すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「暗いブティック通り」 パトリック・モディアノ (フランス)  <白水社 単行本> 【Amazon】
パリの私立探偵事務所で8年以上働いていたギーは、所長ユットの引退とともに、自分の過去を探る調査を始めた。ギーには過去の記憶がなかった。記憶を失う前、いったいなにをしていたのか。記憶を失ってしまうほどの出来事とはなんだったのか。 ゴングール賞受賞作品。
にえ 私たちにとっては、「さびしい宝石」から2冊めのモディアノです。
すみ 「さびしい宝石」1作では、自分たちがこの作家さんを好きなのかどうなのか判断つきかねて、もう1作は読みたいと思ってたんだよね。
にえ これは1979年に講談社から出ていたものの復刊なの。なぜこの時期にこれが復刊かというと、韓国のテレビドラマ「冬のソナタ」が作られる上で影響を与えた小説なのだとか。
すみ それはドラマを見ていない私たちにはあんまりよくわからない話なのだけれど(笑)、とりあえず、「冬のソナタ」とはまったく別物で、共通するのは記憶喪失ぐらいって思ったほうがよいみたい。
にえ ドラマティックとか、純愛ものだとかは、とても言えない小説だったもんね〜。
すみ 「さびしい宝石」でハッキリしなくてモヤモヤしているところが、魅力なんだろうけど、ちょっと私にはキツイなと思ったんだけど、こっちもそうだったな、これはもう、モディアノの作風と考えていいのかも。
にえ ああ、フランスの小説を読んでるなって強く意識してしまうような、独特の美しさも同じだったよね。それがあったから、もうちょっと違う小説があれば読んでみたいなと思ったんだけど。
すみ 「さびしい宝石」は19才の娘が主人公、「暗いブティック通り」はもう若いとは言えなくなってきている年齢の男性が主人公だから、タッチはだいぶ違うんだけどね、でも、やっぱり同じだなという印象は強いか。
にえ 「さびしい宝石」では、死んだことになっている母親探し、「暗いブティック通り」はなくなった自分の記憶探し、ってことで、どちらも消失した過去への思い、みたいなものがテーマにあっているんだよね。
すみ 「暗いブティック通り」のほうが、探偵が調査をするってことで、まだ謎が解けていくところは多いけどね。
にえ いろいろとわかってはくるよね。なにもないところからゆっくりと全貌が浮かび上がってくる感じ。淡々としていて、真実に突きあたっても、おお!という驚きはなかった。
すみ 最後は、え? と驚いたけどね。いよいよすべてがわかると思ったんだけど・・・。
にえ けっきょくはわからないことだらけで、モヤモヤとした読後感だよね〜。自分がなにを読み落としたのかと、すぐに戻って読み返したりしたけど、故意にわからないまま、突き放した状態で終わっているみたい。
すみ その後どうなったかわからなくて気になったままの登場人物もいたしね。
にえ そもそもなにが記憶喪失になるほどの衝撃だったのかも理解しがたかったな。たしかにつらい経験ではあったんだろうけど、う〜ん。
すみ 探偵事務所の所長のユットも記憶をなくした過去があるんだよね。それについては自分で調べて、今ではもう自分がだれだかわかってるみたいなんだけど。
にえ ギーが調べるうちにわかってくるのは、老いるのがいやで自殺した美しいロシア人女性、アメリカに渡って有名な映画俳優のお相手役となった名家の出の男性、競馬の騎手・・・だんだんと過去につながる人物が特定されていくにしたがって、魅力的な物語を期待してしまうんだけどね。
すみ どうなんでしょう、いくらでもドラマティックな物語がつくれそうな設定だけきっちり作っておいて、あとは読者に任せるっていうのは、とてもおしゃれだし、これはこれで凄いことなのかも。でも、ちょっと私たち向きの方ではなかったかな。ハマれる方が羨ましかったりもするけど。