すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「なつかしく謎めいて」 アーシュラ・K・ル=グウィン (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
シータ・ドゥリープ式次元間移動法とは、空港で足止めを食らい、消化不良とストレスにさいなまれながら、硬い椅子に座っていることにより、異次元へ旅立つことができるというものだ。今ではこの方法は知れ渡り、多くの人がシータ・ドゥリープ式次元間移動法で、もうひとつの旅を楽しんでいる。 (15の異次元旅行についてはページ下に)
にえ またまた河出書房新社のModern&Classicシリーズの1冊です。とはいえ、これはアーシュラ・K・ル=グウィンの本が読みたかったからってところのほうが大きいかな。
すみ ル=グウィンって読んだことないから、読まなきゃ〜とずっと思ってたんだよね。それでこれが出たから、とりあえず、と。
にえ でも、これを読んで気づいたけど、ル=グウィンは初めてではなかった。「空飛び猫」と「帰ってきた空飛び猫」を本屋さんで立ち読みしてた(笑)
すみ ひゃー、本屋さん、ごめんなさいっ。
にえ いや、その、立ち読みしようと思って立ち読みした確信犯ではなくて、どれか買おうと思っていて、これなんかどうだろうと開いてみたら、気づくと2冊とも読み終えていたという。とりあえず、他の本を3冊ほど買って帰った日なので赦してほしい(笑)
すみ とりあえずこの本があなたも初めてだったとしても、連作短編集のような感じになっていて、わりと取っつきやすく読みやすくて、初心者向きって感じだったよね。
にえ うん、「空飛び猫」がル=グウィンだとは思いもしなかったのと同じ理由なのだけど、ル=グウィンというと、ゲド戦記シリーズの本格ファンタジーのイメージ、それに、なんだかちょっと難しそうなSF作品の数々のイメージってのがあったから、こういう取っつきやすいのもあるのねとホッとする。
すみ これはまず、設定が好きかも(笑) 瞬間移動でいろんな異世界へ行くって話なのだけど、その行く方法がふるってるの。
にえ 飛行機の乗り継ぎで空港に2時間だ、3時間だ、5時間だと足止め、どこかへ行くわけにもいかず、空港の硬い椅子に座りっぱなし。ストレスが溜まり、消化不良になり…とこの状態が異世界への旅に出る条件なんだよね。
すみ 語り手は、挿絵で見るとそのまんま、ル=グウィンご本人かと思ってしまう容姿の、ちょっとご年配のショートカットのご婦人で、鋭い知性はあるけど、ノホホンとした性格の方。その方のお友だち、シータ・ドゥリープが発明した次元間移動法なのだとか。ちなみに、飛行機もプレーン、次元もプレーン。
にえ 旅のお供には、ガイドブックの「ローナンのポケット次元ガイド」と通訳機、この2つがあれば、安心して出発!よね。
すみ 「ローナンのポケット次元ガイド」じゃ不安だったら、44巻セットの「次元大百科事典」というのがあるそうなんだけど、これは家に置いていくしかなさそう(笑)
にえ ル=グウィンが描き出す異世界については、スタニスワフ・レムの「天の声」を読んだばかりなのでつい意識してしまうんだけど、これは人間、そして人間社会からの延長線にあるものよね。
すみ まあ、宇宙人なら、人間、人間社会の延長で考えてはいけないのかもしれないけど、これはそういうんじゃなく、スポーンと空港から飛んでいく異世界だからねえ(笑)
にえ いや、別に悪いっていうんじゃなくて、真逆のおもしろさ、みたいな? どの世界も、人間の世界に似ていて、もし社会のルールがこれこれこうだったらと仮定したら、人間は、人間社会はどうなっていたかとか、そういうのが興味深く描かれていたり。
