すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「デス博士の島その他の物語」 ジーン・ウルフ (アメリカ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
Death、Island、Doctorの3つを組み替えたタイトルの3編の短編小説に2作を加えた5編の短編集。
デス博士の島その他の物語/アイランド博士の死/死の島の博士/アメリカの七夜/眼閃の奇蹟
にえ <新しい太陽の書>シリーズ全4巻を読み終えていないのに、読んでしまいました(笑)、ジーン・ウルフの短編集です。
すみ とりあえず短編集ってことで、「ケルベロス第五の首」よりは悩まされないし、<新しい太陽の書>よりは取っつきやすいよね。初めてのジーン・ウルフにはこの本を、と勧めていいものなのか、そのへんは微妙だけど(笑)
にえ でも、これが初めてでもいいよね。おもしろかったし。一つ一つの作品に違った味わいがあって、楽しめた。
すみ うんうん、どれも奥行きのあって、練られた精巧さのようなものがあって、じっくり読もうじゃないのって気にさせられたしね。
にえ 個人的には、これを読んでスッキリしたところがあるな〜。「ケルベロス第五の首」を読んだときは、いろんな謎について考えることを楽しみながらも、もしかしたらこのジーン・ウルフって方、投げっぱなしでなんにも考えてなかったりするんじゃないの? とちょっと疑っていたんだけど、この本で緻密に練ったものを書く方だと確信できた。
すみ ディケンズの影響を受けていたりするところとか、意外な気もしたけど、かなりの読書家のようで、真摯な態度で小説を書いている方なのねとわかったし、ホント、疑いが晴れて信用できるようになったってことでも、読んで良かったねえ。この本じたいもおもしろかったし。
<デス博士の島その他の物語>
セトラーズ島にある大きな木造の家に母と暮らすタックマン・バブコックは、母と結婚したがっているジェイスンから本をもらった。分厚くて緊張感あふれる面白い本。登場人物のデス博士やランサム船長はタックマン・バブコックに会いに来た。
にえ 本から登場人物たちが出てきて、少年の生活のいろんな場面に現れ、話しかけるというファンタジックなお話。とはいえ、ジーン・ウルフだから、そこにはヒンヤリとした感触もあたりするんだけど。
すみ その本は、H・G・ウェルズの「モロー博士の島」を彷彿とさせるお話なのよね。登場人物が現れるってだけじゃなく、小説のストーリーも作中作として挿入されていて、それがまたなんとも良い感じだった。
<アイランド博士の死>
治療のために大脳を二つに切られた少年ニコラス・ケネス・ディ・ヴォアは、アイランド博士の島に送られた。そこには、精神疾病の治癒を願っていない少女ダイアンと、凶暴性のある少年イグナシオがいた。
にえ 地球外の、どこかの惑星らしきところ、そこには海とたった一つの島しかなく、その島に主人公である少年と、一人の少女、そしてもう一人の年上の少年、この3人しかいないの。
すみ なぜ、そんなところに連れて行かれたかってのは、だんだんと読んでいくうちにわかってくるんだよね。それがなんというか、残酷で。
にえ アイランド博士っていうのは、人工島を司る人工知能なのかな、なんて読みながら思ったんだけど。話しかけてくるんだよね。
すみ 波とかも話しかけてくるしね。そのへんが本の登場人物が現れる「デス博士の島その他の物語」とちょっと共通しているような。
<死の島の博士>
刑務所の療養所で40年ぶりに冷凍睡眠から目覚めたアルヴァードは、本の登場人物と会話ができるシステムの発明者だった。
にえ これは、本の登場人物と会話ができるシステムを開発した男の話。男は発明したのに権利を奪われ、その相手を殺して刑務所に入れられているようなんだけど。
すみ 刑務所といっても、そのなかでは、受刑者が受刑者の世話を焼いたりする、暮らしがあるみたいだったね。
にえ 開発者であるアルヴァードがディケンズ好きということで、ディケンズの登場人物たちが話しかけてくるシーンが多かった。
すみ これまた、本の登場人物が現れはしないけど、本から話しかけてくるってことで、「デス博士の島その他の物語」とちょっと共通するところがあるのよね。で、この3作が生まれるきっかけについてについても本書に書かれていて、それがかなりおもしろかった。アシモフが関わってるよ〜(笑)
<アメリカの七夜>
テヘランの裕福な家の青年ナダン(ジャアファルザデー)は、アメリカへ行き、消息を絶った。アメリカは化学合成物質により奇形の人々がうごめく、退廃した国となっていた。
にえ これは「千夜一夜物語」を意識して書かれたみたい。「千夜一夜物語」が、西洋人がアラビア世界へ入っていくきっかけとなるお話なら、こちらはアラビア世界からアメリカへ行く青年のお話。
すみ この主人公のジャアファルザデーは、一度だけ女性に「ジャアファル」と呼ばれているよね。「千夜一夜物語」でジャアファルといえば、教主ハルン・アル・ラシッドに仕える大臣の名前で、何度も出てくるお馴染みの登場人物。なにか関わりがあるのかな。
にえ とにかくそのジャアファルザデーは、退廃したアメリカに上陸し、そのまま消息を絶ってしまったのよね。あとから日記が見つかったので読んでみると、そこには芝居を見に行ったことで、一人の女性に恋をしたジャアファルザデーの行動が記録されていて。
すみ ただ、ジャアファルザデーは危ないドラッグを6つの卵菓子の1つだけに注入して、どれに入れたかわからないようにしてから、ロシアンルーレットのように1晩に1つずつ食べているのよね。そのことで、1晩分の謎が残るという、この仕掛けは、ちょっと「ケルベロス第五の首」で悩まされつつ楽しんだ謎解きを彷彿とさせるような。
<眼閃の奇蹟>
超管理社会となったアメリカで、目の見えない少年リトル・ティブは一人さまよっていたが、元教育長のパーカーさんとニッティの二人組と一緒に旅をすることになった。
にえ これは、なんだか愛らしい感じのお話で、これこそディケンズを意識しているなって感じだった。ただし、それで終わるわけもなく、やっぱりジーン・ウルフらしいSF要素が加わってくるのだけれど。
すみ 目が見えず、放浪している少年。その少年に話しかけてくる二人の男性。一人は元教育長で、元教育長らしい口のきき方をするパーカーさん。もう一人は、知性では劣るところがあっても、人としての賢さのあるとっても優しいニッティ。三人で旅をするうちに、少女と出会ったりとかいろいろあったりするのよね。
にえ そんな中でも、リトル・ティブには他の人には見えない別の世界が見えていたりとか、リトル・ティブの存在の謎がわかってきたりとかね。
すみ これは読んでいて、最後が後味悪かったらイヤだな〜と思ってんたんだけど、良い感じのラストだった。ほっ。