すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「シャルビューク夫人の肖像」 ジェフリー・フォード (アメリカ)  <ランダムハウス講談社 単行本> 【Amazon】
1893年ニューヨーク、人気の肖像画家ピアンボのもとに、ワトキンと名乗る盲目の白髪男性が訪ねてきた。ワトキンの雇い主であるシャルビューク夫人が肖像画を依頼したいてという。夫人邸を訪れてみると、シャルビューク夫人は屏風に隠れ、姿を見せようとしない。 夫人の依頼は、決して自分の姿を見ず、容姿についてはいっさい質問せず、一か月後には肖像画を仕上げるということだった。無茶な依頼ではあったが、法外な報酬に惹かれ、シャルビューク夫人の肖像画に取り組むピアンポだが、ヒントのためにと語られるシャルビューク夫人の生い立ちはあまりにも奇怪で、信じがたいものだった。 しかも、ニューヨークでは次々に女性たちが目から血を流して死んでいくようになった。これもまた、シャルビューク夫人と関わりがあるのだろうか。
にえ 白い果実」から2冊目のジェフリー・フォード作品です。とはいえ、あれは三部作の第1作ということだったけど、こちらはそれとは関係なく、単独の作品。
すみ 「白い果実」が1997年の作品で、この「シャルビューク夫人の肖像」が2002年の作品なんだよね。
にえ そのせいなのか、あっちはちょっとSFチックだったためなのか、「白い果実」はなんとも居心地の悪いような、いいのか悪いのかってところもあるような作品だったけど、こっちはシットリ落ち着いて、いい感じにまとまった小説だったよね。
すみ 私は断然こっちが好きだな。まあ、あっちは三部作の第1作しか読んでないから、判断は保留ってことになるんだろうけど。こっちはもう年間ベスト入り決定だな。すっごく良かった〜。
にえ うん、モロ私たちの好みだったよね。舞台背景から小道具から設定からストーリーから、ぜんぶがピタッと好みに合ってるって感じで。
すみ 舞台は19世紀末、1893年のニューヨークなんだよね。写真というものが出てきてしまったために、絵画は廃れるのか? なんて心配してたら、実際には逆に肖像画を描いてもらうのが大流行、という時代。
にえ 主人公のピアンボは、イタリア系移民の子孫で、強烈な亡くなり方をした父親に、美しいものを描けと言われて画家になった人。
すみ 美術学校でサボットという師匠を得て、才能を開花させかけていたんだけど、いつのまにやら実入りのいい肖像画ばかり描くようになってしまい、サージェントの画風を真似たような肖像画で、とりあえずは世間的にも認められてるって人なんだよね。
にえ 恋人はサマンサという舞台女優で、長い付き合いなんだけど、このサマンサが良い娘なのよね。
すみ そのピアンボのもとに、ワトソンと名乗る、白い顎髭に輪状に残った髪は白髪、目は白濁して盲目、淡い紫色の三つ揃えって感じの男性が訪ねてきて、薔薇色の封筒を渡すの。
にえ それがシャルビューク夫人からの肖像画の依頼なんだよね。
すみ シャルビューク夫人の家に行ってみると、懐かしの師匠サボットの絵のほか、たくさんの高価な絵画が飾ってある、いかにも金持ちそうな家で、案内されたシャルビューク夫人の部屋には、葉の落ちる絵が描かれた日本の屏風が。
にえ シャルビューク夫人はその屏風の向こうにいて、屏風越しに話しかけてくるんだよね。も〜、ゾクゾクするじゃない、この話の展開。
すみ シャルビューク夫人の依頼内容は、シャルビューク夫人の姿はいっさい見ず、シャルビューク夫人からいろいろ聞き出してもいいけど、容姿のことはいっさい質問してはダメ、その上で、一か月でシャルビューク夫人そっくりの肖像画を仕上げてくれっていうものだったんだよね。
にえ 無茶な依頼ではあるけれど、ものすごく高額の報酬なの。金のための肖像画描きを抜け出して、アルバート・ピンカム・ライダーのように、自分が求めるまま自由に絵を描きたいと思いはじめていたピアンボは、この依頼を受けることに。
すみ サージェント同様、アルバート・ピンカム・ライダーも実在の画家なんだけど、この小説のなかに何回か登場するの。こういうのもワクワクしちゃうよね。
にえ んで、シャルビューク夫人の家に通って、質問に答えるというよりは、シャルビューク夫人が一方的に話す生い立ちを聞きながら、シャルビューク夫人の姿を想像することになるんだけど、これがまたピアンボも疑うような不思議な話の連続なんだよね。
すみ そのなかには、降霊術的な占いショーの話が出てきたり、バーナム一座で働いた経験のある男性が出てきたりして、これまた好きパターンだった〜。
にえ で、サマンサやピアンボの友人の画家シェンツも手伝ってくれて、シャルビューク夫人の話が本当かどうかとか、それをきっかけに夫人の姿を見た人を探せないかとか、いろいろ手を尽くすんだけど、そのあいだに、ニューヨークでは、若い女性が目から血を流して死ぬという事件が起きはじめて。
すみ 女性たちはみな、メデューサのカメオを身につけていたりするのよね。話が進むと、バラバラだったものの繋がりが見えてきたりもして、最後の最後までおもしろかった。
にえ 時代背景がしっかりしているせいか、多少、奇怪な話でも、違和感がそれほどなくて、独特の雰囲気が出来上がっていたよね。人間味のある、いい人がたくさん出てくるから、ホッとするところもあったし。なんか最初から最後まで、心が離れずに夢中になって読めたというか。
すみ 「白い果実」があんまり好きじゃなかった人でも、雰囲気的に好きそうだったら、こっちはオススメだね。もちろん、初めての方にも。私たちは、かなり、か〜なり、気に入りましたっ。
 2006. 8.14