すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「輝く断片」 シオドア・スタージョン (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
不思議のひと触れ」につづく、奇想コレクションのスタージョン短編集第2弾。
取り替え子/ミドリザルとの情事/旅する巌/君微笑めば/ニュースの時間です/マエストロを殺せ/ルウェリンの犯罪/輝く断片
にえ 最近(今は2005年7月)、シオドア・スタージョンの邦訳本が出まくりで、私たちもそれに合わせて徐々に読みはじめていますが、これは河出書房新社の奇想コレクションとしては、スタージョンの短編集の第2弾。
すみ もちろん続きものじゃないから、先に出た「不思議のひと触れ」とどちらを先に読んでもかまわないんだけど、私たち的にはやっぱりスタージョンは初めてって方なんかには、やっぱり、まずは「不思議のひと触れ」をオススメしたいよね。
にえ かなり印象が違うよね。あっちは透明感があって美しく繊細なものや、緊張感たっぷりのもの、コミカルで楽しいものなどバラエティにも富んでいたし、キレイな小説を書く方だな〜って印象が強かったけど、こっちは読んでる最中も読んだあとも、澱んだ重さが残るような。
すみ SFじゃないものも多くて、どちらかというと心理描写に重きを置いたような短編が多かったよね。私はこういう心理描写ものが好きだから、この本も楽しめたけど、好きなだけにこれまで読んできた他の作家の小説と比較して、チト古さは気になるかなとも思ったけど。
にえ でも、充分に共感して読める話ばかりだったよね。これはスタージョンのお人柄なのかな、登場人物がなにか憎めなかったり、一途すぎて切なくなっちゃうような方が多くて。
すみ 「ミドリザルとの情事」のフリッツと「君微笑めば」の語り手だけは、徹底してイヤな感じだったけどね。こういう「なんでもわかってるぞ」って態度をとる尊大な男はスタージョンも嫌いなのかな。
にえ 「取り替え子」と「旅する巌」はわりと楽しいお話だったよね。「旅する巌」はとくに好きだったな〜。
すみ そうだね、私も好き。あと、追いつめられていくものでは「ニュースの時間です」が好きかな。わからなさが逆にゾワゾワ来るような。全体としては、初スタージョンというより、何冊めかのスタージョンとしてどうぞってことで。
<取り替え子>
マイク(マイクル)とショーティは、ショーティの伯母アマンダが遺してくれた3万ドルを受けとりたかったが、それには条件がついていた。アマンダの妹のジョンクィルの目の前で、三十日間、赤ん坊の面倒を見なくてはならない。しかし、それにはまず赤ん坊を調達する必要があった。と、ちょうどそこに川を流れる赤ん坊が・・・。
にえ オチはいまひとつだけれど、楽しいお話だった。妖精が妖精であることを証明するところは、やけに単純化されているところが秀逸!
<ミドリザルとの情事>
政府機関で要職に就くフリッツは、週末だけ家に帰ってくる。妻のアルマは結婚するまで有能な看護婦だった。ある日曜日の夜、二人はちんぴらの一団に襲われ、半殺しの目にあわされた男を助け、家へ連れ帰った。そして月曜日の朝、フリッツは大丈夫だからと妻一人の家に男を残し、いつも通り出ていった。
すみ フリッツは痛めつけられた男を見ただけで、こいつのことはすべて見通したって自信満々。オチはわかっちゃっても、すっきりしたから満足っ(笑)
<旅する巌>
デビュー作の短編小説「旅する巌」で類い希なる才能を見せつけたシグ・ワイスは、そのあとなかなか2作目を送ってこなかった。どうしても彼の2作目を手に入れたいエージェントは、彼に直接会ってみることにした。ようやく訪ねあてたシグ・ワイスは、繊細な印象の作品とは異なり、荒くれ者のとんでもない男だった。
にえ スタージョンは1年ほどエージェント業をやったことがあって、その経験が生かされた短編なのだとか。なるほど、デビューをめざす若者の書いてくることとか、作家のパターンだとか、リアルなわけだっ。あまりにも作品とギャップのある作家、そして、そういう別人のようになっちゃう人を探している女が現れ、話は意外な方向に。ちょっとぐらいアホっぽくても、こういう活き活きと楽しげなお話は好きだな。
<君微笑めば>
どんな話でもニコニコと笑顔で聞く男ヘンリーと20年ぶりに出会ったおれは、ヘンリーが嫌がるのも聞かず、パブに、自宅へと連れ回した。
すみ 語り手である「おれ」は、とにかく尊大でイヤなやつ。こいつはいろんな仕事をしているだけど、新聞の日曜版付録に特集記事を書く仕事もしていて、なんだかその仕事をきっかけとして連続殺人事件に興味を示しているみたいなの。なぜかしら〜。
<ニュースの時間です>
石鹸関連の仕事でしっかり稼いでいるマクライルは人柄もよく、小さな子供の話でも真面目に聞いてやるような男だったが、ただひとつ、新聞を読んだり、テレビやラジオでニュースを見聞きしているときは、話しかけられてもまったく聞こうとしなかった。そんな彼に堪忍袋の緒が切れた妻は、ある日、テレビやラジオを壊し、新聞の配達を断ってしまった。
にえ これはストーリーを追って淡々と書き上げてる短編だな〜と思ったら、ハインラインが提供してくれたプロットをもとに書かれているのだとか。こういう話を思いつく方なんだったら、ハインラインも読んでみたいな。どんどん常軌を逸していくマクライルには、ゾクゾクっとくる迫力がありました。
<マエストロを殺せ>
ハンサムで天才的な才能を持つラッチ・クロウフォードを中心として集まるジャズ・バンドに、醜い容姿のために米国陸軍入隊を断られた男、フルークもいた。ラッチはフルークを仲間の一人として大切にし、気を遣っていたが、なにをやるにしても、やる前から勝てないとわかっている相手ラッチを憎み、殺したいと思っていた。とくに、可愛くて才能もある女の子フォーンがバンドメンバーに加わってからは。
すみ 「不思議のひと触れ」の「ぶわん・ばっ!」もそうだったけど、これもジャズマンを扱った小説で、リズム感のある語り口がかっこいいの。でも、内容はかなり暗い色調。いくらラッチが気を遣っても、フルークの見下されてる感は拭い去れず、これはもう離れれば終わりになるというものでもないみたいで。
<ルウェリンの犯罪>
まじめ一徹で、何のおもしろみもない男だと思われているルウェインには、ひとつだけ秘密があった。それは籍も入れていない女性アイヴィと同棲していることで、その同棲生活ももう19年になる。ルウェインにとっては、その罪こそが心の支えだった。
にえ 真面目なだけで何のおもしろみもない男だって言われて喜ぶ人はいないだろうし、そんなことを言われたら、意地でもハメを外してやると思うはず。でも、ルウェインにはアイヴィという罪があるから、わざわざそんなことをしなくてもいいの。だけど、揺るぎないと思われたそのバランスも、崩されてしまうと脆いもの。アイヴィは19年も一緒にいて、ルウェインのことをまったく理解できていなかったのねえ。でも、そういう男の繊細さに気づけないのが女なのかも。
<輝く断片>
53才でデパートの清掃員、身体は大きいが、おつむは足りないと思われている。そんな男が一人暮らしの部屋に運んできたのは、怪我をして死にかけた女性だった。
すみ よくある軟禁もので、結末も見えているけれど、冒頭からの綿密な描写が効いてるから、最後のほうで紙の裏側を見せられたような展開にはハッとさせられたな。