すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「スターメイカー」 オラフ・ステープルドン (イギリス)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
ロンドンで、妻がいて子供がいて、平凡ながらも暖かい家庭を持つ男が、ある夜、ヒースの茂る丘に登り、 郊外の街を見下ろした。と、男は突然、宇宙へと旅だった。闇を越え、星々を通り抜け、時さえも超え、男は人類の住む惑星を探した。それはやがて、<スターメイカー>を探す旅となった。
にえ これは新装復刊本です。オラフ・ステープルドン(1886年〜1950年)は、哲学者でもあるイギリスの作家で、「スターメイカー」は1935年に発刊された著作なのだとか。
すみ 信じられないよね。第二次世界大戦より前でしょ? その時代に書かれたSF小説に、ビッグバンこそが正しい宇宙の始まりだと言い切ってる記述があったり、原子核エネルギーで飛ぶ宇宙船が出てきたり。 同じ時代に日本はどうだっただろうと考えると、なんだか怖れおののいちゃう。
にえ そういう科学的な知識以外でも、古さってものはまったく感じなかったよね。「わあ、古さをぜんぜん感じないわ」なんてレベルじゃなくて、「うそ、信じられない」って狐につままれたような気分になってしまった。
すみ とにかくまあ、なにが書いてあったかを説明するしかないんだけど、上手く説明できるかどうか(笑)
にえ じゃあ、まず本を手に取ったところから(笑) パラパラッとめくってみたら、字がぎっしりでビビリました。読むのを止めようかとも思ったんだけど、冒頭の一行「生の苦さが身にしみて、ある夜わたしは丘に登ろうと外に出た。」にクラクラッと来て、 読みはじめることに。
すみ 読んでみると、意外と普通に読めるんで驚かなかった? 哲学者でもある作家ってことで、かなり身構えたんだけど、文章も難しくないし、内容もおもしろいしで、 普通に楽しく読めていけちゃった。
にえ 夜、丘に座って夜景を見ていた男が、突然、宇宙へと投げ出されてしまうんだよね。で、地球に帰りたくて焦りながらも、けっこう自分の意志で飛べることがわかってくるの。
すみ 体が飛んでるっていうより、魂が飛んでるって感じだよね。物理学的には不可能なはずの速度で飛べるし、星にぶつかったりもせず、すり抜けちゃう。
にえ あとから気づくんだけど、時間に対しても高速で移動できるの。
すみ それからは、星をめぐる旅が始まるんだよね。最初に降りた惑星には、地球人によく似た、緑色の体毛の人類がいるの。
にえ 匂いに異常にこだわる人たちだった。芸術も、音や色じゃなく匂いだし、差別も匂い。科学が発達してるんだけど、ラジオから流れてくるのも匂い。
すみ そこで主人公は、他人に憑依みたいなことができることに気づくんだよね。他の人の体に入って、その人の感覚で外の世界を見て、感じとることができるの。
にえ そんでもって、プヴァルトゥって人と意気投合して、行動をともにするようになるんだよね。そのうちに仲間が増え、大勢で移動するようになるんだけど。
すみ その惑星がどんな歴史的変遷を遂げるか見届けると、さらに、植物人間のいる星や、甲殻人類と魚人類が共棲する星に行って、どんな歴史をたどるか見ていくの。
にえ おもしろい、おもしろいと思って読んでいたら、ちょうど半ばの第8章で、急に哲学的な話が出てきて、あら、と思ったら、第9章からいきなり難しくなって、小説ではないようなものになっていった。
すみ 宇宙の始まりから終わりまでを語り尽くしてるって感じかな。<スターメイカー>っていうのは要するに、宇宙の創造主のことだよね?
にえ まあ、正しいところはご自分で読んで判断していただくということで、私たちがこうだと思ったことを言ってしまいましょうよ(笑)
すみ とにかく、宇宙の創造主が星々を作って、その運命に沿って知的生命体である人類が選ばれた星に生まれ、それぞれの星のなかで同じ人類どうし、共棲する異人類の戦いがあり、やがて完全なる共棲となって、宇宙に飛び立ち、 栄華を極めるが星は命運尽き、人類はその運命を当然のことと受けとめるように静かに終焉を迎え、星の一生は終わっていく。そんなかんじかな。
にえ そうそう、それと同じように銀河系も、それぞれの星のあいだで戦いがあり、やがて共棲することができ、最後には静かな終焉を迎えるのよね。
すみ 人類と人類は、いる星が違っても、テレパシーで交信できるようになって、ひとつの精神体としてまとまることができるんでしょ。
にえ 人類だけじゃなく、星にも意志があり、精神をひとつに結びつけた共同体となれるんだよね。共棲、諸精神の統一ってものに、ものすごくこだわってる人だった。
すみ なんか読んでいくうちに、なによりもまず私は、どうしてこの人はここまで精神的なものに重きを置くのかなって、ごく根本的なことが気になって仕方なかったんだけど。
にえ 私は、これも一種の宗教なのかな、なんて思いながら読んだ。宇宙神信仰だよ。
すみ とにかくこの人なりの、宇宙論が展開されていくのよね。
にえ なんだかとにかく、不思議な考え方をする人だな、こういう話は聞いたことがないよ、と思って、理解しきれたわけじゃないけど、それでも驚きつつ読んでおもしろかった。
すみ これから科学がどんどん発達して、宇宙についてのいろんな謎が解明されて、紆余曲折あって、結局はこの本に書いてあることがすべて正しかった、なんてことになるのかな、なんて思わされるだけの迫力があったな。 個人的には、いくらなんでも精神世界に依存しすぎじゃないか、なんて思ったりもして、そういうことを考えるのがまた楽しかったし。とにかく、まちがいなく読む価値のある本でしたよ、お好みでどうぞ。