すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「小さな白い車」 ダン・ローズ (イギリス)  <中央公論新社 単行本> 【Amazon】
ヴェロニクは恋人のジャン=ピエールと別れることにした。ジャン=ピエールはマリファナを吸い、海外からバンドを招いて人気者にさせるようなことをいつも言っているが、結局なにも実行しないままなのだ。 ヴェロニクはまだ22才、いくらでもやり直せるはずだ。ところが、ジャン=ピエールの部屋を出たあと、停めた車のなかでマリファナを吸ったばかりに、とんでもない事故を起こしてしまった。自分ではまったくわかっていなかったが、プリンセスの命を奪ったあの交通事故は、ヴェロニクの運転ミスが原因らしいのだ!
にえ ダン・ローズの3作めの翻訳本です。私たちにとっても3作めのダン・ローズ。
すみ これは「ティモレオン」みたいに作中に短編小説が組み込まれているってこともなく、ホントのホントに長編小説なんだよね。
にえ なんか原書はおもしろいことになっていたみたい。著者名がダヌータ・デ・ローズという女性名になっているそうで、翻訳本のほうの裏表紙の見開きにも、ダン・ローズの下にダヌータ・デ・ローズの経歴がしっかりと。
すみ もちろん、ダン・ローズが作りだした架空の人物よね。楽しいお遊びではあるけれど、なんでそんなことを? と思ったんだけど、読んで納得。これはイギリス人の男性作家が書いたと思うより、フランス人の女の子が書いた小説と信じて読んだほうが心地いいかも。
にえ それにしても、斬新な設定だよね。いまだにダイアナ元妃の死についてはいろいろと取りざたされているのに、それを茶化すかのようなこの内容ったら。
すみ イギリスの方のこういう感覚には、いつもギョッとさせられるよねえ。主人公の女の子やその友達に、イギリス人の男は恋人として最悪とか、イギリス人はみんなフランス人を見ると、「フランス人は馬を食い、ガチョウにむりに餌を食べさせるんだってね」と言う、なんてそういう茶化しは私たちも気軽に笑えるけど。
にえ 主人公のヴェロニクは22才のフランス人で、写真家になろうとしている会社勤めの女の子。ジャン=ピエールという恋人がいるのよね。
すみ 冒頭で、ヴェロニクはジャン=ピエールとの別れを決めるんだけどね。その後の話で、過去の現在の、他の男性とのつきあいがいろいろ出てくるんだけど。
にえ ヴェロニクの恋愛は真剣みがないというか、なんかフワフワと浮ついた恋愛ばかりだよね。フワフワ〜っと人を好きになるだけで、本気で追いかけるようなこともなく、失恋で深く傷つくこともなく、成り行きでダラッとつきあうような。
すみ ヴェロニクの親友エステルも同じタイプみたいね。二人とも恋愛にかぎらず、なにをやってもフワフワ遊んでるみたいな。
にえ そんなフワフワ娘のヴェロニクが、悪いほうで歴史に名を残すような大事件に巻き込まれるというか、引き起こすというか、とにかくギョッとさせられることに。
すみ ダイアナ元妃の交通事故で、交通事故現場から立ち去った白いフィアット・ウーノの持ち主がいまだに見つかっていないのだけど、そのフィアットを運転していたのが、じつはヴェロニクなのよね。
にえ 本人も良く覚えていないみたいだけどね、マリファナを吸った直後だから。でも、たしかにその時間にそこを通過していて、車に傷を負ってるってのはたしか。
すみ この小説の凄いところはそこからだよね。当然、シリアスになっていいところを、あいかわらずヴェロニクもまわりもフワフワしたまま。
にえ エステルと車を分解してちょっとずつ捨ててしまおうなんて作業をしながら、疲れたから今日はやめてピザとビールを食べようなんて感じだし、そんな中でも恋の相手を見つけようとしたり。
すみ なんにも真剣みがないよね(笑) 本人たちはそんな中でも、けっこう必死で生きてるつもりみたいだけど。
にえ ヴェロニクとエステルは精神的に不安定でもあるみたいだけどね。エステルはもう何度も入院しているし。
すみ まあ、後味が悪いってところでは「ティモレオン」と同じだけど、残酷さは影をひそめて、なんともかわいらしいというか、おしゃれさんというか、甘くてスカスカのフランス菓子って感じだったよね。
にえ これまで2作のダン・ローズを読んだ方は、同じ路線を期待しないほうがいいし、これを最初に読んだ方は、これがダン・ローズだと思わないほうがいいかも。
すみ やっぱりフランスの女の子ダヌータ・デ・ローズが書いたって思うのが、一番ピンと来るよね。なんかまあ、ダン・ローズじゃないと決めつけたにしても、変な感触の小説だったってことで。