス)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
デイヴィッド・ガーネット(1892〜1981年)
モンペリエでのイプセン劇の公演は失敗に終わり、若き駆け出し女優ローズは、次のアルビでの興業までに2週間のまがあいてしまった。しかし、ローズには金がなく、一座の仲間と喧嘩をしたばかりでは、借金を申し込むこともできなかった。 そこで座長のマルセルは、ローズに学生らしき男の子をあてがった。アレクシスと名乗るその学生は、ローズの熱烈なファンで、アルビにある、伯父のジョージ・ディリンガム卿の使っていない別荘で、二週間過ごさないかと誘った。
すみ これはガーネット傑作集Uということで、本当は傑作集T「狐になった人妻/動物園に入った男」から読むはずだったんだけど、たいしたことのない理由で、こちらから(笑)
にえ ちなみに、「狐になった人妻」「動物園に入った男」はガーネットの出世作、「アスペクツ・オブ・ラブ」は老境に入って自叙伝三部作を完成させたあと、20年ぶりに創作意欲に駆られて書いた小説、だそうな。
すみ 「シャンパンにペンをひたして書かれたような小説」と言われてるんだってね。それはなんだかわかったような、わからないような、なんだけど(笑)、日本では劇団「四季」のミュージカルの原作と言ったほうが伝わりやすいかな。
にえ そうそう、私も観たことないし、内容も知らなかったけど、タイトルだけは知ってた。
すみ 合計すると、男2人に女3人、いや、存在感ないけどもう1人いれたほうがいいのかな、この5人だか6人だかが複雑な恋愛関係に、ってストーリーなんだけど、読むとぜんぜん複雑さを感じないというか、不思議なほどサラッとしているんだよね。
にえ そのへんがシャンパンにペンをひたして書いたようなんでしょ。中心に据えられたローズが恋愛にたいして積極的なんだけど、深刻にならないってタイプだから、全体的にもそう感じるのかしら。
すみ ローズだけじゃなくて、アレクシスとローズの娘のジェニー以外がみんな深刻にならないタイプだもんね。
にえ なんとも不思議な味わいの、おもしろい小説だったな。いちおう恋愛小説ってことになるのかしら。脂が抜けきって、恋愛感情がネッチリ伝わってくるってところがないから、恋愛小説を読んでる感覚がないんだけど、書かれた内容がなにかって考えると、やっぱり恋愛小説だったんだなって感じ。
すみ 舞台はフランスなのよね、そういうところもシャンパン? ローズはフランス人だけど、アレクシスやジョージ・ディリンガム卿はイギリス人なんだよね。
にえ 最初に知り合うのはローズとアレクシスだよね。アレクシスは舞台女優ローズのファンで、ローズの予定にぽっかり穴が空いてしまった2週間を、伯父ジョージの別荘で過ごさないかって誘うの。
すみ アレクシスはイギリスの学校を放校され、それで今度こそまじめに学校に通えって、フランスの伯父のもとに遣られたのよね。それでもローズに熱をあげているぐらいだから、性根を入れ替えてってことにはなってないみたいだけど。
にえ ローズにしてみたら、男としては、ちょっと頼りなく感じちゃうよね。自分を崇拝してくれるから、一緒にいて嫌な気はしないだろうけど。
すみ まあ、とにかく当然のことながら、一緒に別荘に泊まることになったローズとアレクシスはそういう関係に。でも、そういうことについてはあくまでサラッと、詳細については触れられていないのよね。
にえ そういうシーンは何度もあるのに、それについてはあまり重要なことでもなしってばかりに、あっさりスルーしてるよね。このへんに、そういうことを超越した年齢の作家が書いたって感じがしたな。
すみ 別荘の持ち主である、伯父ジョージが現われるのは、二人がお芝居の練習をしている時よね。このシーンはかっこよかった。で、ローズはあっさりジョージに恋してしまうの。ジョージはこの時点で、すでにもうけっこうな年齢なんだけど。
にえ でも、ローズがジョージに惹かれるのはわかるな。ジョージは准男爵(バロネット)で、財産があり、詩人でもあるの。知識も豊富で、かなりどぎついことも、品が悪くならずに話せる紳士っぷりで、でも、表立たないナイーヴさもありで。
すみ 亡くなった奥さんが、美貌を謳われ、エドワード国王の思い人になっていたかもっていうほどの女優だったってのも、若手女優のローズには、魅力だったんじゃない。
にえ だけどさあ、ジョージはイタリア人女性、トラパーニ侯爵夫人ジュリエッタに恋をしているのよね。だからってジョージは、自分の気持ちを最優先させないんだけど。
すみ まあ、とにかくこの調子で、三角関係、四角関係・・・となっていって、ときには修羅場にもなるけど、あんまり後を引くこともなく、サラサラと流れていくのよね。
にえ 夫と妻と娘が、公認で妻の愛人と一緒に暮らしていたりとかするのにね。なんか他人から見ると、異常過ぎるって思うようなことでも、その家族にしてみれば、べつにどうってことなく受け入れてるってこともあるのかな、なんて思ったりもしたけど、やっぱり不思議、でも違和感がない(笑)
すみ 少なくともジョージは、声をあらげて騒ぎ立てるような下品な真似をするつもりは、まったくないよね。他の人がちょっとした騒ぎを起こしていても、あ、そうってぐらいのものだし。
にえ 心理描写はごく少なめで、どんどん話が進んでいろいろな出来事が起こるから、あれよあれよと言う間に読み終えてしまえるよね。読み終えてから、あらためて、それぞれの登場人物について考えてみたりするのも楽しかったし。シャンパンはやっぱり色合いかな。この小説の作品世界じたいが、グラスのシャンパン越しに見ているような色合いだった。セピアよりもずっと透明感があって、薄く甘く切ないような・・・。良かったです。