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 「憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談」 エドワード・ゴーリー編
                                   <河出書房新社 単行本> 【Amazon】

画家エドワード・ゴーリー(1925年〜2000年)が選んだ12の恐怖の物語。
空家(A.ブラックウッド)/ 八月の炎暑(W.F.ハーヴィ)/信号手(C.ディケンズ)/豪州からの客(L.P.ハートリー)/十三本目の木(R.H.モールデン)/死体泥棒(R.L.スティーヴンスン)/大理石の躯(E.ネズビット)/判事の家(B.ストーカー)/亡霊の影(T.フッド)/猿の手(W.W.ジェイコブズ)/夢の女(W.コリンズ)/古代文字の秘法(M.R.ジェイムズ)
にえ いろんな作家の短篇が入っているアンソロジーというのはちょっと苦手な、頭の切り替えが得意でない私たちですが、エドワード・ゴーリーに惹かれて読んでみました。
すみ エドワード・ゴーリーが12編を選び、順番も決めて、一遍ずつに扉絵を描いているって本なんだよね。だから、ひとつずつ表紙のついた12冊の本が入っているようなもの? でも、それにホントの本の表紙と開いてすぐの絵が加わるから、絵はあわせて14枚だけど。とにかく贅沢っ。
にえ 表題作はなくて、本の表紙と開いてすぐの絵は、どの短篇の内容を象徴しているってわけでもないんだよね。でも見ていると、これにも物語があるような気がしてくるよね。
すみ うんうん、一遍ずつの扉絵は抑えめでそんなに怖くないから、表紙が一番怖かったりするしね(笑) と、絵のことばかりしゃべってるけど、収録された小説のほうは、ラッキーなことに一編も既読のものがなかったよね。
にえ 並べ方も上手くて、私たちでもギクシャク引っかからずに12編が読めたしね。特にラストの作品なんて、これを最後にしてくれてありがとうって感じだった。
すみ さすがにどれも面白味充分、怖ろしさ充分だったよね。期待していた絵が扉絵だけだから、ちょっと物足りない感があったんだけど、逆に期待していなかった小説のほうがどれも読みごたえがあって、大満足だった。
にえ あと、後書きを読んでビックリしたんだけど、トーベ・ヤンソンの短篇小説「黒と白」(トーベ・ヤンソン・コレクション8「聴く女」収録作)の主人公って、エドワード・ゴーリーがモデルなんだって。あの本を読んだときには、たしかまだエドワード・ゴーリーを知らなかったから、今それを知ってビックリ。副題が「エドワード・ゴーリーに捧ぐ」となっているそうだから、二人はかなり仲が良かったのね。どちらも大好きだけど、別々にしか考えていなかったのだけれど、並べて考えてみると、二人の絵ってちょっと共通点が多いかも。
すみ 「黒と白」に出てくる挿絵は、この本の挿絵に間違いないって書いてあったよね、これはすぐ読みかえさねばっ。それはともかく、この本は大満足でした、私たち同様、読んでない作品ばかりの方にはオススメしちゃいますってことで。
「空家」 A.ブラックウッド
広場の一角に押し込まれたようなその家は、両側を挟む家となんら変わりなかったが、近所の人たちは邪悪なものを感じて、なんとなく避けていた。住民は次々に入れ替わり、長く住んだ者はない。ショートハウスは心霊学に凝るジュリア叔母に連れられ、その邪悪な家に夜、入ってみることにした。
にえ これは典型的な、おばけ屋敷ものだけど、家が荒野の一軒家じゃなくて、広場の一角の平凡な家の一つだったり、叔母の顔が若くなったりとか、視覚効果に他にない面白味があって、ゴーリーが選んだのも納得って感じだった。
すみ どこにでもありそうな家なのに、なんだか邪悪なものを感じるって、朽ちた屋敷とかよりかえって怖いものがあるよね。
