すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「検屍官の領分」 マージェリー・アリンガム (イギリス)  <論創社 単行本> 【Amazon】
第二次世界大戦下、政府の極秘任務に従事するアルバート・キャンピオンはあるところへ行くために休暇をとり、ロンドンの自宅に立ち寄った。ひさしぶりの自宅での入浴を楽しんでいたキャンピオンだが、浴室から出てみると、 自分のベッドには女性の死体が。そして、その死体を運んできたのは驚いたことに、信頼する使用人のラッグと、気品と美貌で名高いカラドス侯爵夫人だった。
すみ 私たちにとっては「霧の中の虎」から2冊めのマージェリー・アリンガムです。
にえ この本で知ったけど、マージェリー・アリンガムは最初のうちは娯楽的な作品を書いていたんだけど、途中から路線変更して、文学性を深め、克明な社会背景や人物造詣に重きを置くようになったとか。
すみ 私たちが前に読んだ「霧の中の虎」も、その路線変更後のものだよね。深い文学性、克明な社会背景や人物造詣、うんうん、たしかにって感じ。
にえ で、この「検屍官の領分」も路線変更後の作品にあたるみたいね。でも、これはシリーズ物で、「霧の中の虎」のような単発のシリアスものとはまたちょっと違うみたい。
すみ まあ、マイナス面を先に言ってしまうと、シリーズ物の途中の作品だから、ちょっと人間関係がわかりづらかったのと、謎解きについてはいまひとつだったのが残念だった。
にえ このシリーズはアルバート・キャンピオンという貴族階級らしき男性が主人公のシリーズみたいね。素人探偵でもあるみたいで、警察内部にも知り合いが多いみたい。
すみ この本では44才で、眼鏡をかけた痩せぎすの男。かっこいい〜ってタイプじゃないところが、逆に好感持てたかな。
にえ この小説の時代背景は第二次世界大戦中で、キャンピオンは政府の極秘任務に従事しているみたいね。短い休暇をとってロンドンの自宅に立ち寄ったところ、事件に巻き込まれるの。
すみ 実際に戦時下に書かれた作品だそうで、第二次世界大戦中のロンドンっていう時代背景がキッチリ生かされたミステリだったよね。
にえ そうそう、背景ってだけじゃなく、事件そのものにも戦争が絡んでくるしね。
すみ 戦時下のロンドン、爆撃のない静かな夜、闇に紛れて女性の死体を運びこむ男女・・・って冒頭シーンからしていいよね、雰囲気が伝わってくる。
にえ その男女の男のほうは、キャンピオンの使用人なんだよね。お、英国ミステリらしく執事登場か?!と思ったけど、それほど品が良くもなく、手足となるってほどでもなく。
すみ でも、キャンピオンの信頼にはあたいするみたいだけどね。この小説のなかでは狂言回しのような役回りだったけど、なかなか味のある存在ではあった。
にえ 男女の女性のほうは、名高い侯爵夫人なんだよね。キャンピオンは侯爵夫人の息子ジョニーと知り合いみたい。で、ジョニーとその取り巻きたちが話の中心に据えられているんだけど、この中の人間関係が面白かった〜。
すみ ジョニーはスーザンって女性と婚約していて、結婚間近なんだよね。ジョニーは空軍中佐なんだけど、スーザンはジョニーの戦死した部下の奥さんだった人で、ジョニーはその部下にスーザンを託されたみたい。
にえ でも、どう考えても幸せな結婚にはなりそうにないよね。ジョニーのまわりには戦争前からべったりくっついている取り巻きがいるし、スーザンには他に愛し合っている人がいるみたいだし。
すみ ジョニーも喜劇女優のイヴァンジェリン・スノウと具体的な約束こそしていないものの、もう長いつきあいで、まわりは恋人どうしだと思っていたみたいだしね。
にえ ジョニーは侯爵でありながらも、気さくで仲間おもい、自然と集まってくる人たちの面倒を見て、その集団はとびきりおしゃれな仲間って存在だったみたいだし、それを構成するジョニーの仲間たちも、それを強く意識していたみたい。 それなのに戦争がはじまるとジョニーは空軍へ、そして今度は婚約者を連れてくる。永遠に続くと思っていたものが中心から崩れて戸惑うっていう、独特の状況になんとも惹かれたな。
すみ 娘時代も結婚してからも、甘やかされるだけだった侯爵夫人が初めて自分の判断で動こうとして暴走してしまうって設定も好きだったよ。ミステリとしては謎解きが成立していないようなところもあってアレだったけど、とにかく雰囲気が楽しめた。
にえ このシリーズの最初から順番に読めていたら、ミステリ的にはいまひとつでも、かなりオススメだったけどね。それでも楽しめたから、なかなかってことで。