すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ラヴクラフト全集 1」 H・P・ラヴクラフト (アメリカ)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
幻想と怪奇の作家H・P・ラヴクラフト(1890〜1937年)の作品集(全7巻)。第1巻は中篇小説2編、短編小説2編を収録。
インスマウスの影/壁のなかの鼠/死体安置所にて/闇に囁くもの
にえ 1974年から刊行されてきた<ラヴクラフト全集>ですが、今年になってようやく第7巻が出て、ぶじに完結されたということで、読んでみることにしました。
すみ まあ、全集とはいえ厚くはない文庫本で7冊だし、これは挫折する心配はなさそうだね。
にえ んん、いや、その、あんまりこういうことを言って煽るとね、期待しすぎてそうでもなかったとか言われそうなんで、あんまり言いたくないんだけど・・・怖いんですけど〜っ(笑)
すみ たしかに怖かった。ラヴクラフトは怖い怪奇小説を書く方だと知ってはいたし、表紙からして、この本、怖いよって言ってるような感じだったから、覚悟はしていたけど、やっぱり怖かったね。
にえ なんだか怖いせいなんだか、読む時にやたらと指をかみながら読んでしまったんだけど、途中で何度か、指を喰いちぎりそうになってしまったよ(笑)
すみ そのほうが怖いって(笑) でも、1巻で終わりにしようなんて言いださないよね?
にえ もちろん、もちろんっ。予想してたより怖くておもしろかったから、もう一気に最後まで読み終えたい気分。
すみ そりゃなにより。文章はチト読みづらいって噂を耳にしていたんだけど、たしかにサクサクと読める感じではなかったよね。でも、丁寧な描写でわかりやすいな〜と読んでて思ったんだけど。
にえ うんうん、怪奇ものって現実で有り得ない生物とか出てきて、そういう時はあるていど、こっちが想像で補うしかない、みたいなところがあるんだけど、この方の場合は、なんかそのまま読むだけで良かったというか、そういうところでは意外と引っかからなかった。
すみ あと、ラヴクラフトといえば、クトゥルー神話でしょ。これまではその言葉だけで知っていたから、もうちょっと古風な、神話的というか、悪魔的なものを想像していたんだけど、むしろSFに近いような印象を受けたな。
にえ そうだね。スタイルとしては「ゴシック・ロマンスの伝統をひくもの」という解説どおりに、クラシックな印象なんだけど、内容は意外とゴシックの枠には収まらないような感じだった。
すみ こうなると予想も立たないし、この先、読み進めるとどんな作品に遭遇することになるか、楽しみだね〜。あ、そうそう、怖いといっても、超常的な出来事による怖さだから、別に、夜トイレに行けなくなるとか、そういうことはないと思いますよ(笑) オススメで〜す。
<インスマウスの影>
1927年の暮れから1928年の初頭、連邦政府の役人たちは、マサチュセッツ州の港町インスマウスで奇怪な秘密調査を行った。その結果、多くの逮捕者と住人のない家の取り壊しが行われた。これについて人々は、内情を知らされていなかった。しかし、私はすべてを知っている。なぜなら、1927年7月16日の朝早く、インスマウスから命からがら逃げ出した人物こそ、この私だからだ。
にえ 語り手である主人公は、アーカムというところへ行こうとして、安くあげるためにインスマウス経由のバスに乗ることにするの。アーカムってラヴクラフトがつくった架空の地名らしいけど、よく目にする単語だよね。ラヴクラフトの作品の出版をするために設立されたという、アーカム・ハウス出版社の社名にも使われてるし。
すみ 瞬きをしない不気味な住人たちの住む町に、単身で乗りこむことになる主人公。なんかもう読みはじめから怖い雰囲気に息が詰まってくるよね。
にえ 最後まで読むと、ただ怖いだけじゃなくて、もっとその奥に恐怖が用意されてたってわかるしね。
すみ あとさあ、先日読んだアルベール・サンチェス・ピニョルの「冷たい肌」なんて、この作品から発想を得て、これについて自分なりに考えたことを発展させていってできた作品じゃないかな、なんて思った。ラヴクラフト作品が後の作家に与えた影響はどれも大きいんだろうね。
<壁のなかの鼠>
1923年7月16日、私はウェールズのイグザム修道院跡の屋敷に移ってきた。この館に長く人が住んでいなかったのは、ジェームズ1世の時代、この館の主人と子供が5人、それに何人かの召使が殺されるという悲劇があったからだ。この時、犯人であると疑われ、申し開きもしないままアメリカに渡ったこの家の三男こそが、私の祖父にあたる人だった。
にえ なんでまた7月16日なの。もう、こういう符合だけでも意味深で怖いんですけど〜(笑)
すみ よくまあ、こんな曰く付きの館に住もうって気になるよね。そして案の定、地下室でこの館の秘密を見つけてしまうのよ・・・。
<死体安置所にて>
バーチは1881年まで、ペック・ヴァレー村で葬儀屋をやっていたが、翌年には職業を変えることにした。それは死体安置所に閉じこめられてしまうという、あの事件があったからである。
にえ 葬儀屋のバーチは、かなりいいかげんな奴みたいで、なんだかこれは楽しげな雰囲気もするなあと思ったんだけど、やっぱり最後には顔が引きつってしまった。
すみ これは10ページちょいのかなり短めの作品なんだよね。こういう短いものだと、やっぱりラストが効いてなきゃってことになるけど、まさかこんなとはっ。
<闇に囁くもの>
そもそもの始まりは、1927年11月3日、ヴァーモント州の洪水で、あの奇怪な生物が川で目撃された事件からだった。身の丈が5フィートほどで薄桃色、数対の広い背びれか翼のようなものをつけた甲殻類のような胴体に、短いアンテナのようなものをたくさんつけた楕円形の頭らしきものが載っている、得体の知れないもの。 マサチュセッツ州アーカムのミスカトニック大学で教師をする私は、民俗学の研究家でもあったので、その生物について自分の見解を述べた。それがもとで、ヘンリー・W・エイクリーから手紙を受けとることになったのだ。
にえ これはまた1927年から1928年のあいだの話だよ。同じ時期にあっちじゃアレがいて、こっちじゃコレがいたのかよ、ひ〜ん。
すみ 語り手でもある主人公の名前はアルバート・N・ウィルマート。アルバートとヘンリーは、しばらく手紙でやりとりをすることになるんだけど。
にえ 得体の知れない生物について語られているから、そのものズバリの話より、こうやって手紙という手段になって遠回しになっているほうが、よりリアルで怖い雰囲気を増すよね。
すみ 最後のほうの、気づいて〜、なんで気づかないの〜って展開は古典的といえば古典的なんだけど、ジリジリと恐怖が増して良かったよね。これもラストがビシッと効果的だった。