すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「P・G・ウッドハウス選集2 エムズワース卿の受難録」 P・G・ウッドハウス (イギリス)
                                          <文藝春秋 単行本> 【Amazon】

エムズワース卿シリーズの全短編(エムズワース卿の登場しない、特別収録作品「天翔けるフレッド叔父さん」を含む)に、A・B・コックス(アントニイ・バークリイ)著「文体の問題、あるいはホームズとモダンガール」(バークリイが書いた、もしもP・G・ウッドハウスがコナン・ドイルに代わってシャーロック・ホームズものの短篇を書いたら、という作品「ホームズとモダンガール」入り)も収めたP・G・ウッドハウス選集の第U巻。
南瓜が人質/伯爵と父親の責務/豚、よォほほほほーいー!/ガートルードのお相手/あくなき挑戦者/伯爵とガールフレンド/ブランディングズ城を襲う無法の嵐/セールスマンの誕生/伯爵救出作戦/フレディの航海日記/天翔けるフレッド叔父さん
にえ はい、私たちにとっては、「ジーヴズの事件簿」に続き、2冊めのP・G・ウッドハウス短篇集です。
すみ これは、イギリスの田舎にかなり広そうな領地を有するブランディング城の城主である、第9代エムズワース伯爵のシリーズなのよね。
にえ エムズワース卿が良いの〜。「綿菓子のような頭脳」って言葉が何度も出てくるんだけど、ほんとにボワンとした老伯爵で、人に話しかけられても、ボーッと他のことを考えてるから、ちゃんと返事もできないし、都会が嫌いで田舎暮らしが好きで、かしこまった格好をするのが嫌いで、一人で庭を散策して、美しい花を愛でたりするのが好きで、使用人にすら言い返せない気の弱さがあったりしてって、おじいちゃまなの。
すみ でも、新しい玩具に興奮するところがあったり、農業関係の品評会には情熱を燃やしていたりするところもあるよね(笑)
にえ とにかく穏やかに暮らしたいから、人間関係とかに悩まされたくないのよ。そんな時間があったら、南瓜や薔薇のこととか、豚の飼育について考えたいの。でも、実際には一族がしっかり結びついた伯爵家のことだから、なかにはいろんな問題を起こす身内がいて、あれやこれやと悩まされることばかり。
すみ とくに強烈なのは、妹のレイディ・コンスタンスよね。エムズワース卿に伯爵らしくしろ、身内のだれかについて決断を下せ、と始終ガミガミ言ってるの。
にえ エムズワース卿には、2男2女の子供がいるみたいだけど、ほとんどの作品に出てくるのが次男のフレディよね。このフレディというのが放蕩息子で、さんざんエムズワース卿を悩ませるんだけど、途中からは別の意味で悩ませることに。
すみ 使用人も、執事のビーチが無駄口を叩かない優秀な執事で、いつもエムズワース卿のことを考えてくれているからいいんだけど、庭師頭のマカリスターあたりは、いつも伯爵に無言の圧力をかけてくるようなところがあって、伯爵はいつもタジタジよね。
にえ たださあ、まわりはエムズワース卿を悩ませる人ばかりで、タイトルが「受難録」でしょう、こんなかわいいおじいちゃんが辛い目に遭う話なんて堪えられない、と思ったら、ジーヴズものとはまたちょっと違って、どれも最後はホッと笑顔で終われるものばかりだった。心地よかったな〜。
すみ だいたいの話が、2つか3つ、まったく別の問題が浮上して、最後にはそれが1つになって、うまくまとまるって流れだったよね。それがどれもホントに上手くって、なるほど、そうきたか!って感じなの。あらためて、P・G・ウッドハウスって凄い書き手だなあ、と感心してしまった。どれもホンワカしててもキッチリ出来上がってて、上質の短篇集でした。オススメですっ。
<南瓜が人質>
厄介者の次男フレディが、庭師頭の親戚の娘と逢引きをしていた。頭に来たエムズワース伯爵は庭師頭をクビにしたが、農業祭で優勝できそうな南瓜(かぼちゃ)の世話を任せられる者がいなくなってしまった。
にえ 大きな南瓜と息子の将来だったら、普通は息子の将来のほうが大事なんだけど、エムズワース伯爵には、それほど差はないみたい。というか、南瓜のほうがかわいい?(笑) それでもエムズワース伯爵は大嫌いなロンドンへ行くことになって、そこで大変なことに。
<伯爵と父親の責務>
忠実な執事ミスター・ビーチは、エムズワース伯爵が最近になって伸ばしはじめた、みっともない髭を剃らせるため、辞表を出す決意をした。そのころ、エムズワース伯爵はロンドンでフレディに会い、フレディが離婚の危機にあることを知った。
すみ 結婚したはいいけれど、早くも誤解から離婚の危機を迎えたフレディを伯爵は助けられるのか。って、エムズワース伯爵に大活躍を期待するほうがおかしいのだけれど(笑)
<豚、よォほほほほーいー!>
