すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「天の声」 スタニスワフ・レム (ポーランド)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
MAVO計画は失敗のうちに終わった。MAVO計画に関するさまざまな本が出版され、あまりにもよく知られてはいるが、これはMAVO計画に直接関わった、著名な数学者ホーガス博士による遺稿である。
にえ レム・コレクションとしては3冊め、私たちにとっては「ソラリス」から2冊めのスタニスワフ・レムの本です。
すみ コレクションの2冊めは自伝的作品と議論&エッセイってことで、後回しにしたのよね。「ソラリス」しか読んでないのに、そういうのを読むのはまだ早いかな〜と。
にえ あと、この3冊めは、かつてあのサンリオSF文庫で出ていた「天の声」「枯草熱」の2冊分の長編小説を1冊に収録してあるの。これが2段組でけっこうなボリュームなので、私たちは2回に分けてご紹介ってことで。
すみ でもさあ、この「天の声」は「ソラリス」のあとに読んで良かったよね。けっこう考え方とかに共通するものがあって、理解が深まった気がする。
にえ 「ソラリス」は1961年に発表された作品で、これは1968年に発表されてるのね。読んだときには、どっちが先だろうってわからなかったけど、こっちが後だと知って、なるほど〜と納得してしまった(笑)
すみ 「ソラリス」はロマンス要素もありの、ホントにストーリーを楽しめる小説だったけど、こちらはストーリーはあるけど二の次のような。
にえ ストーリーを楽しもうとしたら、肩すかしだよね。でも、これはこれで楽しめる要素がタップリあって、おもしろかった。
すみ 長い長い序文と、ようやくそれが終わって本文かと思ったら、またもや序文の延長のようなものが続いて、そこまではきつかったけどね(笑)
にえ うん、今にして思えば、あのへんは飛ばしてあとから読んでも良かったかも。名前出されてもだれだかわからないし、なにが起きたかもわからない状態ではチトきつかった。
すみ そこからはおもしろかったよね。予想していたように話が進んでいかないから、ちょっと戸惑ったりもしたけど。
にえ まずは、若い学者ヘイラーとマホウンの二人がまったく違う目的から調べ始めたことを発端にして、それからどんどん変な方向に進んで、最後にはMAVO計画に進んでいくという、その過程からおもしろいのよね。
すみ 星占いだの、D・Ph・サム・ラーザローヴィツなる怪人物が割り込んできたりね。
にえ D・Ph・サム・ラーザローヴィツは名前から物理学者と勘違いされるけど、じつはUFO研究連盟の会員で、政府の陰謀でUFOや宇宙人についての情報が隠されていると主張する人物なのよね。
すみ これはちょっと、なんというか、私たちの知ってる範囲でも似た方がいらしたりして、おお、この時代の、日本以外の国にもいるんだ〜と嬉しくなっちゃったよね(笑)
にえ んで、けっきょくヘイラーとマホウンが偶然つかんだものは、ニュートリノ粒子波によって地球にもたらされた宇宙からのメッセージなの。
すみ MAVO計画の「MAVO」は、「マスターズ・ヴォイス」、つまり「天の声」というわけ。ネバダの砂漠の中の集落に最高水準の科学者たちが集められ、メッセージを解読することに。
にえ ここで政治的な動きがあったり、科学者たちの過去がわかっていったり、さまざまな意見を持つ科学者たちの揉め事的なことがあったりするのよね。
すみ あ、そうだ、これを言ってない。語り手がいる小説なのよね。語り手は生きているうちに伝記がいくつも出版されているような、著名な数学者ホーガス博士。
にえ ホーガス博士の考え方が、かなり「ソラリス」に通じてたよね。たとえばSF小説にしろ、他の惑星の人類を想像するにしろ、私たちは自分たちの延長線で考えるけど、まったく違っている可能性のほうが高いんじゃないかという。
すみ 数学で言えば、絶対的な数式とかが存在して、これはもう不動のものだと考えられるけど、その数字に対する概念そのものが違ってたら、異星人にはまったく通用しないってことだよね。
にえ 「ソラリス」もそうだよね。SF小説で、性格の良い異星人、暴力的で性格の悪い異星人なんてのが現れるけど、それらはみんな、私たちの基準からの延長でしかなくて、実際には、そんなものでは測れない人たちかもしれないという。いや、人って言っちゃった時点でもうだめか(笑)
すみ どうなるの、どうなるのってストーリーを楽しむことを期待しないほうがいいし、私たちでは理解しきれなかったところも多々あったけど、でも、これはこれでかなりおもしろかったということで。