=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ケルベロス第五の首」 ジーン・ウルフ (アメリカ)
<国書刊行会 単行本> 【Amazon】
地球から遠く離れた双子の惑星サント・クロアとサント・アンヌ。どちらも今では地球人の住処となっているが、かつては原住民族がいたという。原住民族はどうなったのか? 最初に地球からやってきた、フランス系初期植民者たちによって絶滅させられたのだという説もあれば、なににでも姿を変えられる能力をもっていて、今でも地球人たちの中で、だれにも気づかれることなく暮らしているのだという説もある。 | |
私たちにとっては、初めてのジーン・ウルフ本です。 | |
と言っても、日本ではこれまで<新しい太陽の書>という4部作が邦訳出版されたことがあるってだけなんだよね。世界的に見れば、70年代最高のSF作家の一人であり、現代ファンタジーの第一人者でもあって、その後の作家たちに与えた影響は相当なものらしいんだけど。 | |
読んでまず思ったのは、何でもきっちりジャンル分けしたがる日本人には「なんなのよ?」って言われがちかもなってところかな。SFのようでもあり、ファンタジーのようでもあり、奇譚もののようでもあり・・・。ミックスのようでオリジナル、どこにでも入れそうだけど、どこへ入れても浮いてしまいそうな。 | |
あとは難解さってことになるのかなあ。<新しい太陽の書>4部作を読んでいないから、この小説についてしかわからないけど、たっぷり疑問を残してくれる小説だったよね。 | |
答えなんてあるのかな。解けるところは、ちゃんと読めば誰にでも気づけるようになってるでしょ。それ以外のところは謎だけ残して、ヒントはほとんどなくて、うわ〜、謎だらけで不思議な感触、おもしろかった〜、で終わりにしていいのかなとまで思ってしまったんだけど(笑) | |
そのわりに、読み終わったあと、アレはなんだったんだろう? みたいなことをついつい考えてしまうよね。で、よくよく考えてみると、あ、あれのヒントはあれじゃないだろうか、ちょっとだけなんて気づいたりもして、それだけに終わりにできない〜っ。 | |
さてさて、内容のほうなんですけど、3つの章、というか、3つの別々の話に分かれているんだよね。「ケルベロス第五の首」「『ある物語』ジョン・V・マーシュ」「V・R・T」って。 | |
「ケルベロス第五の首」は、双子惑星のサント・クロアのほうに住む少年の話なのよね。少年には、売春宿を経営しつつ、医者であり、科学者でもある父親がいて、デイヴィッドという兄弟がいて、ミスター・ミリオンという家庭教師がいて、叔母がいて。 | |
不思議なんだよね。世間から隔離されたような暮らしをしていて、父親や叔母とは話しもしたことがなくて、デイヴィッドが自分の兄なのか、弟なのかすらわかっていなくて。 | |
家のまわりの世界はもっと不思議だよ。これは私たちにとってのことだけど。科学が発達した未来的なようであっても、全体としては地球でいうと1800年代ぐらいの風景。しかも、子供たちは親の気が向けば奴隷として売られたりなんて、怖いところも多々あったりして。 | |
それよりももっと不思議なのは、少年に名前がないことでしょ。あとになって便宜上のような名前がつけられるけど、これもまた不可解。 | |
まあ、だいたいのところは、あとになってわかってくるんだけどね。かなり驚愕の真実ってやつだった。ぞぞっとしたな。 | |
「『ある物語』ジョン・V・マーシュ」は、地球から来た人類学者のマーシュ博士が採集した、双子惑星のサント・アンヌのほうの民話。こちらは始祖もののような雰囲気のある、原始の物語よね。 | |
昔々、<石転びの国>というところに、<揺れる杉の枝>という女がいて、双子の男の子を産むの。一人は<東風>のジョンと名付けられ、もう一人は<砂歩き>のジョンと名付けられる。 | |
<東風>のジョンなんていうと、ジョンが名前で、<東風>は渾名のようなものかなと思っちゃうけど、ジョンは男って意味で、男なら誰でもジョンってつくのよね。 | |
なぜか地球から来た人類学者にもジョンってつくけどね。 | |
生まれてすぐ、<東風>は川に流され、行方不明。<砂歩き>は立派な少年に成長し、呪い師のもとへ行くことになり、旅に出る。そこで他の種類というか、他人類というかに出会っていくの。 | |
どうやらこの世界には、<砂歩き>たち「丘人」と、沼地に住む「沼人」、それに矮人で影に暮らす「影の子」と、3つの種族が共存しているみたいなのよね。見た目も生活もまるで違っていて、同じ人系ではあるけど、別種としか言えない。 | |
しかも、捕まえれば食べちゃったりして、仲良く暮らしているとは言い難いしね。 | |
そして、最後の「V・R・T」は、政治的暗殺者として捕らえられ、監獄に入れられた囚人143号のお話。 | |
ここで前の2つの章がかなり繋がるんだよね。こいつの正体はああだったのか、とかわかるし。で、結局、この方とあの人たちは同族なのかな? だとすると、あの人たちの最終目標はなんなんだ? それより前に、「影の子」っていったい・・・。 | |
やっぱりあなたも、ああ、おもしろかった、終わり! にはできてないじゃないの(笑) ということで、読み終わったところが始まりって感じで、まだまだ私たちもこれから悩ませていただきます。わかったこととわからなかったこととか、もうちょっときっちりまとめたいしね。えっと、オススメはどうしようかな。 なんだかんだ言っても、私たちは大好きですってことで。 | |