すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「失われた時を求めて 第2篇 花咲く乙女たちのかげに」 マルセル・プルースト (フランス)
               <集英社 文庫本> 【Amazon】 (3) (4) <筑摩書房 文庫本> (2) (3) 10巻セット

マルセル・プルースト(1871年〜1922年)
【広辞苑 第四版】フランスの小説家。ベルクソン哲学や精神分析学の影響を受けて、独特の手法でフランス第三共和政の上層社会を深層心理学的に再構成したともいうべき七編一六巻の長編小説「失われた時を求めて」を書いた。
【大辞林 第二版】フランスの小説家。長編小説「失われた時を求めて」は、人間の意識の流れを綿密に追うことによって小説概念を一新し、二〇世紀の新しい文学の出発点となった。
にえ はい、それでは第2篇です。ストーリーを知りたくない方は見ないでね。
すみ 第2篇は、第1部「スワン夫人をめぐって」と第2部「土地の名・土地」の2部に分かれているのよね。集英社の単行本だと2分冊で、1冊めの途中から、2冊め全部が「土地の名・土地」で占められているって分量。
にえ まずは第1部の「スワン夫人をめぐって」だけど、スワンもスワン夫人となったオデットも、第1篇とはちょっと違う人みたいになってるの。
すみ そうそう、オデットは意外にもスワンと結婚したあとは、ファッションにしても言動にしても、古き良き時代を守る、貞淑な妻になっちゃってて、ちょっとびっくり。
にえ もっとびっくりはスワンでしょう。英国皇太子の親友だったはずなのに、結婚してからは妻の基準に合わせ、官房副主任の細君ごときが訪ねてきたぐらいで、凄いだろうと吹聴しちゃうような夫に。謙虚で、自慢なんていっさいしない人だったはずなのに。
すみ ヴェルデュラン夫妻のサロンにいつもいた、医者のコタールも意外な一面を見せるよね。駄洒落ばかり言う教養のないオッサンかと思っていたけど、往診に来てもらったことで、実はとても優秀な臨床医だってことがわかるの。それに、ヴェルデュラン夫妻の家以外では、辛辣でちょっと強面キャラに徹しているみたい。
にえ 語り手の家には、ノルポワ侯爵って人が来るようになるの。語り手の父は官房長官で、もと外交官のノルポワ侯爵は今は政治に関わっているみたいで、語り手の父に何かと目をかけてくれていて、語り手の両親はノルポワ侯爵を大尊敬しちゃってるのよね。
すみ 父親は語り手を外交官にしたかったみたいだけど、ノルポワ侯爵が文学を志すことに賛成してくれたおかげで、語り手は外交官への道を歩まされずにすむことになるの。
にえ でも、ノルポワ侯爵は語り手が敬愛する作家ベルゴットのことは好きじゃないみたいで、こきおろされちゃうんだけどね。語り手の書いたものも、ベルゴットの影響を受けすぎだって批判されちゃうし。
すみ でも、ノルポワ侯爵のおかげで、憧れの芝居見物に行けたのは良かったよね。体が弱いことが理由で、これまでは行かせてもらえなかったんだけど。
にえ でもでも、語り手は見るまでに想像を膨らませすぎていたせいか、ノルポワ侯爵も褒める人気女優ラ・ベルマにちょっと失望したりもするけどね。
すみ ノルポワ侯爵に料理の腕を褒められて、フランソワーズは上機嫌。気合いを入れて料理を出したら、一流シェフって讃えられたの。
にえ 侯爵という高い身分の人に褒められたってことより、超一流レストランの味を知り尽くしている人に褒められたことがうれしかったのかな。第2篇ではフランソワーズの階級意識がかなり浮彫りにされていくんだけど、貴族に対しては身構えて、貴族から貴族であることの赦しを請うことを要求しているかのような態度をとったり、低い身分の者には雇い主側の立場に立って威張ってみたり、でも親しくなれば、すっかり低い身分の者どうしの連帯感を持ったり、複雑といえば複雑だけど、わかりやすいよね、フランソワーズの場合は。
すみ 語り手は、第1篇の第3部「土地の名・名」に引きつづき、スワンとオデットの娘ジルベルトに夢中よね。シャンゼリゼ公園で遊んでいるジルベルトに会うのがなにより楽しみ。
にえ でも、なかなかもう一歩が踏み出せないの。
すみ それが、語り手が病気でシャンゼリゼ公園へ行けなくなったことがいいほうに転んで、スワン家に招待されることに。それからは、スワン家に通う日々になるのよね。意外にもレオニ叔母は語り手にすべての財産を遺してくれていて、語り手は貴重な家具などを売ってはジルベルトにプレゼントを買うことに。
