=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ソラリス」 スタニスワフ・レム (ポーランド)
<国書刊行会 単行本> 【Amazon】
心理学者クリス・ケルヴィンは、惑星ソラリスに降り立った。赤色と青色の二つの太陽のもと、ゼリー状の海が唯一の生命体らしきものという、謎に満ちた惑星ソラリスは、100年ほど前に発見されて以来、多くの人々によって、さまざまな研究がなされていたが、 まだなにも解明されていないに等しかった。ケルヴィンもまた、ソラリスで調査研究をする者の一員として加わるつもりだったが、ソラリスの宇宙ステーションでは、なにか不可解なことが起きているらしかった。滞在する3人の学者のうち、ギバリャンは自殺し、スナウトはなにかに怯えて常軌を逸し、サルトリウスは実験室にこもり、出てこようともしない。 戸惑いながらも睡眠をとるケルヴィンだが、目醒めたケルヴィンの前にいたのは、十年前に自殺した恋人ハリーだった。 | |
これは、言わずと知れたスタニスワフ・レムの代表的作品です。スタニスワフ・レムは1921年生まれのポーランドの作家・・・なんて、わざわざ言う必要はないと思うけど、私たちにとっては初めてなのでとりあえず。ちなみに、有名すぎる方の宿命か、もうお亡くなりになってると思ってる人も多いみたいだけど、ご存命です。 | |
あとさあ、今まで知らなかったけど、スタニスワフ・レムはルヴフというところの生まれで、前はソビエト連邦のポーランド領だったけど、現在だとウクライナに属するみたい。だからなんだって言われそうだけど、スタニスワフ・レムの生家がウクライナにあるの?と思ったら、なんか不思議な感じ〜、ねっ。 | |
ホントにそんなことはどうでもよくって、この「ソラリス」なんですが、邦訳としては1965年に、「ソラリスの陽のもとに」というタイトルで出たのが最初で、1977年に文庫化されるにあたり、脱落箇所を補ったものになったそうだけど、これはロシア語版からの邦訳で、ポーランド語の原書からすると、まだ脱落箇所、削除箇所があり、 それで今回、ポーランド語からの完訳版で、「ソラリス」というタイトルで出たのだそうな。 | |
欠如している部分があると、ストーリーじたいが変わるっていうんじゃなく、レムがじっくりと書き込んだ思想的なところが軽くなってしまっている、という認識でいいのかな。とにかくそんな感じみたい。 | |
私たちは「ソラリスの陽のもとに」を読んでないからね〜。削られていた分量は、翻訳者さんのお話によると、翻訳原稿約550枚分のうち、40枚分ぐらいだって。けっこうな量だよね。 | |
「ソラリスの陽のもとに」をすでに読んでいる方で、どんなものかわかればいいや、ストーリーだけ楽しめればいいやって感覚だったら、新訳を読みなおさなくてもよさそうだし、レムの思想を少しでもきっちり把握したいと願っていれば、やっぱり新訳を確認する必要ありかなってところ? どうせ再読するつもりだったのなら、やっぱり新訳でってことになるだろうけど。 | |
さてさて、私たちは「ソラリス」も初めてなら、スタニスワフ・レムを読むのも初めてなのだけれど、さすがにこれは、説明的な地の文が多いハードSFだったね。 | |
全部を理解できたとはとても言い難いけど、読み終えてみると、根本的な考え方を覆されたというか、ものすごく単純なことに気づいてなかったなと驚いた。 | |
話しはじめたところを邪魔して悪いんだけど、この小説ってレムの思想がきっちり書かれているのだけれども、いろんな要素が含まれた小説でもあって、読む人によって受けとるものが違ってくるみたいだよね。いろんな読み方ができるって。 | |
そうそう。内容を先に軽く説明しておいたほうがいいかな。ケルヴィンという心理学者が調査研究のために、惑星ソラリスっていうところに行くんだけど、そこが不思議な星なの。 | |
地球のように太陽のまわりを回っているんじゃなくて、赤い色をした太陽と青い色をした太陽に両側から引っぱられているのよね。 | |
陸と海のある惑星だけど、その二つの太陽のため、生命体は存在しないと長く思われていたけど、じつは海がひとつのまとまった生命体らしいということに。 | |
ひとつの星にひとつの命。星の王子様と同じだけど、大違い(笑) | |
で、ケルヴィンがソラリスに着いてみると、ソラリスにいる3人の学者のうち、1人は自殺しているし、1人は様子がおかしくて、なんかハッキリしなくて変なことばかり言ってるし、あとの1人は実験室にこもりきり。 | |
どうしたんだろうと思いつつ眠って、目醒めたら、10年前、自分が原因で自殺した女性ハリーが、自殺したままの年齢で、そこにいるの。 | |
しかも、ハリーはどうやっても殺せない、消せない、そしてケルヴィンから離れられないみたいなのよね。他の人にもどうやら・・・。 | |
ハリーはどこからどうやって現れたのか、消えてくれないものなのか、ソラリス、そしてソラリスの海とはいったいどういう生命体なのか、などなどの謎とともに、ケルヴィンとハリーの切ない愛の行方も気になったりして。 | |
それでね、私が思ったのは、広い宇宙には人間とはまったく違う生命体が存在するかもしれないって思うでしょ。でも、その「まったく違う」っていうのがすでに、人間を基準にして考えていたなってことなの。人間のように道徳心とか、罪悪感なんてまったくないかもしれないとか、 人間のような個人的感情を持っていないかもしれないとか、「違う」ってことじたいがすでに人間を基準にして考えていたのね。でも、そうではなくて、もっと根本的なところから比較のできない「まったく違う」存在かもしれない、というか、そもそも人間を基準に考えていたことがおかしかったのかもしれないと、 そういうことを思ったの。 | |
人間って傲慢だからね。レムさんに遠い星へ連れていってもらって、そこから振り返ったとき、宇宙の広さをあらためて意識したり、自分たちの小ささにあらためて驚いたりするよね。それにしても、神か・・・考えちゃうな。私は神ウンヌンと言われたところで、神を引き合いに出したことで、ここまでの積み重ねが一気に軽くなってしまったんじゃないかな、なんてちょっと思ったりもしたんだけど、 読み終わってから繰り返し思い出してしまうのは、その箇所だったりするのよね。ああでもない、こうでもないと考えたりして。神というより、創造主を考えるって言った方が近いかな。 | |
読んでるあいだはおもしろかったり、難しくて苦労したりしだったけど、読み終わったあとの余韻がなんともいえないね。これから先も、ふと思い出して考え込んでしまいそう。 | |