すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「空高く」 チャンネ・リー (アメリカ)  <新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
ジェリー・バトルは父から受け継いだ造園会社を早々に息子ジャックへ引き継ぎ、今は週に3日ほど趣味をかねて旅行会社でコンサルタントとして働きながら、ときおり、自分で買った中古のセスナ機での飛行運転を楽しんでいる。 父は施設に預けてあったが、それはだれにも迷惑をかけたくないという父の希望でもあったし、ジャックにはそれなりに悩みもあるだろうが、経営者となったからには口出しはされたくないだろう。娘のテレサはポールというだいぶ年上の作家と結婚するらしい。 60代を目前にして、独身のジェリーは一年前に別れた恋人リタと復縁できないものかと考えていた。
にえ 最後の場所で」からだいぶ間があいたけど、2冊目のチャンネ・リーです。
すみ チャンネ・リーは在米韓国人、で、「最後の場所で」の主人公フランクリン・ハタは、アメリカに渡った在日韓国人だったけど、この「空高く」の主人公ジェリー・バトルはイタリア移民の家系なのよね。
にえ でも、亡くなった妻デイジーは韓国人なんだよね。だから息子のジャックと娘のテレサはイタリア人と韓国人のハーフで、ジャックの奥さんのユニースは、イギリス人とドイツ人のハーフ、テレサの婚約者ポールは韓国人、で、ジェリーが復縁したがっている元恋人のリタはプエルトリコ人。
すみ まあ、人種はいろいろ出てくるけど、人種問題を主題に扱っているわけではないけどね。チラホラと人種差別的な発言をする人が通り過ぎていったり、なぜだかジェリーが自分は人種差別主義者かもしれないと何度か発言しているけど。
にえ 主人公のジェリーは59才、とはいえ、まだ男としての色気も残り、性欲もある男性、ということは……私たちの苦手系(笑)
すみ どうしても感情移入とは逆方向に行っちゃうというか、ちょっとしたことで嫌悪がわきそうになるのを押さえつけながら読むから、妙に時間がかかっちゃうというか、苦戦してしまったねえ。
にえ 日常、そして日常から少しずつ浮かび上がってくる過去ってお話だから、主人公が自分にとって感情移入しやすいか、しやすくないかでかなり変わってきちゃうよね。
すみ うん、私たちにはダメでも、感情移入できそうな方には、ジワジワ〜っと来そうな感じだった。
にえ ジェリーは父親から受け継いだ造園会社を早々に引退して息子に任せ、どうやら息子は遣り手のようで、ジェリーはセスナを買って、引退後の生活を飽き飽きさせないために、旅行会社でアルバイトをして、そこのは前にちょっとだけ付き合ったことのある、今は親友となった女性がいて、なにかと相談に乗ってくれて……と、悠々自適な生活をしている男性、と最初のうちは羨ましいばかりなの。
すみ それがだんだんと、表面的に見えていたものとは違うとわかっていくのよね。
にえ まず、亡くなった妻デイジーのことがあるよね。ちょっとコケティッシュな感じの、魅力的な女性だったらしいんだけど、じつは亡くなるまでにも、亡くなったときにも、いろいろあったみたいで。
すみ リタという女性と出会うことで、ジェリーは立ち直れたみたいだけどね。でも、表面的にはあまりデイジーの死について嘆き悲しんでいない分、痼りは残りつづけてしまったような、だから、リタと長くつきあっても結婚せず、そのせいでリタに去られてしまったような。
にえ やりて社長となった息子のジャックも、じつは問題を抱えているみたいなのよね。贅沢三昧な暮らしをしたがるセレブ妻のユーニスのためか、一見したところでは、うまくいってどんどんも受けているみたいなのだけれど。
すみ 知的で、ちょっと父親からは心が離れてしまっているのかなって感じの娘テレサも、結婚という幸せを目前にしていると思いきや、じつはとんでもない問題を抱えていたのよね。
にえ それに、ジェリーの父親で、85才のポップ。施設の生活に不満を持ちながらも、家族に迷惑をかけずに済むって自分なりに納得して施設暮らしをしているのかと思えば、そこにもいろいろあるようで。
すみ ジェリーはこれまで、見なくて済むものは見ずに済まそうって態度を取っていたようにも感じられたけれど、一気に問題が噴出してきたとき、選ぶのは逃げではないのよね。
にえ そうだね、崩壊、そして再生の物語とも言えるかな。そういうところは好きではあったんだけど、どうしても、リタを追いまくるところとか、その他もろもろ、受けつけなくなりそうでもあったりして。
すみ ラストはこれでいいのかなあと思ってしまわなくもなかったけど、これは宗教観の違いとかで、しょうがないのかな。私がキリスト教徒だったら、もうちょっとテレサに共感できたのかも。そうしたら、ラストに抱く感慨も違っていたような気がする。
にえ うん、もうちょっとまわりの人の気持ちとか、これから先のこととか考えてあげればいいのに、そうしたら選択も違っていたのにって思いながら読んでしまったけど、そのへんは宗教の違いってものが大きな壁になってしまったかもね。
すみ ということで、私たちはダメだったけど、共感できそうな人には良いかもってことで。