=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「さびしい宝石」 パトリック・モディアノ (フランス)
<作品社 単行本> 【Amazon】
もうすぐ19才になるテレーズは、ラッシュアワーの地下鉄シャトレ駅で、黄色いコートの女性に目を惹かれた。間違いない。その女性は、12年前にモロッコで死んだはずの母、 ソニアだ。いや、ソニア・オドイエというのは偽名だった。本名はシュザンヌ・カルデレス、今はまた違う名前かもしれないけど・・・。 | |
初めて読んでみました。フランスの人気作家パトリック・モディアノの翻訳本です。 | |
フランスでは、「モディアノ中毒」という言葉があるほど人気が高いって書いてあったね。この「さびしい宝石」を読んだかぎりでは、作風が似てるとかじゃなく感覚的には、 日本でいうと吉本ばななさんあたりが近いかなと思ったんだけど。モディアノは男性だけどね。 | |
そうねえ、まあ、理屈抜きで、わかる〜っと思ったら、そのまま好きになるって感じかな。でも、わかる〜って思わなかった人には、かなり不完全燃焼になりそうな小説でもあったんだけど。 | |
ハッキリしないんだよね、なにもかもが。たとえば全設定を100とすると、100ぜんぶ書かれちゃうとそれはそれで興ざめじゃない? こっちで想像する部分も残しといてよってところがある。 70から80ぐらい書いておいてくれると、ほどよいのかな。でも、この小説だと、せいぜい20ってところだよね、書いてあることは。 | |
うん、モヤモヤとわからないことだらけ、他の話をもっとしてほしいのに、同じ話の繰り返しで、わからないところはわからないまま。でも、語り手である主人公テレーズの心情はヒシヒシと伝わってくるような。 | |
18、9才の少女が感情にまかせてそのまま書いたような小説のように思えるよね。でも、じつは書いたのは立派な大人の男性。つまりはどこか切迫してなくて、少し遠くに視点があったりもするわけで、 そのへんがおもしろいかな。 | |
表紙の写真が内容とピッタリだったよね。ひとりぼっちでカフェに座り、爪を噛んでいる若い女性。ミニスカートから出てる脚が綺麗で、でも、髪に隠れた顔は、どこかひとを心配させるような表情を浮かべてるんだろうなと想像させる。 | |
並びの席に座ってる老嬢が気にしてみている視線も、なにか小説そのものだよね。その老嬢が小説のだれかになっているんじゃなくて、知らない女性に対しても、心配して視線を送る人がいるんだっていう暗示的な意味でだけど。 | |
「さびしい宝石」っていうタイトルもピッタリだよね。「さびしい宝石」というタイトルを見て、もしかして私にピッタリの小説?と思った人が読めば、そのまま正解なのかもしれない。 | |
私はもうちょっと物語性のある小説のほうが好きだけどね(笑) | |
お話はね、主人公の少女テレーズが、地下鉄の駅で、12年前にモロッコで死んだはずの母親とすれ違うところからはじまるの。本当に母親なのか、単に似た人なのかはハッキリしないけど。 | |
母親は年齢をごまかし、偽名を使い、アイルランド人の貴族だなんて嘘までついていた、もとクラシックダンサー、その後、女優に転身しようとした女性、なんだよね? | |
モヤモヤっとしてるけど、まあ、そんなところかな。12年前にモロッコで死ぬ前から、テレーズは母親の友人のところに預けられ、母親には会っていなかったの。 | |
テレーズは母親が12年前にモロッコで死んだって信じて育ってきたけど、それが本当なのかどうか、わからなくなってしまっているのよね。 | |
とにかくテレーズはその女性のあとをつけ、その女性のことをほんのチョッピリ知るんだけど、べつにそこから新展開はないのよ。大事なのは、テレーズがものすごく孤独だってこと。母親が死んでないとしたら、あっさり捨てられたってことだもの。 | |
父親はだれだかわからないのよね。たった一人の母親についても、生死どころか正体すらもさだかではない。母親がよくわからないってことは、自分が何者なのかもよくわからない、 母親が認めてくれないなら、自分の存在そのものすらもあやふやに感じてしまう。痛々しいまでのそういう気持ちは、ビシビシ伝わってきたね。 | |
わ〜、暗そうな小説、と思うかもしれないけど、そんなテレーズを心配し、見返りを求めるわけでもなく親切にする人物が二人も現われてくれるの。 | |
その人たちもまた、いろんな過去を持っていそうな、どこか影と、影があるからこその他人の痛みがわかる心の深さみたいなものを感じるけど、それも垣間見せてはもらえなかったね。 | |
テレーズ自身もまた、子守りのアルバイトで行った先で、両親から存在価値をまったく認めてもらえてないみたいな、孤独な少女と知り合い、助けたいなとは思うんだけど、なにもできないのよね。 | |
両親が立ちふさがっちゃうと、他人が手出しできないよね。両親もかなりの訳ありみたいなんだけど、その辺のこともわからないまま。 | |
なんだろう、孤独、それからまったくの赤の他人でも、つらそうにしていれば、つい心配して、手を差し伸べてしまうという人間の底にある善意、そんなものがジワ〜っと伝わってくるような。 | |
きれいな色の絵の具ばかりを使って、めいっぱいにじませて描いた水彩画のような世界だよね。とっても都会的な、冷たいようで優しいような孤独の世界。これはお好みでしょう。 | |