すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「大尉のいのしし狩り」 デイヴィッド・イーリイ (アメリカ)  <晶文社 単行本> 【Amazon】
短篇小説の奇才と呼ばれるデイヴィッド・イーリー(1927年〜)の短篇集第2弾。日本再編集。
大尉のいのしし狩り/スターリングの仲間たち/裁きの庭/グルメ・ハント/草を憎んだ男/別荘の灯/いつもお家に/ぐずぐずしてはいられない/忌避すべき場所/最後の生き残り/歩を数える/走る男/登る男/緑色の男/昔に帰れ
にえ ヨットクラブ」が大好評だったデイヴィッド・イーリイの短編集第2弾です。
すみ 「ヨットクラブ」で強烈な印象が残り、第2弾ってことで、味が薄まってるからな〜と思ったら、そんなことはなかった、こっちも凄いっ!
にえ 同じぐらい良いか、同じぐらい良いと思った時点で、こっちのほうが上と言った方がいいのか、とにかくイーリイ節とでも言いたくなるような独特の異様なおもしろさがこちらも全開で、大満足の短編集だったね。
すみ やっぱりこの方は短篇がよいね。これほどひとつずつがビシッと決まっていると気持ちがいい! またしても薄ら寒くなる恐怖をタップリ味わわせてもらいました。ということで、オススメっ。
<大尉のいのしし狩り>
第二次世界大戦末期、屈強なテネシーの山の男たち、マフェット、ロフタス、ヤードリー、バーの4人は優秀な兵士ではあったが、軍隊生活の規範など無視していた。それでも優秀な働きにより大目に見られていたが、新しく赴任してきた、やたらと規律に厳しいフィッチ大尉には、彼らが特別だということがわからなかったらしい。
にえ これは、やっぱりそうなっちゃうのね〜と中盤では思い、あら〜そうなりますか、と最後に思った。
<スターリングの仲間たち>
忘れがたいほど下手な絵を描き、その下手さまで自慢する、売り込み上手のスターリングは、若い画家や作家たちの仲間の嫌われ者だった。ハムステッドのコーヒー・ショップ<フィービの店>では、仲間たちがスターリング殺害を計画しはじめていた。
すみ スターリングみたいなやつは、何を言っても通じないから、周りの人たちは苛立つばかり。殺してやろうかと思うものよね。でも、本当に殺すとなると話は別なのだけれど。そのへんの感情のもつれぐあいがビシッと書かれたお話だった。
<裁きの庭>
退役軍人のダンス少佐は病み疲れていたが、金がないのでどうしようもなかった。古物商に預けてあるマハラジャから贈られたパイプは今日も買い手が見つかっていなかった。古物商は長く行方しれずとなっていた名画「裁きの庭」を安く手に入れたことをダンス少佐に自慢した。
にえ 「裁きの庭」を描いたロイテンヴァルトという画家は、毎年の誕生日に、自分の歳と同じ数の人間を描いた絵を描くことで有名。この設定がおもしろいな〜。オチは読めても(笑)
<グルメ・ハント>
フランスの最高の美食家モンギーズ公爵は、人の息の匂いだけで、その人の夕食のメニュー、そして使われた素材までもすべて言い当てるほどができるほど、食に鋭敏な男だった。ある日、モンギーズ公爵は失われつつあるイタリアの食の美を最後に味わい尽くそうと旅に出る決意をした。
すみ イタリアに旅立ったきり、もどらないモンギーズ公爵。モンギーズ公爵を探しに行くことにした12人の仲間たち。滑稽でおもしろおかしく、それでいて悲劇的なお話なの。
<草を憎んだ男>
うなるほどの金を持ち、巨漢で血色もよく声の大きいハーマン・ベックリーは、6人目の妻を連れて、ローマに滞在していた。ローマでは古い屋敷を購入した。なんでも自分の思い通りにならないと気が済まないハーマンは、妻が屋敷の庭にある2本の藤の木に惹かれているのが気に入らなかった。
にえ 美しい伝説のある古い2本の藤の木、傲慢でなんでも思い通りにしたがる男。場所柄から、ちょっと神話のような風情もある、でも、なかなか残酷なお話でした。最後には、この先のことを思ってニヤリとしちゃったけど。
<別荘の灯>
夏の別荘に滞在するカールとポーリーンのベイズ夫妻はおかしなことに気づいた。小さな屋外灯のほかはすべて電気を消して出掛けるのに、戻ってくると別荘のどこかの明かりがかならずついているのだ。電気屋に来てもらったが、システムにはなんの問題もないと言われてしまった。