にえ 語り手はジルベルトに恋心を抱きながらも、スワン夫人に対して憧れのような感情を抱くのよね。スワン夫人のほうでも、語り手は大のお気に入りとなっていくの。
すみ それがかえって災いとなっちゃうんだけどね。スワン夫人は語り手を気に入るあまり、ジルベルトに語り手の相手をすることを強要し、ダンス教室へ行ったり、友だちと会ったりしたいジルベルトは自由を奪われることに。それでジルベルトは苛々しちゃって、語り手と仲違い。
にえ ジルベルトと絶縁状態になっても、語り手はスワン夫人に会うために、スワン家へ通うんだけどね、ジルベルトのいる時を避けて。
すみ 最終的には、語り手が通りで、ジルベルトが若い男と一緒にいるところを見てしまうことに。これでもうジルベルトへの想いは断ち切るしかなくなるのか〜っ、と、第1部の粗筋はこんな感じかな。
にえ あとさあ、スワン家で憧れの作家ベルゴットと会うことになるよね。語り手は実物のベルゴットに失望してしまうのだけれど。
すみ あとあと、夫が嫌いますから〜、ほほほっとヴェルデュラン夫妻の家に行かなくなったオデットのもとには、ボンタン夫人って人が毎日のように会いに来ていて、コタール夫人も来るみたい。これに関しては、ヴェルデュラン夫人はそうとう頭に来ているようで。
にえ そういえば、日本風サラダとか、日本ではこういう風に言われているとか、日本の生花がどうだとか、やたら日本が出てくるよね。ちょうどこの時代、ブームだったのかな。
すみ どこそこの家では電気と電話を家に引いたんですって、まあ贅沢ね、みたいな話も出てくるよね。これまた、ちょうどそういう時代なのねえ。
にえ で、第2部だけど、2年経って、語り手は祖母とバルベックへ行くことに。
すみ 第1篇の第1部で、隣人のルグランダン氏にバルベックの妹のことをしゃべらせようと、この子はもうじき祖母とバルベックに行くんですよ〜って話をしてたよね。ということは、あれからそれほど時間が経っていなかったってこと?
にえ そうみたい。語り手の年齢がどうにもこうにも把握できないよね。ママン、ママンって5歳ぐらいの幼い坊やみたいだったり、18歳ぐらいの大人に近い年齢のような扱いを受けたり、12、3歳の思春期が始まったばかりの少年みたいにウブで惚れっぽかったり……、とにかくもう読んでいて連想する年齢がコロコロ変わるから、戸惑ってしまう。
すみ とにかくまあ、両親は父の仕事でスペインへ行ってしまい、語り手は祖母とフランソワーズの3人でバルベックに行くことになるんだけど、祖母の勘違いでフランソワーズが別方向へ行ってしまったり、着いたら着いたでガッカリしまくりで、最初のうちはバルベックに失望しっぱなしよね。
にえ ホテルには成功した公証人、裁判所長、弁護士会長の3人組が、パリでいい暮らしをすることもできるのに、あえて田舎暮らしをしていながら、わざと自分たちは田舎者だと卑下して見せたり、いかにもな成金ブルジョワのステルマリアってやつが威張りくさっていたり、あんまりいい雰囲気じゃないよね。
すみ 語り手はステルマリア氏の娘に一目惚れしたりしているけどね(笑)
にえ でも、そのホテルに偶然、ヴィルパリジ侯爵夫人が登場して、雰囲気は一変。ヴィルパリジ侯爵夫人は第1篇の紹介でもちょっと触れたけど、祖母の少女時代の学友で、高い身分でありながらも威張ったところはなく、やさしい思い遣りがあって、本をよく読んで教養の深い人。
すみ ヴィルパリジ侯爵夫人は主人公の希望を叶えるため、教会めぐりに連れていってくれたりするのよね。でも、いかにも侯爵夫人って態度をとらない人だから、公証人、裁判所長、弁護士会長の3人組の妻たちは、偽貴族じゃないかと疑ったりするんだけど。
にえ チンケな女どもよねっ。リュクサンブール大公夫人のことまで疑っちゃうんだもん、見る目なさすぎ。この方はヴィルパリジ侯爵夫人とは顔見知りで、散歩の途中で偶然出会って、語り手と祖母にも気遣ってくれるんだけど。本人は悪気ないのよね、でも、その親切は受け取る側にしてみると、まるで犬猫の扱いを受けたよう。かわいいから、餌を買い与えちゃう、みたいな。
すみ そんな日々のあいだにも、語り手は牛乳配達の娘にも、村の少女たちにも一目惚れ(笑) そのうちに、ヴィルパリジ侯爵夫人の甥、ロベール・ド・サン=ルーが来ることに。
