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 「失われた時を求めて 第1篇 スワン家の方へ」 マルセル・プルースト (フランス)
               【Amazon】 <集英社 文庫本> (1) (2) <筑摩書房 文庫本> (1) 10巻セット

マルセル・プルースト(1871年〜1922年)
【広辞苑 第四版】フランスの小説家。ベルクソン哲学や精神分析学の影響を受けて、独特の手法でフランス第三共和政の上層社会を深層心理学的に再構成したともいうべき七編一六巻の長編小説「失われた時を求めて」を書いた。
【大辞林 第二版】フランスの小説家。長編小説「失われた時を求めて」は、人間の意識の流れを綿密に追うことによって小説概念を一新し、二〇世紀の新しい文学の出発点となった。
にえ 不朽の名作「失われた時を求めて」ですが、いいかげん読了したい! ということで、読むことにしました。
すみ 最初から最後まで読んだという既成事実が欲しい、ただその一心での読書だよね(笑)
にえ そういうことです!(笑) で、翻訳本なのだけど、抄訳版を別にすると今のところ、普通に買えるのは集英社の単行本の全13巻と、ちくま文庫の全10巻の2種類かな。他にもある?
すみ 私たちは集英社の単行本で読みま〜す。見比べると、ちくま文庫とはちょっとずつタイトルとか章の名前とかが違ってるみたいね。でもたぶん、わずかな言葉の違いだから、わかる範囲内だと思うんだけど。
追記:2006年3月、集英社の単行本は文庫化されました。それにともない、上のアマゾンへのリンクも、単行本から文庫本に変更いたしました。
にえ そんなことより大事なのは、たぶん最後まで読みおわったときには「いつかは再読したいね〜」なんてことを言うと思うんだけど、言ってるだけでいつ再読するかわかったものじゃないしってことで(笑)、自分たちのための記録の意味も含めまして、かなり内容そのものに触れる紹介にしていきたいと思ってるんですよ。だもので、これから読むのでストーリーを知りたくないって方は、この先は読まないでくださいね。
すみ あと、私たちは背景となる時代やら政治やらの知識もろくにないし、たっぷり出てくる登場人物をキッチリ把握できる自信もないから、たぶん間違い箇所も多々出るはずなので、私たちの言うことをすべて鵜呑みにしないほうがいいかもってことで(笑)
にえ ではでは、まずは7篇から成る「失われた時を求めて」の第1篇「スワン家の方へ」なのだけど、冒頭はあまりにも有名だよね。ある冬の日に、紅茶に浸したマドレーヌを口に入れたとたん、幼年時代がよみがえる主人公。こうして回想が始まっていく、と。あまりにも有名なんで、これが書き出し部分なのかと思いこんでいたら、違ってたけどね。
すみ この主人公である語り手って名前がないんだよね。先祖を遡る詳しい家系図のようなものもないけど、貴族ではないよね。何代か続いたブルジョア家庭で、贅沢三昧な暮らしができるってほどではないけど裕福で、知的職業に就いて、社会的な地位はきっちり築いているって家柄みたい。
にえ 第1篇は、第1部「コンブレー」、第2部「スワンの恋」、第3部「土地の名・名」の3つに分かれているの。で、まずは第1部。お話はすぐに回想へと入っていき、語り手は、病弱で、本を読むのが好きで、やさしいお母様が大好きというひ弱な少年。
すみ 第1部では、一家はパリの自宅ではなくて、コンブレーという町の、祖父母の家にいるのよね。所有者は祖父母ではなく、大叔母みたいだけど。そのコンブレーの邸宅から伸びる散歩道は2本あって、一方がゲルマント公爵の所有地へ、もう一方はブルジョアであるスワン家へ。これがタイトルにもつながって、貴族へ、ブルジョワへ、という2つの階級への道が暗示されている、ということみたい。
にえ コンブレーの邸宅にいるのは、語り手、父母、祖父母、それに祖母の妹のセリーヌとフローラ、それに、祖父の親の兄弟の娘にあたる大叔母、大叔母の娘のレオニ叔母、で、召使いのフランソワーズというのも重要な一員。
