すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「枯草熱」 スタニスワフ・レム (ポーランド)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
50代を迎えようとするアメリカ人の元宇宙飛行士ジョンは、死んだ男の名前アダムズを使って、生前のアダムズの足跡を忠実に追っていった。 死んだアダムズは、あわせて11人、もしかしたら12人にもなる奇怪な死を遂げた男たちの一人だった。この旅で、その謎を解く鍵が見つかるはずだった。
にえ これは国書刊行会のスタニスワフ・レム・コレクションの第3回めの配本に、「天の声」と一緒に収録されています。
すみ 趣は「天の声」とまったく異なるよね。「天の声」は科学を哲学的に考察するエッセイのような趣もあったけど、こちらは純然たるフィクション、しかも、ミステリなの。
にえ ちょっと風変わりな味のミステリではあるけどね。やっぱりレムの主張が垣間見えるようなところもあって。でも、宇宙の話とはまた違うから、じつは犯人は宇宙人じゃないかとか、そんなことを考える必要はありません(笑)
すみ 「枯草熱」って、「かれくさねつ」と読むと思ったら、「こそうねつ」だって。これだとなんのことかと思うけど、じつは私たちがよく知っている、いわゆる「花粉症」のことなのよ。
にえ この小説が初めて訳された1970年代には、まだ花粉症が一般的に知られていなかったのよね。それで、英語からの直訳で「枯草熱」としたらしいんだけど。
すみ 日本だと、植物アレルギーといえば、まずスギ花粉だけど、ヨーロッパでは19世紀に、牧草を干すときにアレルギー症状を起こすことがあるとわかって、それで英語では”hay fever”と呼ばれるようになったんだって。なるほど〜。
にえ でもさあ、「花粉症」ってタイトルの小説が読みたいか、意味がわからなくても「枯草熱」ってタイトルの小説が読みたいかって訊かれたら、だんぜん後者だよね。だから、この小説のタイトルはたしかに「枯草熱」のままで良いのでしょう。
すみ この小説の主人公であるジョンがこの枯草熱、つまりは花粉症だったのよね。
にえ ジョンは宇宙飛行士だったんだけど、辞めなくてはならないことに。なんでかというと、花粉症だったから。火星に行って花粉症の症状が出る可能性はないのに、アレルギー症患者だって認識で、あっさり脱落してしまったみたい。
すみ 同じ花粉症を患う身としては、同情を禁じ得ないよね(笑)
にえ で、未練を残しつつも、もう50代に突入しようかという年齢で、宇宙から戻り、地球で暮らさなくてはいけないことに。選んだ仕事は探偵家業。
すみ ストーリー展開としては、通常のミステリのように事件があり、謎を解くって流れなんだけど、最初のうち、というか、話がかなり進むまでは、どういう事件を捜査してるのかわからないのよね。
にえ そうなのよ、だから、普通のミステリの紹介だったら、これこれこういう事件があり、主人公はこういう人ですって説明になるけど、これはどんな事件が起こったのかってのもお楽しみにとっておいたほうがよさそう。じゃあ、なにを話そう?(笑)
すみ まあ、とにかく最初っから。ジョンは、アダムズと名乗って、ナポリ、ローマ、パリと旅するのだけれど、これは死んだアダムズという男とそっくり同じ行動をとるためなの。
にえ なにが起きたかサッパリわからない事件だから、アダムズの足跡を追うことで、そのなにが起きたかをまず知ろうというところよね。
すみ それどころか、ジョンの身にアダムズと同じことが起きればいいと思っているみたい。それが事件の全貌を解明する、一番の近道だから。
にえ とにかくそれだけのことをする価値はありそうな事件なのよね。なにしろ死んだのはアダムズだけじゃなくて、アダムズと似た年格好の男性11人以上だから。
すみ とにかくまあ、起きた事件も凄いけど、その謎解きにもビックリだよね。これは読みながら考えて解けるレベルではないわ。
にえ それまでに起きることも、なかなか凄いけどね。まあ、ミステリとしては好き嫌いが分かれるところかもしれないけど、読ませてくれる面白い小説だったことはたしか。
すみ 好きでも嫌いでも、頭のいい人が書いた小説は違うな〜と感心するのもたしかだよね。まあ、とにかく、「天の声」と同じような作品だったら、さすがに読み疲れちゃっただろうけど、まったく毛色の違う作品が収録されているおかげで、1粒で2度美味しい本でございましたってことで(笑)