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 「失われた時を求めて 第5篇 囚われの女」 マルセル・プルースト (フランス)
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マルセル・プルースト(1871年〜1922年)
【広辞苑 第四版】フランスの小説家。ベルクソン哲学や精神分析学の影響を受けて、独特の手法でフランス第三共和政の上層社会を深層心理学的に再構成したともいうべき七編一六巻の長編小説「失われた時を求めて」を書いた。
【大辞林 第二版】フランスの小説家。長編小説「失われた時を求めて」は、人間の意識の流れを綿密に追うことによって小説概念を一新し、二〇世紀の新しい文学の出発点となった。
にえ 全7篇中、第5篇まで来ました。読了まで、もうひと頑張りですっ(笑)
すみ とはいえ、ここからちょっと様子が変わっちゃったんだよね。第4篇まではプルーストが生きてるうちに刊行されたもの。で、この第5篇からは遺稿をもとに出されたものだから、キッチリ校正がされてないの。だから、先の話では生きてて再登場するはずの人が死んでしまっていたりとかして、脚注に頼らないと混乱してしまいそうな。
にえ まあ、それほどいっぱいあるわけじゃないけどね。死んでないのに死んだ人は2人だけだったし(笑)。それより、話が急に淡泊になって、サクサク進むようになったという印象が。
すみ 話じたいは、だいぶ佳境に近づいてきたって感じだよね。ということで、ストーリーを知りたくない方はこの先を見ないでくださいね。
にえ 話はちょっと唐突に、語り手はなんと、バルベックからアルベルチーヌを自宅に連れて帰り、両親が留守なのをいいことに、同棲を始めてしまうの。
すみ いくら両親が留守とはいえ、自分の家に結婚もしていない女性を連れて帰って、父親の部屋を与えちゃうなんて、大胆よね〜。現代人の私たちが聞いても、ギョッとしちゃうんだけど。フランス人だと道徳の感覚が違うのかしら。
にえ 母親は知っていて、遠くから心配そうな手紙を送ってくるのよね。かわいそうなお母さん。そしてもちろん、古株女中のフランソワーズはカリカリしちゃって大変。
すみ 語り手はこのことについて、アルベルチーヌをもう愛してはいないけど、関係のありそうな女性友だちと会ったりするのが許せなくて、嫉妬のためにアルベルチーヌを縛りつけておきたくなった、みたいなことを言っているけど、それってちょっと病的?
にえ 欲しがっている高価なドレスを買ってあげたり、ヨットを買うと約束したりして、つなぎ止めるんだよね。
すみ それでも最初のうちは、アルベルチーヌはなんだかんだと理由をつけて外出し、女友達と会っている様子。語り手には嘘つきまくりで。
にえ アルベルチーヌが同性愛関係にあるのは、どうやらアンドレだけじゃなくて、女しか愛せないことで有名な女優のレア、同性愛者と評判のブロックの従妹、それに、第1篇に近所の人として出てきた音楽家ヴァントゥイユの娘で、ボーイッシュななりをして、女性とつきあうヴァントゥイユ嬢とも関係があるみたい。
すみ アルベルチーヌはレアのことも会ったことがないと言ったり、ヴァントゥイユ嬢のことも知らないと言ってみたりするけど、ちょっとカマをかけられると、じつはレアとは3週間も一緒に旅行をしていたりとか、バルベックに3日間だけ行ってくると出かけたときも、じつはバルベックには行かず、女性と一緒に過ごしていたとか、しゃべっちゃうのよね。
にえ それで語り手は嫉妬を燃やし、愛してはいないと言いながらも、アルベルチーヌが出て行ってしまうんじゃないかと恐怖し、アルベルチーヌをつなぎ止めるために、ますますお金を注ぎ込んじゃうっていうんだから、なんというか、悪循環よね〜。泥沼恋愛だ(笑)
すみ あとは、シャルリュス男爵の身辺で、いろんなことが起きるよね。シャルリュス男爵がすっかり溺愛してしまったモレルは、同じくシャルリュス男爵が可愛がっているチョッキの仕立屋ジュピヤンの姪と、一時は結婚するつもりらしいところまでいって、シャルリュス男爵は喜ぶんだけど、男爵には内緒で別れちゃうの。
にえ モレルはほんとにロクでもないやつだからね。男爵にはドイツに留学するとか行って、そのあいだ女優レアと旅行していたみたいだし。
すみ シャルリュス男爵はモレルを音楽家として大成させてやろうと心を配り、ヴェルデュラン夫人のところで演奏会を開かせたりするんだけどね。
にえ 演奏会には貴族たちがこぞってやってきて、ヴェルデュラン家の催し物だというのに、まるでシャルリュス男爵が主人のように振る舞い、シャルリュス男爵だけに挨拶したり、ヴェルデュラン夫人がだれだか知らないふりをしたりするの。ヴェルデュラン夫人はしょせんブルジョワ、名のない庶民っていうわけね。
すみ シャルリュス男爵も、そこでヴェルデュラン夫妻にも挨拶してあげてくださいねって言うべきなのに、そんなことはすっかり忘れているのよね。
にえ ヴェルデュラン夫人のほうは、せっかくナポリ王妃がおいでましても、女主人がずっと側に添わなくてはいけないという礼儀もわからず、やって来た貴族たちのイヤな態度にも、あんまり気づいていない様子よね。
すみ それよりも、モレルとシャルリュス男爵がべったりなのが気に入らないみたい。とにかく自分の開くサロンに集まる人たちが恋仲になったりすると、かならずといっていいほど引き裂こうとする人たちだから。
にえ このオバサンの意地悪っぷりは、ホントに凄いよね。シャルリュス男爵から引き離すために、モレルに、男爵は警察に目を付けられているとか、悪い噂が流れて物笑いの種になっているとか、作り話の嘘を並べ立て、最後にはとどめで、男爵がモレルは従僕ふぜいの息子だと言いふらしているよって、そんな嘘までついちゃうのよね。気取り屋のモレルとしては、それだけはだれにも知られたくない話だから、男爵に激怒しちゃうの。
すみ 急にモレルが自分から離れはじめたのに焦ったシャルリュス男爵は、なにも知らずにヴェルデュラン夫人に、自分のおかげでこういう家に出入りできるんだってわからせるためにモレルを呼ぶなって言うんだけど、当然ながらヴェルデュラン夫人は断っちゃうの。で、ヴェルデュラン家とシャルリュス男爵は不仲に。
にえ それについては、シャルリュス男爵が若い音楽家を強姦しようとしたから、ヴェルデュラン家から追い出されたんだって噂になっちゃうのよね。それもヴェルデュラン夫人が噂を流したのかもねっ。
すみ でも、ヴェルデュラン夫妻にもやさしい一面があるんだよね。昔っからの友人が破産してしまったら、自分たちの生活をちょっと切りつめてでも、その友人がこれまでどおりの暮らしをしてあげられるようにお金を出してあげたりするの。
にえ 独占欲が強い人って、自分の手の内にさえいれば、とっても親切で面倒見がよかったりするよね。
すみ とりあえず、シャルリュス男爵は病気になって、そんなことになっているとは知らずにすんだことは、かえって良かったような。
にえ そうそう、この篇でのお楽しみは、語り手がアルベルチーヌに、ドストエフスキーについて語るところじゃないかしら。プルーストのドストエフスキー論にしばし耳を傾ける至福の時♪
すみ で、最後には、アルベルチーヌがついにある朝、突然になくなってしまう、ということで第5篇は終了。この先はどうなるんでしょうね〜っ。
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