=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「アムニジアスコープ」 スティーヴ・エリクソン (アメリカ)
<集英社 単行本> 【Amazon】
震災後のLAで、パレスチナ・テロリストたちが運営するホテルの一室に住む私は、新聞で映画評を書いている。もとは作家で、何冊かの著作があるが、どれもたいして評判にはならなかった。 | |
私たちにとっては2冊めのエリクソンです。 | |
「黒い時計の旅」とは打って変わって、LAが舞台の現代物だったね。主人公はエリクソンの分身的な存在で、吃音に悩まされた過去にコンプレックスがある、様々な女性遍歴を持つ独身男性。 | |
とんでもない映画評を書いたことで引き起こした事象と、新聞社での人事的な顛末、それから、恋人のヴィヴと作った映画のことを除くと、あとはほとんど過去と現在の女性遍歴が綿々と。 | |
女性遍歴っていっても、何も全員と肉体関係を結ぶってことでもなかったけどね。いろんな出会いと交流があって。 | |
まあ、ともかく、あくまでも主観的な感想と念のために前置きしてから言うと、おもしろくなかった。この本、私には全然おもしろくなかった〜。 | |
ははは、あんまりストーリーとかはなかったよね。 | |
おもしろくないなあと思いながら読んだから、そういうことばっかり考えちゃったんだけど、男性作家の書いた主人公ってよく、過去に女性とあんなことをした、こんなことをしたって細かく回想するよね。こういうのって、思い出される女性からすると、勘弁してよ、金払うから忘れてよって感じじゃないのかなあ。ちょっと個人的には気持ち悪く感じちゃうんだけど。 | |
まあ、それは男性の繊細さというか、センチメンタリズムみたいなものから来る記憶力の冴えみたいなものじゃないの。べつにタイトルのアムニジア=記憶喪失に引っかけて言ってるんじゃないけどね(笑) | |
「黒い時計の旅」を読んだときには、アメリカであんまり評価されていないってのが不当だと思ったけど、これ読んだら、そりゃしょうがないと思っちゃったってのが正直なところ。こういう湿度の高さというか、内向的グジグジ感は、日本で受けてもアメリカじゃ厳しいでしょう、なんて思ったりして。 | |
なんかだんだん自分が気に入らないからって悪く言い過ぎる方向に行ってるよ。私もおもしろかったか、おもしろくなかったかと訊かれれば、全然おもしろくなかったですよ、なんだけど、合わないってだけだと思うんだけど。 | |
まあ、でも、こういうのって男性読者がグッと来ればいいんだろうな。酒飲んでて男友達が過去の女の話とか延々やられちゃったら、アホらしくなって帰っちゃうだろう私なんか読者対象じゃないよってことで(笑) | |
そうそう、私がちょっと惹かれたのはジュスティーヌの話。これは巻末解説で触れられてなかったし、対象となってるアメリカの読者ならかならず知ってるだろうと思って書いてあるんだろうから、話しておかねば。 | |
あ、そうだね。私たちはたまたまテレビで見て知ってたんだよね。ジュスティーヌって名前だったかどうかは忘れたけど、気になってるものを調べてもらうってテレビ番組で、荒俣宏さんが依頼していたお話なのよね。 | |
ジュスティーヌって名前だったということにしておきましょうよ、話がややこしくなるから。LAに行くと、とにかくハリウッドに向かう道とか、そういう特に目立つところに、ジュスティーヌという女性のデッカイ看板がいっぱい立ってるらしいの、もう何年も。 | |
写真はたまに取り替えられてるのよね。どれもジュスティーヌだけが映った写真で、いろんな衣装、いろんなポーズをとっているの。 | |
で、その看板は企業宣伝も何も入っていなくて、ただ、端っこに小さくジュスティーヌって名前と電話番号だけが入っていて、その電話番号に電話しても、「インターナショナル・ジュスティーヌ・ファンクラブ」ってところの留守電に繋がるだけなのよ。 | |
目的がまったくわからないんだよね。それでテレビ番組のスタッフが調べてみたら、ジュスティーヌ本人と面会できることになって、現れたのはピンク色のリムジンに乗って、ピンクのフリフリ衣装に身を固めた女性。今はもう老けちゃったから見られたくないって顔は隠してあったけど。 | |
ジュスティーヌ本人によると、なにを宣伝したいとかじゃなくて、自分の若くて美しかった頃の姿をみんなに見てほしいから看板を出しつづけてるってことだったよね。 | |
一等地ばかりに巨大看板を出すのに、年間いくらかかるんだよって考えただけで青ざめるけど、お金はいくらでもあるみたいだったよね。どうしてお金持ちなのかは話してくれなかったけど。 | |
ジュスティーヌは美人かどうか微妙だけど、蠱惑的で、なんか子供のまま大人になっちゃったって感じの女性ならではの人を惹きつける魅力のある女性だった。そういえば、たしかあの時、アメリカでは流さないってのがインタビューの条件だったんじゃなかったっけ。だからたぶん、エリクソンにとってはまだ謎だけの女性なんじゃないかな、他のアメリカ人同様。 | |
LAの女性たちを語る上では、欠かしちゃいけない存在ってことでのご登場だったんだろうね。あとの実際に知り合う女性も、女優志望だとか、街角に立つ年若い娼婦だとか、とにかくLAならではの女性たちって感じだったから。 | |
とにかくまあ、そこがわからないとジュスティーヌの部分が意味不明になっちゃうかと思ったんで念のため。ということで、本のほうは私たちには合わなかったってことで。 | |