すみ 一緒には暮らしていないけど、アドルフ大叔父というのも出てくるよね。この人は奥さんに先立たれ、女優や高級娼婦たちとの女性関係がひどすぎるってことで、絶縁されてしまったみたい。
にえ なんか語り手である少年が直接の原因になっちゃったみたいよね。語り手が大叔父のもとを訪ねると、そこには軽いイギリス風のアクセントでしゃべるバラ色の服の婦人もいて、大叔父はその婦人のことを語り手の両親や祖父母には話してほしくなかったみたいなんだけど、語り手は全部しゃべっちゃって、それがもとで大叔父は絶縁に。
すみ なにげなく語られているけど、この婦人の特徴は覚えておかなきゃだめよね。あとで、あ、この人かってことになるから。
にえ で、コンブレーの家には、スワンという青年がよく訪ねてくるんだけど、この人は祖父の友人の息子にあたる人。祖母は見下して軽く扱っているけど、実は奥ゆかしい性格だから隠しているだけで、スワンというのはプリンス・オブ・ウェールズの友人であり、ジョッキー・クラブの名士でもあり、社交界ではとても人気があって、語り手の一家が名前しか知らないような貴族の方々の家のパーティーに欠かさず招待されていたりするの。
すみ 教養もタップリあるし、趣味もよくて、かなりの絵画コレクターなのよね。
にえ 祖母がスワンを勘違いから見下してしまっているのは、パリのスワンの家がオルレアン河岸にあるからみたいね。その界隈は上流の人が住むようなところじゃないみたいだから。
すみ あとは、祖母が尊敬する、身分の高い、ヴィルパリジ夫人とか、技師で作家でもあるルグランダン氏とか。あ、ルグランダン氏はスノビズム批判をするんだけど、実は自分がスノッブだったりするの。それから、語り手の年上の友人で、ちょっと変わり者のブロックとか、音楽家のヴァントゥイユとかがおもな登場人物かな。
にえ ヴァントゥイユは大叔母たちのピアノ教師でもあった人で、男の子みたいな格好をしている恥ずかしがり屋の娘を溺愛しているのよね。この娘は同性愛者だと噂を立てられ、ヴァントゥイユは苦しむけど、どうやら事実みたい。
すみ で、第2部では、主人公がスワンになるの。スワンは友人に紹介されて、オデットという女性と出会うんだけど、オデットはどうやら高級娼婦みたい。最初に親からむりやりイギリス人の愛人にされたとかで、ときおり会話のなかに英語をからませるのが特徴。ほら、出てきた(笑)
にえ 私たちの考えるような娼婦とはちょっと違うよね。なんか社交の場の一員として普通にいて、そこでこれぞという男性に紹介されると気があることを伝えて、恋人なり愛人なりになって、なにかの支払いが厳しいとか、馬車の塗り替えをするからとかって理由で、その男性からお金を受けとるようになるって流れみたいで、かなり優雅なの。
すみ 娼家で身を売る娼婦と違って、高級娼婦は自宅に男性を誘うみたいね。で、オデットの美しさはとびきりなの。大きな目が特徴で、たいがいの男性は一目見るなり夢中になってしまうみたい。
にえ 中身はどうかしらって感じだけどね。優雅なのは表面だけで、けっきょくは人としての品性が高いわけでもないし、教養もないし、知性もないし、趣味の良さもないし。
すみ スワンにとっては、オデットの容姿も好みではないんだよね。だからといって、中身にこれといって惹かれるところもなし。でも、オデットの誘いに乗ってズルズルと付き合うようになっていくと、いつしか恋の虜に。
にえ オデットはヴェルデュラン夫妻の毎夜の夜会に通っていて、スワンもそこに誘われるの。ヴェルデュラン夫妻はブルジョワで、貴族たちへの嫉妬心を軽蔑に転化させてるみたいね。とにかく貴族の家に行ったと知られると、もうヴェルデュラン夫妻の家は出入り禁止みたいになっちゃうの。
すみ けっきょく、ヴェルデュラン夫妻の家に集まるのは、決まり切った少人数だけなんだよね。オデットでしょ、もと門番の叔母がいるピアニストでしょ、それに、著名な臨床医のコタールとその妻。
