すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ラヴクラフト全集 6」   H・P・ラヴクラフト (アメリカ)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
幻想と怪奇の作家H・P・ラヴクラフト(1890〜1937年)の作品集(全7巻)。第6巻は短編小説8編、長編小説1編を収録。
白い帆船/ウルタールの猫/蕃神/セレファイス/ランドルフ・カーターの陳述/名状しがたいもの/銀の鍵/銀の鍵の門を越えて/未知なるカダスを夢に求めて
にえ ラヴクラフト全集の第6巻です。これで残すところ、あと1冊か。
すみ ひと連なりの長編で7冊だったら、ものすごく読んだ〜って感じがするだろうけど、こういう短篇集だと、負担もない分、ここまで来た〜って感じもあまりないね。
にえ そうね、いろんな意味で楽よね。月に1冊ずつでも、年に1冊ずつでも読んでいけるわけだし。
すみ それにしても、この第6巻はこれまでとはまったく違ってた。これから読む方は、間違ってもこの巻からだけは読まないようにしましょう。様子が違いますから。
にえ 短篇が8つ、長編が1つで合計9編だけど、すべてに繋がりがあって、ひとまとまりなんだよね。しかも、書かれているのは<夢の国>というファンタジックな幻想世界。
すみ <夢の国>は名前の通り、夢の中でだけ行ける世界なのよね。これまでは現実があって、そこに怪奇現象が起こるとか、怪奇世界へちょこっとだけ足を踏み入れるって感じだったけど、これはドップリ世界に入りこんでるの。
にえ 最後の長編なんて、食屍鬼とか出てきておどろおどろしくもあるけど、美しさもある夢世界を旅するって冒険物語で、完全にファンタジーの世界よね。
すみ とはいえ、<夢の国>は今までのラヴクラフト作品からかけ離れるってわけでもなくて、これまでラヴクラフトが想像して創造したものもしっかり詰まってるのよね。とにかく読み応えのある1冊だった。満足っ。
<白い帆船>
灯台守のバザル・エルトンは満月の夜、南方からやってきた白い帆船に乗りこんだ。帆船はバザルを、満月の輝きで金色に染まる神秘的な南方へと運んでいった。
にえ これはストーリーよりも描写に重きを置いた、ダンセイニ風の美しい、美しい夢の世界のお話なの。好きだなあ、うっとりと酔いしれてしまった。
すみ ダンセイニ風とはいえ、ダンセイニを読む前に書いた初期作品だから、ダンセイニの影響は受けていないんだってね。私はダンセイニというより、「千夜一夜物語」の幻想世界が大きく花開いた美しさだなあ、なんて思いながら読んだのだけれど。ホント素敵だった。
<ウルタールの猫>
スカイ河の彼方に位置するウルタールでは、なんびとも猫を殺してはならなかった。その掟は、猫を罠にかけて殺すのを好む年老いた夫婦と、この地にやってきた放浪者のキャラヴァンに暮らす一人の病んだ少年が飼う、一匹の黒い仔猫の失踪に端を発する。
にえ これは幻想的な<夢の国>の話じゃないっぽくて、これまで読んできたラヴクラフト作品と同じパターンだなと思ったのだけれど、あとで長編「未知なるカダスを夢に求めて」を読んだらしっかり繋がっていて納得。
すみ ついでに、巻末解説でラヴクラフトが猫好きだと知って、さらに納得(笑)
<蕃神>
大地の神々は人に見られることを嫌い、カダスの高い峰に移り住んだ。なかば神とみなされるほど神々の秘密を知り尽くしたバルザイは、若き神官アタルを伴い、神々の顔容を目にしようと山に登った。
にえ これはダンセイニ風の神話的、寓話的なお話。
すみ これも最後の長編に繋がっているのよね。おお、ここで出てくるのかとけっこう感動したりして(笑)
<セレファイス>
夢の世界でクラネスは美を追い求めた。クラネスが訪れた都セレファイスにはトルコ石の神殿があり、蘭の花冠を抱く神官たちが、オオス=ナルガイには時は存在せず、永遠の若さがあるだけだと教えてくれた。クラネスは海と空が出会う魅惑の地へ向かう金色のガレー船を待った。
にえ これもまた、悲しくて美しい夢世界のお話。
すみ クラネスっていうのは、夢の国での呼び名で、現実世界では別の名前みたいなのよね。そっちの名前は出てこないけど。
<ランドルフ・カーターの陳述>
ランドルフ・カーターの友人ハリイ・ウォーランは、古さびた墓場で、平石を取り除いて現れた開口部へ入っていき、そのまま戻ってはこなかった。
にえ ここからは最後の長編まで、ランドルフ・カーターが出てくるお話。ランドルフ・カーターはラヴクラフトの分身のような存在で、世にあまり認められていない幻想作家みたい。
<名状しがたいもの>
ランドルフ・カーターの友人ジョウエル・マントンは非科学的なものには否定的だった。カーターはマントンに、1793年に発狂し、屋根裏に閉じこめられた少年の姿が窓に映るという無人の廃屋の話をした。
すみ これも「ランドルフ・カーターの陳述」も、ストーリーはいつものラヴクラフトの怪奇物。どちらも短いけれど、禍々しさに満ちた暗黒の物語。最初はランドルフ・カーターを夢の国の冒険者とするつもりはなかったんだろうな。
<銀の鍵>
ランドルフ・カーターは30才になったとき、夢の世界の門を開く鍵をなくしてしまった。カーターは祖先たちが住んでいたアーカムの街に戻り、50才を迎えた。
にえ いよいよ夢の国に突入。これは書いたときにそういうつもりはなかったのかもしれないけど、今読むと、導入部というか、序章的な作品だな。
<銀の鍵の門を越えて>
4年前に消えてしまったランドルフ・カーターの財産処分のために集まった人たちのもとに、謎のヒンドゥ人が現れ、ランドルフ・カーターは夢の国でまだ生きているので、まだ財産を処分する必要はないと告げた。
すみ これは謎のヒンドゥ人が語るカーターの行った世界の話が壮大で、オラフ・ステープルドン「スターメイカー」っぽかったな。
<未知なるカダスを夢に求めて>
夢の国にも慣れたランドルフ・カーターは、神々の住むカダスの峰をめざし、<深き眠りの門>から魔法の森へと踏みこんだ。カーターとは馴染みの、森に棲むズーグ族が行く道を教えてくれた。
にえ これはラヴクラフトの唯一の長編冒険小説だとか。ランドルフ・カーターが夢の国を旅するんだけど、いろいろな出会いがあり、危険があり、それを乗り越えての美しい世界、仲間との出会い、そしてまた旅とホントに冒険小説の体裁。旅する世界はけっこうオドロオドロしいのだけれどね。
すみ そんなことより会話部分とかほとんどなく、びっしり文字の書かれたページが続くから、ページ数以上に長いものを読んだ気分だった(笑)