=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「殺人展示室」 P・D・ジェイムズ (イギリス)
<早川書房 ポケミス> 【Amazon】
ロンドン、ハムステッド・ヒースの端に建つデュペイン博物館は、あまり人に知られていない。創立者マックス・デュペインがこだわった第一次大戦と第二次大戦に挟まれた1919年から1938年に限定したテーマにさほど興味を示す者はなく、なにかと入りづらい博物館でもあったからだ。 唯一、人々の興味を示すのは殺人展示室だった。そこにはその時代の有名な殺人事件の重要な証拠品などが多く展示されていたからだ。 ある日、友人の編集長アクロイドに誘われ、ダルグリッシュもその殺人展示室を見学した。しかし、その約一か月後に、デュペイン博物館で、殺人展示室で紹介されている有名な殺人事件を模倣したかのような殺人事件が起きるとは思ってもみなかった。 | |
はい、P・D・ジェイムズのダルグリッシュ・シリーズの最新刊です。 | |
まあ、シリーズ物なんで、今までこのシリーズの本は一冊も読んでないって人が手に取ることはないと思うから、あんまりこのシリーズの特徴とかについて説明しなくてもいいかもね。 | |
別にこの本から入っても、そんなに支障はないはずだけど。警視ダルグリッシュが詩人でもあるとか、父親がキリスト教の司祭であるとか、叔母から多額の遺産をもらったとか、ちらっちらっと触れられているから、 シリーズを最初から読んでいれば、このへんの事情も詳しくわかるのね〜っ、と思うかもしれないけど、まあ、読めばわかりますが、最初から読んでもこの調子で、ちらちら触れられている程度ですから(笑) | |
まあね。そうなると、エマって女性が何者かってぐらいかなあ。この女性は前作「神学校の死」で登場して、ダルグリッシュと恋人どうしになるのかな〜、どうなのかな〜と期待させるような存在なんだけど、とりあえず前作では知り合っただけですから。 | |
でも、この本でケイトがバリバリ焼き餅焼いてたよね(笑) ケイトはダルグリッシュの優秀な部下で、もっと出世しそうな警部なんだけど。 | |
ケイトは貧しい家庭の出身で、まわりの警部たちがみんな大卒なのと違って高卒なんだよね。それでもがんばって、這い上がっていこうとしている最中。応援したい気持ちは強いけど、やっぱりダルグリッシュとは合わないかなあ。 | |
う〜ん、そうねえ、対等になるのは難しいかもね。あとさあ、ケイトとともにダルグリッシュの下で働いているピアースも今回は大変だったよね。もう栄転が決まっているみたいなんだけど、新しく来たベントン−スミスって刑事がどうにもこうにも気に入らないみたいで。 | |
ベントン−スミスはハンサムなんだけど、それが気に入らないってことでもないみたいよね。自分と同じで出世にむかって必死になってるのがわかって、それがイラッと来るみたい。 | |
まあ、ダルグリッシュの内輪の話はもういいんじゃない。こういうシリーズって、レギュラーメンバーの話をしだすと止まらなくなるし(笑) | |
読み進めると身内のような気がしてきちゃうからねえ。で、殺人事件のほうなんだけど、これは今回、かなりおもしろかったんじゃない? | |
前半はいつもの登場人物一人一人を細やかに描き出すP・D・ジェイムズ節炸裂、後半立て続けに起きる事件は横溝正史ばりって感じだったよね。 | |
うんうん、横溝正史っぽかった。過去の殺人事件を模倣してるんだけど、その演出がインパクトあってね。 | |
「殺人展示室」っていうのもおもしろいよね。これは殺人事件が起こるデュペイン博物館にある展示室なんだけど、どうやって手に入れたのか、有名な殺人事件の重要証拠なんかが展示されているの。 | |
ダルグリッシュがそこを初めて訪れるのは、友人の編集長アクロイドに連れて行かれて、なんだよね。ねえねえ、このアクロイドってのはどうなのよ。どうしても私たちはアクロイドというと、アガサ・クリスティの「アクロイド殺人事件」を思い出しちゃうよねえ。 | |
どうなんだろう、P・D・ジェイムズは前作「神学校の死」でもさりげなくアガサ・クリスティの名前を出しているからねえ。前回冗談っぽく書いたら受けが良かったから、今回もうちょっとさりげなく触れてみたとか? | |
おっと、こんな話しをしていたら、ますます事件の話ができなくなっちゃうね。んで、そのデュペイン博物館で働く人々なんだけど、みんなそれぞれ過去があり、事情があって、その博物館で働いているの。 | |
自分に与えられた環境のなかで精一杯やってきたのに、結局は行き場をなくしちゃった、そういう人たちだよね。P・D・ジェイムズは一人一人の登場人物の過去や人となりなどを字数をかけ、じっくりと描写していくのが得意な方だと思うんだけど、 今回も、というか、今回はとくに良かったね。それぞれの悲しみやらなにやらがジンジン伝わってきた。 | |
そりゃもうなんといっても、この作品を書いたときには82才ですもの! 82才になった品のいい老婦人が殺人事件を書き続けているなんて、それだけでもかっこいいじゃありませんか。 | |
ポケミスの作者近影がまったく変わらないのが気になってしょうがないけどね(笑) ネットで調べると、加齢の変化ははっきりとあるんだけど。まあ、いいか。 | |
とにかく、危なっかしい青年というより少年の若造から、問題のある女性、薄幸のなかでも人に親切にせずにはいられず、それでまた自分で苦しんだりする老嬢、死期が迫った老紳士、見かけと違って勇ましい過去のあるキリリとした老婦人などなど、幅広い登場人物の心情までもが細やかに書かれていて、 さすが人生経験を無駄にしていないと、これはもう尊敬に値する素晴らしい人物造詣、描写だったよね。 | |
まあ、このシリーズでは正直なところ、人物造詣は良くても、そのあと起きた事件とその解決にガッカリってこともあるんだけど、この作品ではそっちも素晴らしく良かったよね。 | |
正直なところといえば、私はこの方、ミステリ書くより純文学寄りなものを書いたほうが向いてるんじゃないかとずっと思ってたんだけど、これ読んで考え変わったよ。いや、ホントにもうミステリとしても素晴らしかった。このシリーズは読んでいても、この作品は読もうかどうしようかと迷ってる方がいるかと思うんだけど、これは間違いなくオススメと言っておきますね〜。きっとダルグリッシュ・シリーズの最高傑作だと言う方も多いんじゃないかな。 | |