「八月の炎暑」 W.F.ハーヴィ
40才の画家ジェイムズ・クレランス・ウィゼンクロフトは、想像で書いた被告人席の犯罪者の絵に満足し、上機嫌で道を歩いていた。ふと見ると、墓石を掘っている男の容姿は、絵の中の犯罪者にそっくりだった。偶然の一致に驚いたジェイムズは声をかけてみることにした。
にえ これは私が名づけた呼び方で言うと、志村うしろうしろパターン(笑) 読者には主人公がこの先どんな運命をたどるか見えているんだけど、主人公はまったく気づかず、よかれと思って奈落の底へ続く道を積極的に選んでしまうという。
すみ 墓石に自分の名前ってのも典型的なパターンではあるけど、墓石を掘る人とダブルになって先を想像させるってところが上手いよね。
「信号手」 C.ディケンズ
私はふとしたきっかけで、学のある信号手と知り合った。その男は、腕を振りながら「おーい! そこの人! 危ない! 危ない!」と叫ぶ男の幻覚を何度も見ているという。そして、その幻覚を見るたびに、あとから線路で事故があるというのだった。
にえ これは前から気になっていたけど読んでなかった作品だから、この機に読めてよかった。伏線が最後にはそういうことかとわかる面白さがあって、さすがだった。
すみ これも視覚に訴えてくる、というか、視覚あってこその怖さって作品だよね。
「豪州からの客」 L.P.ハートリー
3月のある日、バスの車掌は不気味な乗客に声をかけた。その男はキャリック・ストリートまで行くという。その5時間ばかり前、キャリック・ストリートの小さなホテルに古い馴染みの客が訪れた。客の名はミスター・ランボールド、オーストラリアに渡り、成功して帰ってきたのだった。
にえ これはおもしろいな〜。生きてはいないような不気味な謎の男と、オーストラリアで成功して戻ってきた紳士が、わらべ唄の暗示によって結びついていき、関係性が見えてくるの。
すみ 好みからすると、ちょっと書きすぎかな〜、もうちょっと削ってほしいかな〜って感はあるけど、それはともかくとして、やっぱりこういう話はたまらなく好きだよね。
「十三本目の木」 R.H.モールデン
30年ぶりにロンドンで再会し、ふたたび親交を温めるようになった幼なじみに会いに行った私は、その屋敷の立派さに驚いた。会ったこともない遠い親戚が遺してくれたものなのだそうだ。泊めてもらった夜、私は何もないはずの庭に、水盤とそれを取り囲む12本の木を見た。幻覚かと思い、友人には黙っていることにしたが、次の夜にっまた水盤と12本の木が見えた。
にえ 月に照らされたくらい庭、あるはずのない水盤と木……、これは映像が浮んで、ゾクゾクッと来るよね。
すみ うん、話じたいはありがちだけど、しんと静まった雰囲気の、吸い込まれていくような映像の怖さがあった。ホラーもののゲームソフトでこういう怖さってよく表現されているような。
「死体泥棒」 R.L.スティーヴンスン
老いた飲んだくれのスコットランド人フェティーズは、デベンナムに居着いて長かった。どうやら医学の心得があるらしく、知る者にはドクターと呼ばれていた。ある暗い冬の晩、大地主が卒中で倒れ、著名な医者がロンドンから呼ばれた。その医者の顔を見たとたん、フェティーズは「マクファーレン」と名前を呼んだ。フェティーズがエジンバラで医学を学んだときの、おそるべき秘密を持ち合う知人だった。
にえ 医学のために屍体が必要でって話も定番かな。マヒしちゃって、死を軽々しく扱うようになってしまう邪悪さが怖かった。
すみ なんとなく、ラヴクラフトっぽかったよね。こっちのほうが洗練されている気はするけど。
「大理石の躯」 E.ネズビット
絵描きの私と作家のローラは結婚したが、金の余裕があまりないので、ブレンゼットという小さな田舎の村で、どうにか満足できる一軒家を見つけた。その家の近くには教会があり、裁断の両脇には灰色の大理石で作られた、甲冑姿の騎士の横臥像が二つ安置されていた。その石像は諸聖徒日の前の晩に歩くという噂があった。