すみ それだったら、人間のやってきた過ちを皮肉ったような歴史をもつ人たちの世界もあったよね。異人種の迫害とか、植民地化とか、宗教戦争とか。
にえ そうそう。空想世界を楽しむだけのファンタジックなお話かと思いきや、けっこうシニカル。
すみ 楽しく、心温まる出会いもあるし、なんかホワ〜っとするような世界もあるけどね。
にえ 全体としては、語り手がとんでもないことに巻き込まれて大変なことに、なんてのは最後の章以外にはなくて、ここはこういう世界ですよ〜と15の世界がガイドされていくって流れだから、わりと淡々と読み進める感じかなあ。
すみ うん、先が気になってガンガン読み進めちゃうってものではなくて、ひとつずつ、ゆっくり味わいながら読むって感じだよね。好きそうだったら、ゆったりどうぞってことで。

<玉蜀黍の髪の女>
イズラックには、本をかじる変な熊たちがいる。もとは応用遺伝学によって作られたペットだったらしい。イズラックでは熊だけでなく・・・。
<アソヌの沈黙>
アソヌたちは、ほとんどまったくといっていいほどしゃべらない。子供の頃には私たちと同じようによくしゃべるのだが、成長するにしたがって、しだいに沈黙を守るようになる。
<その人たちもここにいる>
ヘネベット人の容姿は、驚くほど私に似ている。どこからどこまで、すべて同じと言ってもいいほどだ。しかし、ヘネベット語は理解しがたく、考え方もまるで違った。
<ヴェクシの怒り>
ヴェクシは怒りっぽく、口論、非難、罵り合い、つかみあい、怒りの爆発、不機嫌の発作、大立ち回り、確執、衝動的な復讐によって社会生活が構成されている。
<渡りをする人々>
アンサラックでは、次元からの旅行者は西の大洋に浮ぶ大きな島から出ることはできない。アンサラックの1年は地球の24年に相当し、アンサラックの人々は嘴があり、1年に1度、北への渡りに出る。
<夜を通る道>
フリンシア人たちは、村や町単位の人たち、それに家畜やネズミなどと一緒に、同一の夢を見る。
<ヘーニャの王族たち>
ヘーニャは小さな次元で、ほとんどの人が王室のメンバーだ。たくさんの王や王妃、公爵などであるなか、わずかながらの平民が、王族に注目されながら平民らしい暮らしを守っている。
<四つの悲惨な物語>
マハグルは今では平和なところだが、血なまぐさい歴史を持っている。それだけに、帝国図書館におさめられた歴史書は読み飽きることがない。その物語を4つほど紹介しよう・・・。
<グレート・ジョイ>
「ホリデー次元TM」とは、グレート・ジョイ社が運営する観光の島々のことである。たとえば、クリスマス島では、いつ行ってもクリスマスを存分に楽しむことができる。
<眠らない島>
眠らなければ、人間は天才になれるはずだ。この仮説に基づき、オーリチ人は実験対象となる赤ん坊たちを眠らない子供たちに育て上げた。この研究事業を「天才ベビープログラム」という。
<海星のような言語>
私たちの言語は線状に連なっていくものだが、ンナモイの言語は、海星(ひとで)のように放射線状に広がっていく。
<謎の建築物>
コク次元では、ダコとアクの2種の知的生命体がいる。アクは南にある大陸に、ダコは北半球の三つの大陸に住んでいたが、4千年以上前、人口が急増したダコはアクを征服した。
<翼人間の選択>
ガイの人たちは私たちに似ているが、羽が生えている。彼らは科学技術に抵抗を示し、礼儀正しいがよそよそしい。
<不死の人の島>
イェンディ次元には、不死の人たちが住む島がある。危険だと注意されながらも、私は船に乗り、その島へ行ってみることにした。
<しっちゃかめっちゃか>
ズエヒ次元では、美しく幻想的な世界が広がり、美しいズエヒ人の男女がいるそうだ。だが、ズエヒ人はとても繊細でもろく、旅行客が住民の幸せをめちゃくちゃにしかねない。それでも、旅行客はあとを絶たなかった。