にえ ロベールは金髪青い目の美青年で、ファッションリーダー的存在で、最初の印象はスポーツ好きの、ニコリともしない無愛想な美青年。でも、親しくなってみると、実は人なつっこくて、まじめな文学青年なの。なんか身分の低い女優の恋人がして、本気で愛しちゃってるみたいだし。
すみ 語り手とはすっかり親友になってしまうのよね。ロベールは、読書家と認めたからなのか語り手に敬意を持ってくれてるみたい。あと、ロベールの叔父のシャルリュス男爵が訪れたりもしたっけ。
にえ シャルリュス男爵もまた、無愛想で第一印象は良くないのよね。でもじつは教養深くて、女性のような感性を持つ人だったりするの。
すみ シャルリュス男爵と知り合いになることで、はじめてヴィルパリジ侯爵夫人やロベールやシャルリュス男爵が、ゲルマント家の人たちであることを知るのよね。ゲルマント家といえば、あの、コンブレーのスワン家へ続く道とは違う方向に伸びていた道の先にあった、名門貴族ゲルマント公爵の所有地。語り手にとっては、遠い存在が一気に近くに。
にえ それから、ブロックとの偶然の再会も。ブロックといえば、第1篇にも出てきた、語り手の年上の友人で、語り手の家族に評判が悪かった男の子。ユダヤ人をバカにしたような発言をするけど、実は自分自身が下層ユダヤ人らしいんだけど。ブロックは身分の高いロベールと親しいつきあいがしたくてしかたないみたい。
すみ ロベールはブロックのことが嫌になっちゃうけどね。まあ、あれじゃだれだって嫌になるよな〜。招待されて語り手とロベールはブロックの家に行くんだけど、そこにいたブロックの父親も母方の叔父も、見栄を張って嘘ばっかりつくの。
にえ ブロック自身も語り手に、スワン夫人に関して厭なことを言ったりするしね。
すみ ロベールは休暇が終わり、軍隊に戻ることになるんだけど、語り手には再会を約束しながら、ブロックには遠回しにもう会いたくないと伝えることに。でも、ブロックにはそんな遠回しな言い方は通じなくて、招待されたと勘違い。どうやら押しかけていくつもりらしい。
にえ ロベールがいなくなって、語り手は画家エルスチールと知り合うことになるのよね。エルスチールっていうのはじつは、第1篇でヴェルデュラン夫妻の家のサロンでやたらと名前が出ていた画家ビッシュと同一人物。でも、エルスチールはヴェルデュラン夫妻と付き合っていた過去を今では恥じているみたい。
すみ そりゃそうだよね、偉大な芸術家となりつつあるエルスチールが、あんな俗物的な人たちと親しくしていたなんて、隠したくもなるでしょう。エルスチールのアトリエで、オデット・ド・クレシー、つまり現スワン夫人の肖像画を見つけたりするんだけど。
にえ 祖母はいい影響を受けるはずだと勧めてくれるけど、語り手は画家エルスチールと親しくするより、よく見かける数人の少女たちのグループのほうが気になるみたい。でも、実はその少女たち、エルスチールと知り合いなの。
すみ 実業家や大商人の娘、つまり、プチ・ブルジョア令嬢の集団なんだよね。でも、語り手が恋するのは、そのなかのアルベルチーヌ・シモネという孤児の少女なんだけど。
にえ 孤児とはいっても、アルベルチーヌはだれからも愛される少女で、銀行の理事夫妻なんかにも可愛がられているみたいで、貧しい暮らしをしているわけじゃないけどね。じつはスワン夫人の家にいつもいた、あのボンタン夫人の夫がアルベルチーヌの叔父で、後見人みたいだけど。でも、みんなに愛されるアルベチーヌなのに、ボンタン夫人だけはどうもアルベチーヌが嫌いみたい。あと、ボンタン氏はパナマ運河事件に関わったと噂があって、いかがわしい人物との風評があるらしくて。
すみ アルベルチーヌも良い子なのかどうか、微妙だけどね。なんだかまだ見せていない面もたくさんありそう。語り手は最初のうち、大柄だけど実は病弱で知的な少女アンドレにもちょっと恋してみたり、試験を受けに行ってしまったジゼールに気が行ったりしていたけどね。あと、ロズモンドという少女がいるけど、この子には恋をしなかったみたい。って、4人中3人の確率だ(笑)
にえ とにかく語り手はアルベルチーヌが好きで好きでしかたなくなるんだけど、大丈夫だと思ったのにキスを拒否され、ちょっと気持ちも冷めたような。とりあえず、なにごともなかったように友だちづきあいを続けるけど、アルベルチーヌはパリへ戻る時が来てしまい…。
すみ と、第2篇はここまでっ。で大丈夫かな。だんだんとおもしろいことになっていきそうな予感がしつつ、第3篇へ続く〜ってことで。
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