にえ コタールは医師としては認められ、高い身分の患者を多く診察しているけれど、本人は教養もなく、趣味も悪く、くだらない駄洒落ばかり飛ばしている人なのよね。奥さんはもうちょっとマシだけれど、でも、教養その他については夫と同レベル。
すみ まあ、ヴェルデュラン夫妻が教養も趣味の良さもなく、そのくせ気どってるという俗悪な人たちだから、集まるメンバーもそうなってくるでしょう。あと、この人たちの会話のなかには、画家のビッシュって人がたびたび出てくるの。
にえ オデットに誘われ、ヴェルデュラン夫妻の家に通うようになったスワンは、教養も趣味のよさも上品さも持ち合わせ、そういう自分に釣り合うような、最上の身分の人たちとの親交が厚いにもかかわらず、なぜだかヴェルデュラン夫妻のグループと付き合うことに喜びを見いだすのよね。
すみ でも、ここが人間のおもしろいところだよね、最上の人であるスワンが敬愛の念を抱いてヴェルデュラン夫妻とつきあううちに、ヴェルデュラン夫妻のほうがスワンを軽蔑し、嫌うようになってしまうの。
にえ ヴェルデュラン夫人は審美眼ってものを持ち合わせないくせに、自分に絶対の自信を持っているから、スワンが自分たちと合わないところがあるのは、スワンのほうがずっと上だから、とは思わず、スワンが自分たちとつきあえるレベルにない、と判断したみたい。そうなると、このオバサンはかなり意地悪ないびりを始めちゃうのよね。
すみ 貴族をバカにしているってわりには、知性や美意識はないけど身分は伯爵って男フォルシュヴィルをグループに入れ、オデットと付き合わせようとしたりするしね。
にえ 実際、オデットもスワンからフォルシュヴィルに乗り換えようとするの。とりあえずは二股をかけて。というか、オデットは何人の男性とまとめて付き合っているか、わかったものじゃない女性よね。社交界のほとんどの男性と関係があったって話も。女性とも関係を結ぶみたいだし。
すみ スワンはオデットとなかなか会えなくなってから、サン=トゥーヴェルト侯爵夫人邸での夜会に出るんだけど、そこで、どうやらスワン家というのは改宗したユダヤ人の家系で、スワンもそのために上流階級の人たちと親交を結びながらも、どこかで一線が引かれているらしいってことがわかるよね。オルレアン河岸に住んでいるのも、そのためなのかな。とにかく、英国皇太子や侯爵夫人なんかと親友にはなれても、そういう家系の者だということは常に意識され、見えない線は引かれているという立場なのよね。
にえ とにかくまあ、会えなくなってもスワンのオデットへの思いは高まるばかり。そのうちにオデットの容姿も太って衰えてくるけど、それでもスワンはオデットを忘れられず。ってことで、第2部はひたすらスワンのオデットへの思いが綿々と語られているのよね。細かな心の変化やらなにやらが、すべて詳細に把握できてしまう。そして第3部へ。
すみ 第3部では、ふたたび語り手が主人公となるのよね。スワンはすでにオデットと結婚して、一人娘がいるの。赤みがかった金髪に黒い瞳の少女で、名前はジルベルト。
にえ 語り手は、散歩の途中でジルベルトを見かけ、一目惚れしてしまうのよね。初恋だ〜。
すみ 語り手の少年はもう学校に通っていて、学校ではお友だちができると、まず役者の格付けを話題にしたがるみたい。といっても、芝居見物はまだ一度もしたことがなくて、憧れのあまり、あの役者の演技がどうだとかの、人聞きの蘊蓄ばかりが溜まりまくっているみたい。
にえ 憧れといえば、幼心に作家を志す決意がかたまりつつある語り手は、ベルゴットという作家に憧れを抱くのよね。ベルゴットは美しい文章で読者を魅了する人気の作家で、語り手は年上の友人のブロックに教えてもらって、それからはもう夢中。
すみ 第3部は短いのよね。独立しているというより、次の第2篇「花咲く乙女たちのかげに」へ続く前置きみたいな印象だった。さてさて、これからどうなるのでしょう、ということで第1篇はこんな感じでしたってことで。
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