すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「神学校の死」 P・D・ジェイムズ (イギリス)  <早川書房 ポケミス> 【Amazon】
サフォーク州の人里離れた海岸に位置する聖アンセルムズ神学校は、1861年、アーバスノット嬢によって 創設された歴史ある神学校だが、その存続は危ぶまれている。長い年月のあいだに海岸が浸食され、いつまで 建物が残っているのかわからないということ、20人の選ばれた神学生だけが学ぶという学校方針は今時では贅沢すぎて 反感を買ってしまうということ、アーバスノット嬢に託された価値のある美術品の数々は、このような僻地に置かず、 もっと人目に触れる場所に移すべきであるということ、そのた諸々の理由で教会は廃校を考えざるを得なかった。しかし、 校長のセバスティアン・モレル神父をはじめとする神父、職員たちは抵抗を示し、少なくともあと、二、三年はこのまま 持ちこたえるのではないかと思われた。この学校にロンドンの警視長アダム・ダルグリッシュが出向くことになったのは、神学生の一人ロナ ルド・トリーヴィスが海岸で謎の死を遂げ、事故死ということで処理されたことに端を発している。裕福で権力のある ロナルドの父親は死因の調査を依頼し、管轄外ではあったが、少年時代の幾度かの夏、聖アンセルムズ神学校で過ごした ことのあるダルグリッシュに白羽の矢が立てられたのだ。懐かしい思い出が胸によみがえるダルグリッシュだったが、 待ち受けていたのは第二、第三と続く死だった。
にえ さてさて、P・D・ジェイムズの最新翻訳本ですが。
すみ その「が」が怖い(笑)
にえ だってさあ、相変わらず内容のわりに長いんだよね。このP・D・ジェイムズ節が よかったりもするんだけど、二転、三転するストーリーの起伏があるわけじゃなし、夢中になれる謎解きがあるじゃなし、 楽しい会話があるじゃなし、う〜ん。
すみ シリーズものだし、どうせP・D・ジェイムズがもとから好きって人しか 読まないってことを前提にすれば、私はけっこうおもしろかったと思うけどな。レンデルみたいに毎回新しい趣向を凝らすって 人じゃないから、そういうのを期待されると困るけど、目新しさがいろいろあったよ。
にえ そうそう、アダムダルグリッシュの詩が出てきたよね。少年時代に書いた詩と、 捜査中にできた1作、これはちょっとオオッと思ったよ。
すみ それもあるけど、正直なところ作中にあまりユーモアというものを感じない 作家さんなんだけど、今回はニヤリとさせられるところがあった。これはファンならめっけもの。
にえ あ、あれでしょ、ケイト警部がだじゃれみたいな推理をしたとき、ピアーズ警部が 「それじゃあ、まるっきりアガサ・クリスティーじゃないか!」って言うところでしょ。
すみ そう、まずはそこからはじまるのよ。P・D・ジェイムズがミステリの女王と言われるのを嫌い、 とくにアガサ・クリスティーと比較されるのを嫌っているのを知っている読者なら、ニヤリとさせられるんじゃない。
にえ レンデルも同じ動機で、アガサ・クリスティー作品を揶揄したような 短編とか書いてるよね。イギリス人はしゃれがきついからな〜(笑)
すみ しかもしかも、なんと今回、ダルグリッシュに恋の予感が芽生えるんだけど、 あれは完全にドロシー・L・セイヤーズのピーター卿とハリエットを意識してたよね。
にえ え、やっぱりそうなのかな。私もなんかあの女性、妙にハリエットと 同じ匂いがするなとは思ったんだけど。
すみ 絶対そうだよ〜。女性像も似てたし、話のもっていき方も似てた。 私はあとでセイヤーズばりの展開を見せるぞって意気込みが、あのアガサ・クリスティーの言及になったんだと思うな。
にえ あなたは本筋より、そっちで楽しんだのね。私はP・D・ジェイムズが 死ぬまでには、ダルグリッシュとコーデリアが結ばれると固く信じてたから、ピーター卿シリーズでハリエットが 登場したときと同様、ぜんぜんうれしくないんだけど。
すみ でも、次がダルグリッシュの恋の話になるとしたら、この本はぜったい読んで おかないとダメでしょ。
にえ まあね。じゃあ、ストーリーを軽くご紹介しておきましょう。いつも通りです。おしまい。
すみ おいおい(笑)
にえ じゃあ、もうちょっと。いつものように、学校ということで登場人物が たくさん出てきて、そのなかには複雑な人間関係あり、隠された過去があり、そんな中で次々に殺人が起きる、と定番の設定ですな。
すみ 聖アンセルムズ神学校の校長セバスティアン・モレル神父は、リーダー タイプの厳格な神父なのよね。マーティン神父は前の校長で、ダルグリッシュが尊敬してる人。 ベタートン神父は学生の使う洗濯機の音にいつもイライラさせられてます。ジョン・ベタートン神父は、過去に少年への猥褻行為を訴えられ、逮捕歴があるけど、 じつは少年をかばっただけで罪は犯してないんじゃないかなと思われてます。
にえ ベタートン神父を訴えたのは教会内の大執事、マシュー・クランプトンなのよね。クランプトンは 聖アンセルムズ神学校の廃校を強行しようとしてるんだけど。そのクランプトンも過去に妻殺しを疑われてて、 その時にしつこく捜査をしていた警部は、クランプトンがいるとは知らずに教会に静養に来ちゃったりして。
すみ 神学生のなかにラファエル・アーバスノットという名前のとおりの美青年がいるんだけど、 彼は創設者アーバスノット嬢の子孫で、最後のアーバスノット家の人間でありながら、非摘出子ということで、 なにも相続できず、神学校で育てられたの。
にえ 住み込みの用務員助手エリックは人とあまり接しないですむ場所で 豚を飼って暮らすのが夢で、この神学校でそれが叶えられたのに、廃校と聞いて内心穏やかじゃありません。
すみ エリックは腹違いの妹と性的な関係に陥ってしまって、そのへんでも かなり追いつめられてるのよね。
にえ あとはまあ諸々と。とにかく大人数出てくるんだけど、あいかわらず 人物設定はおもしろいのよね〜。現在起きてる事件より過去の話がおもしろかったりして、そういうところは 好きなんだけど。
すみ P・D・ジェイムズはノンビリ読むべし!