すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「四十一炮」 上・下  莫言(モウ・イエン) (中国)  <中央公論新社 単行本> 【Amazon】 (上) (下)
聞いてください、和尚さま、あれは10年前の1990年、と小通は語る。小通の父、羅通は肉料理が上手いので評判の居酒屋の女将”野生ラバ”と駆け落ちして、5年が経っていた。母は廃品集めで財を成し、立派な家を建てた。だが、小通は家なんて欲しくなかった。肉を愛し、肉と話せる肉小僧である小通は、ひたすら肉が食べたかった。牛の肉、豚の肉、犬の肉、ロバの肉、ラクダの肉……小通はすべての肉を愛していた。
にえ ちょっとだけお久しぶり? の莫言さんです。
すみ 莫言で上下ものの長編、となると、濃厚な物語世界をタップリ堪能させてくれ〜と読む前から期待が高まりまくるのだけれど、これはもう、期待通り、期待以上の濃厚で、ストーリーをたっぷりと楽しませてくれる小説だったよね。
にえ うん、もう大満足。物語世界にドップリ浸らせていただきましたっ。大好きな「大河もの」と言える内容だし、「白檀の刑」の処刑みたいな、ついとばして読みたくなる残酷なところもなくて、これはホントに、濃厚な小説を求めてるんだったら、ぜったい読んでと勧めたくなっちゃう。
すみ 登場人物もそれぞれ個性際立って魅力タップリだったしね。「こんな小説読みたかったの!」と叫びたくなるおもしろさ。
にえ もうほぼ百点満点だね。あえて個人的好みを言えば、現在と小通の語る過去が平行して書かれてて、現在については、現実に起きていることというより幻想というか、幻覚みたいな感じなんだけど、これがちょっとなにが起きたかどんどん知っていきたい話の流れをせき止めて、邪魔かな〜と思っちゃったんだけど。でもまあ、そんなマイナスはおぎなってあまりあるぐらいの魅力タップリな小説だった。
すみ しかし、パワフルだったよね〜。考えてみれば、莫言さんってアジアでもっともノーベル文学賞に近い作家とか言われて、中国の文学界でももう重鎮なんでしょう? そういう大御所的な立場にあっても、これだけ力で押し切っちゃうようなパワフルな小説が書けるって凄いかも。
にえ そうだね、デビュー作はパワー炸裂だったけど、その後はって方が多いなかで、これだけパワーを増していく作家さんって珍しいかも。書いても書いても、さらにまた書く情熱、語る情熱がガンガンに伝わってくる作品が書けてるって凄いっ。
すみ 語り手でもある主人公の小通っていうのがまずパワフルなの。この小通の少年時代の話が主軸になるんだけど、まあ、これが凄い、凄い。話が進み、年齢を重ねるとともに、どんどん火の玉小僧みたいになっていくの。
にえ 火の玉小僧じゃなくて、「肉小僧」だけどね(笑) 小通が生まれ育った村は、落とし村。つまり、農業とかじゃなくて、屠殺で成り立っている村なの。
すみ 屠殺というと、単純に牛と豚って考えちゃうけど、中国だから、牛や豚だけじゃなく、犬やロバやラクダなど幅広いよね。
にえ この食べるためのお肉の処理には驚いちゃうよね。増やすために水を加えるだの、ホルマリンを使うだのと、物騒この上ないお話で。いろんな意味で、やっぱり中国は凄い(笑)
すみ 小通は肉に囲まれて育ちながらも、一時期、肉をほとんど食べられないって生活が続いたためか、とにかく肉を食べる、肉を食べたいって情熱が半端じゃないんだよね。
にえ 小通の両親がまたいいのよ。お父さんの羅通は、誤魔化し当たり前みたいな肉業界で、家畜の肉の見積もりで一目も二目も置かれる存在。わりと寡黙で、意外と繊細なところがあるんだけど、やるときはやる男。
すみ お母さんは男勝りの強烈キャラだよね。とにかく目標を決めれば猪突猛進というタイプ。
にえ で、羅通と反目しながらも、羅通が「野生ラバ」と呼ばれる女性と駆け落ちしてからはお母さんを助けてくれた、村長の老蘭っていうのがいい存在感を放ってるんだよね。臨機応変に好々爺を演じてみたり、西洋かぶれの気取り屋に見えたりと、とにかくいろんな顔を使い分けてのし上がっていく男。
すみ 小通の話のようで、羅通の一家と老蘭の愛憎の物語が主だったとも言えるよね。そこには2つの家の、諍いがあったり命を助けられたりの根深い歴史があったりもして。
にえ 対立する二つの力だったり、上下関係のハッキリついた、親分と子分のような間柄となったり、とにかく縺れるだけ縺れて、最後にはこの複雑な絡み合いがどうなるのかと、もう、気になりまくりで読んでしまった。
すみ 男女関係のもつれによる嫉妬だとか、つばぜり合いだとか、そういう愛憎も濃厚に描かれてたよね。
にえ あまり詳しく語ってこれから読む人の楽しみを奪いたくないから、ストーリーについてはこの辺にしておく? とにかくまあ、いろいろありますよ。しかも、進むに連れてどんどん加速して、起伏も激しくなっていくし。
すみ 「四十一炮」っていうタイトルだけど、これはそのまま、41発の大砲を撃つってことでもあり、各章のタイトルがそのまま「第一炮」「第二炮」「第三炮」……と「第四十一炮」まであるの。実際、小通が大砲を持っていたりするんだけど、他にも意味があったりして、このへんのおもしろさもご堪能あれっ。
にえ ホントにもう、楽しみどころ満載だよね。なんだか久しぶりに、ドップリはまって、どんどんページをめくっていくっていう読書ができて幸せだった〜。
すみ まあ、とにかく、ストーリーも登場人物たちも濃厚かつ強烈だから、圧倒されて押しつぶされないようにお覚悟を、ということで、オススメですっっ。