すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「チャングム3 医女篇」 キム・サンホン (韓国)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
濡衣とわかっていながら宮廷の厨房から追放され、報恩県(ポウンヒョン)で過ごす大長今(テチャングム)は、県監・趙墨根(チョムックン)の庇護のもと、病に苦しむ民を助けるうちに、いつしか優れた医女として知れ渡っていた。 宮廷では女狂いで政をおろそかにする王が崩御し、慈悲深く聡明な王、中宗(チュンジョン)の時代となっていた。以前からチャングムの宮廷の医女として呼び戻そうと力を注いでいた御医女・張允(チャンユン)にはようやく王からの許可がおり、 晴れてチャングムは宮廷に呼び戻されることとなった。
すみ さてさて、読み進めてきた「チャングム」の最終巻です。
にえ この巻では一気に晩年まで。ホント良い意味でも悪い意味でもサクサクだね。ストレスなくサクッと読めるのが快感でもあり、ちょっと物足りないってことにもなりかねず。
すみ まあ、重いテーマのもののあとに読むとか、ちょっと体調の悪いときに読むとかすれば、このサクサク感はありがたいと思うし、そうじゃなくても、たまにはこういう気楽に読める小説はうれしいよ。
にえ うん、それに軽く読めるといっても、実在したチャングムはどんな人だろうとか、東洋と西洋の医学の違いって、とか、いろいろ考えさせられるし、充実感はたっぷりあるよね。
すみ そうなのよ。韓国といえば儒教の国、チャングムが生きた16世紀前半といえば、圧倒的に女性の地位が低い時代。その時代に医学を学び、男性をもしのぐ地位に就いたチャングム。その努力、苦労は計り知れない。
にえ あとね、東洋と西洋の医学。これはベヴァリー・スワーリング「ニューヨーク」に書かれていた17世紀以降のアメリカ医学の流れとか、ノア・ゴードンの千年医師物語の三部作に書かれていた、11世紀からのヨーロッパの医学の流れとかを思い出しつつ読んで、 どうしても東洋と西洋の医学の進化の違いについて考えさせられちゃう。
すみ やっぱり東洋は草を使って薬を作る、いわゆる漢方薬、これについては西洋よりずっと進んでいたって感じるよね。「ニューヨーク」や千年医師物語でも、薬草を調合するシーンはいくつもあったし、達人もいたけど、この小説のチャングムが中国や韓国の書物から得た知識の凄さは、それらをはるかに凌駕しているもの。
にえ でも、それに頼りすぎて、外科については西洋ほど進化しなかったのかな、とも思ったりしたんだけど。チャングムの治療シーンは西洋のものと比べて、はるかに薬に依存してたでしょ。
すみ ちゃんと研究したわけじゃなくて、小説で受けた印象だけだから断言はできないけど、そんな感じはしたよね。まあ、「ニューヨーク」における世代が変わっても変わっても、なにかというと血を抜くだけの治療と違って、チャングムの知識を駆使した薬草治療は頼れるって感じだったけどね。
にえ 漢方薬は今でもそうだけど、婦人病に効き目のあるものの種類も多いよね。西洋の医学では、あまり婦人病の治療については出てこなかったような。
すみ そのぶん、「チャングム」では屍体を切り開いて内臓を調べたりとか、そういうシーンはなくて、医学の勉強というと、ひたすら漢方薬について書かれた書物から知識を頭に詰めこんでいくという作業だった。
にえ そういう違いについて、いろいろ考えさせられるよね。で、まだ小説のストーリーじたいにぜんぜん触れていなかったんだけど(笑) この「チャングム3 医女篇」では、いよいよチャングムは宮廷に帰り、医女としての活躍を始めるの。
すみ 前のバカ王が亡くなったおかげだよね。今度の王様は慈悲深く、思慮深くって方で、女であるチャングムの能力の高さもキチンと認めてくれるから。
にえ でも、王自身にも悲しい出来事があったりするのよね。これがなかなか切ないのだけど。
すみ そして、美しくて賢いのに、不幸な目にばかり遭う佳徳(カドク)は、意外な転身のあと、どうなってしまうのか。
にえ そしてそして、チャングムと凛々しい捕盗庁の官吏・李都行(イドヘン)との恋はどうなってしまうのか、などなどだよね。
すみ 宮廷のなかでの諍いは尽きないし、幼なじみのトジョミもまた出てくるしね。あいかわらず、ストーリーはドラマティックで起伏激しく、あっというまに読めちゃった。
にえ ということで、サクサクッと楽しめる全3冊の小説でしたってことで。まあ、この分量なら1冊にまとまったでしょう、とは思うけど(笑)