すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「黒い時計の旅」 スティーヴ・エリクソン (アメリカ)  <白水社 uブックス> 【Amazon】
ダウンホール島のチャイナタウンで、唯一の白人女性の子供として生まれたマークの髪は生まれつきまっ白だった。父親はいない。成長したマークは島を出ようと船に乗った。しかし、本土に着いてもバスには乗らず、そのまま船で働きだした。
両親と二人の兄がいる農場で育ったバニング・ジェーンライトはポルノ小説を書く大男になった。16才で血を流し、火をつけて、家を出てニューヨークへ向かった。
にえ ずっと気になっていた絶版本が、白水uブックスで復刊したので読んでみました。私たちにとっては初エリクソンです。
すみ これは予想以上に凄かったね〜、圧倒されまくり。
にえ 高い城の男』と並ぶイフものって聞いてたから、似た感じなのかなと思ったけど、まったくと言っていいほど似てなかったよね。
すみ うん、裏表紙に「仮に第二次世界大戦でドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでいなかったら……。」って書いてあるから、なるほど、ナチス・ドイツに支配された世界を書いたものなのか〜なんて読みはじめたら、戸惑った、戸惑った(笑)
にえ たしかにドイツが敗けず、ヒトラーがまだ死んでないんだけどね。でも、さあ、それで世界がどうなったか見てみましょうって話じゃないんだよね。
すみ じゃあ、どんな話かって説明するのが難しいんだけど。だいたいで把握できたストーリーを語る以外に、この小説の内容を説明する方法があるのかな。
にえ ん〜、わからない(笑) まあ、ぼやかし、ぼやかしで説明すると、マークって青年の話から始まるけれど、全体としては、バニング・ジェーンライトという男の生涯を追った話なのよ。
すみ そうだねえ、そんなふうにでも言うしかないか。そうそう、冒頭にウィリアム・L・シャイラーの「第三帝国の興亡」からの抜粋があって、これがすべてとも言えるよね。
にえ ヒトラーは20才近く年下の若い姪ゲリ・ラウバルを愛し、ゲリは自殺してしまうけれど、ヒトラーが生涯愛した女性はゲリだけだったって話よね。
すみ これは最近になって出た本を読んだり、映画を観た方には違和感があるのかしら? どうでしょう?
にえ この小説にもエヴァ・ブラウンらしき女性がチラッと出てくるよね。美人だけどパッとしなくて、ヒトラーにとってはどうでもいいような存在ってことになってた。
すみ でもまあ、ヒトラーの本当の気持ちがどうだったかなんて、この小説を読む上ではどうでもいいんだけどね。とにかく、この小説はヒトラーが生涯愛した人はゲリだけだったって設定になってる、これが重要。
にえ 最初に出てくるマークって青年は、父親がわからず、母親と二人暮らし、髪は真っ白。てっきりこの青年が裏表紙に書いてあった「ヒトラーの私設ポルノグラファーになった男」なんだと思って読んでいたら、いつまで経ってもどこにも行かない(笑)
すみ 次にバニング・ジェーンライトの話になって、あ、途中から二人が出会うのねと思ったら、いつまで経っても出てこなくて、また、あれっと思うのよね(笑)
にえ 最終的にはわかるけど、ホントに最終的なところに行くまでは、何だったんだって感じだよね。
すみ で、バニング・ジェーンライトのほうは、両親と二人の兄がいる農場で育つんだけど、これがかなりの大男みたいで、その大男が大変なことになって、というか、して、ニューヨークへ旅立つことに。
にえ 巨漢を生かした職業に就いたりするけど、書くってことを止められない男なのよね。
すみ ポルノ小説らしきものを書いてるみたいなんだけど、これがひっそりとこっそりと好評を博し、謎の依頼者がつくことに。
にえ んでもって、デーニアという美人じゃないけど、男性たちの欲望の対象となりがちなダンサーの物語も始まるよね。
すみ なんかもう訳わかんなくて不安になりながらも、とにかく圧倒されるような文章に引きずられるようにして読んでいくと、最後のほうにはそういうことかと納得、しかけるとまた混乱させられるという(笑)
にえ とにかく「黒」って印象だよね。黒い濁流に呑み込まれ、もみくちゃにされて、流れついた先で、わ〜、ここはどこだ〜って叫ぶような読後感。あえていうなら、恋愛ものじゃない黒く濁った愛の物語?
すみ そんなので説明になっているんでしょうか。でも、とにかく凄かった。これはもう一度読み返したい。凄すぎます、オススメですっ。