すみ いないあいだに明かりがついているという、ほんのちょっとした怪奇現象。それが「ほんのちょっと」では済まず、意外な悲劇を引っぱり出してきちゃうなんて。
<いつもお家に>
出張の多いピーターは、一人で家に残されるテレサのため、防犯設備の行き届いた庭付きの家を購入した。数々の防犯装置のひとつには、留守中にだれかが家にいるように見せかけるための「いつもお家に」というものがあった。
にえ 防犯装置「いつもお家に」は、家の中のあちこちの電気が点いたり消えたり、人の影が窓に映ったり、話し声がしたりするの。一人で家にいるテレサは、寂しさを紛らわそうと「いつもお家に」を作動させ、それでとんでもないことに気づくの。最後のほうがすごい迫力だった。
<ぐずぐずしてはいられない>
大物のライヴァルまでも出し抜き、勝利と大きな富を得た実業家キップ氏は、心臓の病を患い、メキシコの辺境にある秘密の病院に向かっていた。
すみ なぜ大金持ちのキップ氏が辺境の地にある病院へこっそりと出掛けていったのか。だんだんわかってくる真実にヒャ〜っと思っていたら、ラストでウギャッだった(笑)
<忌避すべき場所>
ドイツ人のリゾート開発業者バウアーは、かつて兵士だったころに駐屯していたイタリアの荒れ地をリゾート地に変えてしまおうと励んでいた。しかし、建設工事に雇っている地元の労働者たちは、なにを怖れているのか、ちっとも仕事を進めようとしなかった。
にえ これは完全にしてやられたっ。そういうことですか、うまいこと導かれた〜っ、悔し〜っ(笑)
<最後の生き残り>
ロサンゼルスの冴えない宣伝エージェントであるキャラウェイは、フィリピンのジャングルで年老いた日本兵が見つかったというテレビのニュースに、儲けのアイデアを思いついた。さっそく頭の弱そうなビリーという男を見つけ、無人島に連れて行って太平洋戦争の生き残りに仕立て上げることにした。
すみ これは小野田さん発見のニュースを見て思いついたお話みたい、ビックリ。んでもって、意外にも美しいラストに感動してしまった。
<歩を数える>
自宅で病気療養中の弁護士バロウ氏は、自分が死にかかっている気がしてならなかった。しかし、もうろうとする意識のなかでやっていることは、化粧ダンスと天上のあいだの壁紙に描かれた正方形の列を数えること、ポケットに無造作に入れた小銭を思い出して数えること、玄関ホールまでの階段の段数、勤め先の会社のロビーを横切るのにかかる歩数、子どものころに学校へ通っていたときのクルミの木から樫の木までの歩数・・・。
にえ 記憶もなにもグニャグニャになりながら、几帳面な性格ゆえか、今となってはどうでもいいような数ばかりをひたすら思い出す男性の話。こういう独特な悲哀を書かせたら、ホントに巧いなあ、イーリイさんっ。
<走る男>
ゴールディング氏は、毎朝10時ごろになると波打ち際を走っている若い男が気になった。ある朝、ついにその若者と擦れ違った。若者は突き刺すような悲しみと非難の表情を浮かべていた。それ以来、ゴールディング氏はその若い男につきまとわれることとなった。
すみ 無難に無難に生きてきた男が、人生の終わりかけになって見舞われる悲劇。ちなみに、ここから3つ「〜男」というタイトルが続きますが、べつに連作でもなんでもなくて、話はまったく別ものです。
<登る男>
どんなところでもスルスルと登るリス男、ラザフォードが次に登ろうとしているのは、カリフォルニア州のサンウォーキーン渓谷にある樹齢四千年、世界一のセコイアオスギだった。
にえ 絶対に思ってはならないはずの「下りる」ということを意識しはじめたラザフォードが挑んだのは、世界一のセコイアオスギ。その木の上でラザフォードは意外なものを見るのだけれど。なんとも真に迫るお話だったなあ。
<緑色の男>
軍が考案したシミュレーション実験で、頭を緑色に塗られた少佐はセントラルパークで、だれにも見つからずに4週間を過ごさなくてはならなくなった。話す者もなく、無線機の応答だけが唯一のつながりだった。
すみ 孤独からしだいに狂気に取り憑かれていく男。なにか他人事ではないものがあって、怖いなあ。
<昔に帰れ>
それぞれが職人である7人の若者が、ハーキマー郡の古い農家を借りた。屋根裏部屋のトランクから偶然見つけた1890年代の洋服から、しだいに彼らの暮らしは現代を離れ、1890年代の暮らしへと傾いていった。
にえ 若者7人だけで文明から離れ、1890年代を演じて暮らす。楽しげな暮らしぶりから始まるのだけど、こうなってしまうのねえ。