農業品評会で肥満豚部門の優勝メダルを勝ち取れるはずだったエムズワース卿の豚が、世話係が飲酒による狼藉で牢屋に入れられてから、餌を食べなくなってしまった。伯爵の妹のレイディ・コンスタンスは、姪のアンジェラが貴族の息子との婚約を解消し、牧師の息子と結婚したがっていることに腹を立てていたが、エムズワース伯爵の綿菓子のような頭脳は、餌を食べない豚の心配でいっぱいだった。
にえ レイディ・コンスタンスにガミガミ言われて、しぶしぶながら牧師の息子に会いに行くエムズワース伯爵。ま、基本的には豚のことしか考えてないんだけどね(笑)
<ガートルードのお相手>
義父の経営する会社ドナルドソンズ・ドッグ・ビスケット社で働くフレディは、犬の飼育で名高い叔母のジョージーナにドッグフードを売りつけたがっていたが、まったく相手にされていない。ジョージーナの娘ガートルードは、フレディの同級生で今は牧師のルパート・ビンガムと結婚したがったために、エムズワース伯爵の城に預けられていた。
すみ どうもこの一族、エムズワース伯爵以外は、ふだんは都会で暮らし、娘や息子に問題が生じると、田舎に幽閉するって感じで、エムズワース伯爵の城に娘や息子を送りこむみたい。ガートルードとルパート・ビンガムは結婚の許可を得るため、伯爵に取り入ろうとするんだけど、それが伯爵には邪魔なばかりで。
<あくなき挑戦者>
フレディはあいかわらずジョージーナ叔母にドッグフードを買わせようと悪戦苦闘していた。ガートルードはようやくルパート・ビンガムと婚約できたというのに、テノール歌手のオーロ・ワトキンズに心を移してしまっていた。
にえ この話ではエムズワース伯爵はほんの脇役ってところかな。それにしても、テノール歌手の声の魅力に女性は抗えないようで(笑)
<伯爵とガールフレンド>
エムズワース伯爵は庭師頭にお気に入りの苔の道を砂利道に変えようとせっつかれ、使用人の家族を城の庭園に呼んで開く8月の公休日のことでそれでなくとも憂鬱だったのに、レイディ・コンスタンスにガミガミ言われてうんざりしていた。そんな時、伯爵はグラディスという12、3才の少女と知り合いになった。
すみ これはかなりキュンとくる素敵なお話だった。グラディスはあんまり育ちのよくなさそうな女の子だけど、弟思いで、なぜだか伯爵とは意気投合?
<ブランディングズ城を襲う無法の嵐>
最高の気分で庭から戻ったエムズワース伯爵は、恐慌に陥った。ようやくクビにしたはずの個人秘書ルパード・バクスターが戻ってきていたのだ。レイディ・コンスタンスはエムズワース伯爵のいたずらっ子の孫ジョージの家庭教師として、バクスターをもう一度雇おうとしているようだった。
にえ ブランディング城で次々に発砲事件が! って、空気銃なんだけどね(笑) これは笑えたなあ。
<セールスマンの誕生>
アメリカで開かれる姪の結婚式に出席するため、フレディの家に滞在することになったエムズワース伯爵は、やり手セールスマンとなって自信満々のフレディに、役立たずの老いぼれ扱いをされることに不快を感じていた。ある日、フレディもその妻も使用人も留守で、一人きりで家にいると、豪華版スポーツ百科事典を売っている、感じのいい女性が訪ねてきた。
すみ これはもう、ラストでニンマリニマニマしてしまった。いいな〜、こういう幸せ気分になれる話は。
<伯爵救出作戦>
レイディ・コンスタンスが有能な執事ビーチを辞めさせようとしている。ドッグフードを売りに来ていたフレディは、ドッグフードの購入と交換条件で妻の愛犬をあげてしまったが、相手の女性はいかにも浮気相手と疑われそうな美女だった。エムズワース伯爵の弟ギャラハッドは、すべてを収拾するため、伯爵に指令を出した。
にえ ギャラハットは遊び人だけど知恵者で、まあけっきょく、ぼけた兄貴と頭の回転のいい弟の組み合わせでは、兄貴がいいように使われてしまうのね(笑)
<フレディの航海日記>
ドッグフードのセールスでロンドンに来ていたフレディは、会うことすらできない大口客アーノルド・ピンクニーとの直接交渉の機会を得るため、アメリカ行きの同じ船に乗りこんだ。その船には、アーノルドの娘に求婚したくないのに、顔を見ると求婚したくなってしまう大金持ちのジャドソンや、アーノルドの秘書に思いを寄せるジョー・カーディナルなども乗っていた。
すみ これはエムズワース伯爵が出てこないからちょっと寂しいけど、2組の恋愛模様がおもしろいお話。そして、最後にはやっぱりニンマリ。
<天翔けるフレッド叔父さん>
ポンゴはフレッド叔父さんこと、イッケナム伯爵がロンドンに来るたびに、ひどい目に遭わされていた。なにしろフレッド叔父さんは60を超えているというのに、青年のごとく羽目を外してしまうのだ。今回はもと領地だった郊外の住宅地に行くだけだというので安心していたのだが、急な雨から逃れるため、叔父さんは見知らぬ家に入ってしまった。
にえ これは、なんとも優雅でかっこいいけど、まわりの人は後始末に大変そうなフレッド叔父さんのお話。イッケナム伯爵は長編のエムズワース卿のお話に出てくるから、これもシリーズ内の短篇ってことになるみたい。イッケナム伯爵はエムズワース伯爵とは立場がそっくりだけど、正反対って感じかな。