すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
トーベ・ヤンソン・コレクション8 「聴く女」 (フィンランド)  <筑摩書房 単行本> 【Amazon】
トーベ・ヤンソンがムーミンシリーズ終了後に発表した最初の作品。18の短編を収録。
にえ 8番めになってるけど、これがコレクションの中では、おそら く一番早い時期に書いた作品。他のに比べてちょっと硬さが残ってる気がしたのは、そのせいかな。
すみ きちんとまとまった作品っていうより、スケッチブックをのぞ いてるみたいな感じがした。日常の描写的なものあり、創作した人物の短い描写あり、と描き散らしの楽しさあり、かな。
<聴く女>
みんなに愛されたイェルダ伯母は、五十五歳にして人が変わってしまった。
にえ たぶん、アルツハイマー症ではないかと思うんだけど、 記憶がままならなくなって、以前のようには人と接することができなくなった伯母さんが痛ましいお話。
すみ なんでもないような出来事を書きつらねてある、でもすごく 美しいかった。最後の描写なんて、静寂の美が沁みてきた。
<砂を降ろす>
平底船のそばで砂を降ろす作業をする男たち。それを見ていた少女は、手伝いたいと申し出る。
にえ これはもう描写に徹したって感じの作品だったよね。
すみ うん、よけいな感情はいっさいぬきの、短いデッサン的なお話。
<子どもを招く>
ヘィエル姉妹は弟の娘の誕生日に、子供たちを招待した。
にえ 子どもを前にすると、どうしたらいいかわからなくなってし まう女性の痛ましい姿がありました。
すみ そういうことに気を遣わない子どもたちが残酷にさえ思えてくるよね。
<眠る男>
レイラは少年に呼び出され、死にかけているような男の部屋で過ごすことになった。
にえ これはもう説明一切なしで、事情はわからないまま、雰囲気だ けが伝わってくる話だったね。
すみ 肩を寄せ合う少年と少女が瑞々しかった。
<黒と白>
男は黒を基調とする挿絵画家、妻のステラは工業デザイナー。二人はステラの趣味で揃えられた、 白木とガラスの部屋に住んでいる。
にえ これはわかりやすかったでしょ。男の人は絵を描くために、 黒の世界が必要で、それでいて恋いこがれるのは白く輝くステラなの。
すみ でも、いくら好きでも、一緒に暮らすのは難しいかもね。
<偶像への手紙>
彼女は憧れの作家に手紙を書き、ついには会いに行くことにした。
にえ 主人公の女性の思い入れが強すぎるためか、サスペンスまがい の緊張感があったよね。
すみ 話はファンレターを書いて、会いに行って、ってすごく単純な 行動だけなのに、なんだかやけに怖かった。
<愛の物語>
画家の彼は芸術展で、すばらしい大理石の彫像を見つけた。高価だが手に入れたいと思うのだが、妻の 反応が心配だった。
にえ これは夫婦愛が微笑ましいお話だったよね。
すみ 男がほしいのが、ピンクの大理石でできた尻っていうのが可笑しかった。
<第二の男>
レタリングの仕事をする彼は、ある日自分のドッペンゲルガーに出会った。
にえ いちおう説明しておくと、ドッペンゲルガーっていうのは、 もう一人の自分を見ちゃう現象、もう一人の自分ってこと。
すみ なかなか哲学的、硬質的な文章はこびでした。
<春について>
雪で閉ざされた街に春が近づいた。わたしは彼となにげない会話だけをする。
にえ これはもう、何も起きない短いデッサン。
すみ 何も説明のない、わたしと彼の微妙な関係が気になるところだね。
<静かな部屋>
入院した男に荷物を持っていってやるために、姉弟は男の部屋に入った。
にえ はっきりした説明はないけど、男は自殺したのよね。
すみ 初めて入る他人の部屋に主がいない、これはもう、いろいろ見たくなるでしょう。そういう話。
<嵐>
嵐の夜、電話はなかなかかかってこない。
にえ これもごく短いデッサン。
すみ 嵐の夜に一人暮らし、電話をかけてきてほしいよね。
<灰色の繻子>
マンダは人に迫った死が見える千里眼の持ち主だった。
にえ これはファンタジックな設定で、なかなか楽しかった。
すみ 超能力って子どもの頃に憧れたけど、マンダのような能力を 持つと、社会生活もままならなくなっちゃう。かわいそう。
<序章への提案>
夜、彼女は積み上げた本を順番に読んでいき、ヴィシー水で睡眠薬を飲み、ランプを消し、いったん 寝るが、また起きる。
にえ これも描写に徹した作品。
すみ この女性は不眠症でしょう。それを説明してないところがセンスだね。
<狼>
日本から来たシモムラ氏は、獰猛な動物の絵を描きたいという。彼女はシモムラ氏を島にある動物園に 連れていった。
にえ やっぱりトーベ・ヤンソンは日本びいき? 日本人が美しく描写されていて、感激です。
すみ シモムラ氏のおみやげ、シモムラ氏の絵、見てみたいね〜。
<雨>
平底ボートに老女を乗せた担架があった。
にえ これはまた情景の描写に徹してあって、説明しづらい(笑)
すみ 死の影が色濃い作品だったね。
<発破>
発破を仕掛けるノドマンとヴェクストレム。ノドマンの息子ホルゲルは、彼らを憧れの目で見つめて いた。
にえ 感受性が強すぎて、遊ぶことすらしないホルゲルが、いかにも トーベ・ヤンソン作品的な登場人物でした。
すみ 爆破された石の破片の雨を受けとめるホルゲルの描写が美しかったね。
<ルキオの友だち>
イタリアから来たルキオは、自分のことを語らず、人の話をよく聞き、瑣末なことに感激する、愛すべき大男だった。
にえ 表面的には愚鈍なようで、傷つきやすい心を持ったルキオもまた、いかにもトーベ・ヤンソン作品的な登場人物だね。
すみ これはもっと長い話にもできるのに、短くまとめたのが惜しいような、らしいような。
<リス>
わたしの住む島に、一匹のリスがやって来た。リスとわたしは共棲し、ひとつの冬を過ごすことになった。
にえ 聞いて、聞いて、フィンランドの諸島では、リスが木片に乗 って、島を渡り歩くんですって。潮の流れが悪くて、そのまま沖に流されて死んじゃうリスもいるんです って。知ってた?
すみ リスに気遣う主人公の気持ちが、痛いほど伝わってくる作品でした。