にえ これは盛り上がるだけ盛り上がっておいて、最後に出てくる青年医師が大阪弁らしき言葉でしゃべりだして、ガクッと来てしまった(笑)
すみ 方言部分を自分のわかる日本の方言で訳すって最近では多くなったけど、怪談ならではの重苦しく怖ろしい雰囲気が盛り上がったところで元気いっぱい(に感じる)の関西言葉は、私たちにはちょっとキツかったね。青年医師で方言ってなると、たしかに言葉選びが難しいかも、とは思ったけど。
「判事の家」 B.ストーカー
ケンブリッジで数学の優等卒業試験を受けるマルコム・マルコムソンは、その前にどこかで一人きりになり、勉強に集中したいと考えた。気が散らなそうな、ありきたりの小さな町ベンチャーチを選んだマルコムは、大昔、悪意ある判決で人々に怖れられていた判事が住んでいたという家を借りることにした。
にえ やっぱり西洋の怪談というと家ものが多いね。でもこれは、ネズミを上手く使ってあって、あとは紐とか肖像画とか椅子とかの道具立てが上手くて、かなり面白味があったけど。
すみ これのネズミは絵で描いちゃうとダメだよね、想像だからこそ怖いっ。
「亡霊の影」 T.フッド
海軍士官のジョージとレティは結婚することになっていたが、ジョージは北極探検に志願した。それが今後の出世にどれほど響くかということを考えれば、無理からぬことだった。しかし、まさか同じ船に乗りこむ艦医である、不気味な青年ヴィンセント・グリーヴがレティに横恋慕するとは思ってもみなかった。
にえ これは早い段階で先がぜんぶ読めちゃうお話なんだけど、扉絵がなにげに好きだな。氷と雪に閉ざされた地って、なんか怖い。
すみ この話でも、絵画が効果的に使われていたよね。画家も出てくるし。やっぱり画家が選ぶと、話で使われている絵とかめいっぱい想像しちゃったり、同じがかってことで親近感がわいたりとかして、好む傾向があるのかもね。
「猿の手」 W.W.ジェイコブズ
父と母と成人した息子の住むレークスナム荘に、昔なじみのモリス特務曹長が訪ねてきた。モリスはインドから戻ってきたばかりで、老いた苦行僧が魔法をかけたという乾いた猿の手を持っていた。三人の者が三つずつ願いを叶えてもらえるというその品は、すでにモリスを含めた二人が三つの願いを叶えてもらっていた。
にえ これも前から読みたかった作品だから、この機に読めてよかった。願いを叶えてくれる猿の手だけど、叶え方が邪悪なようで、モリスは渡したがらないんだけど。
すみ 作り話と思っても、胸痛むものがあったよね。スティーヴン・キングの「ペット・セマタリー」を連想してしまった。
「夢の女」 W.コリンズ
医師である私は隣町の地元医師を訪れた帰り、馬車を頼もうとして寄った小さな宿屋で、昼間だというのに寝言を言いながら眠る、老いた馬丁のことを知った。アイザック・スキャチャードという名前のその馬丁は、若い頃から女にも仕事にも縁がなく、仕事を探しに行った帰りに泊まった宿で、女に殺されかける夢を見たことがあった。
にえ この作品の扉絵が一番怖いでしょう(笑) 夢のなかで女に殺されそうになったアイザックは、すっかり忘れた頃になって、その夢の女そっくりの女と出会うんだけど。
すみ これもちょっと「志村うしろうしろ」パターンだよね。途中で女が盗み見ているところが映像的に怖かった。
「古代文字の秘法」 M.R.ジェイムズ
カーズウェルという錬金術師が学会に発表しようと論文を送ってきたが、審査を頼まれたダニングが、その論文はまったく話にならない内容だというので不採用となった。すると、カーズウェルは審査をした者の名前を教えてほしいと問い合わせてきた。
にえ カーズウェルは以前に本を出したことがあるんだけど、その本を批判した人はおかしな死に方をしているの。
すみ ダニングの身辺にも、おかしな事が起こり始めるのよね。それにしても、この話が最後でホントによかった。スッキリ読み終えましたっ。
 2006. 9. 6