すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ニューヨーク」 ベヴァリー・スワーリング (アメリカ)  <集英社 単行本> 【Amazon】
1661年、11週間という長い長い船旅に苦しんだ末、ルーカスとサリーはオランダからアメリカ、ニューアムステルダムの港に辿り着いた。ルーカスとサリーはイギリス生まれ、貧困にあえぐ家庭の11人兄弟のうちの2人で、 とくに仲のいい二人だった。兄のルーカスは床屋でありながら外科医として優れ、それが疎まれてアメリカまで来るしかなくなった。妹のサリーは、薬草の処方に優れていた。二人なら、力を合わせればアメリカでも、成功の道は開けていくはずだった。 仲良く力を合わせてさえいけたら・・・。
すみ アメリカの女性作家、ベヴァリー・スワーリングの初邦訳本です。
にえ 先に謝っておかなくてはならないのは、読む前、これはイギリスの作家エドワード・ラザファードが、ロンドンという都市の2000年という長きにわたっての変遷と10組の家族の絡み合う歴史を書いた「ロンドン」で成功したのに目をつけたアメリカ人が、 さっそくアイデアをパクって、ニューヨークを舞台に似たような小説を出したんだなと疑ったこと。勘違いでした、すみませんっ。
すみ 「ニューヨーク」はあくまでも邦題だったんだよね。原題は違うの。まあ、同じ出版社で同じようにデカイ本で、同じように都市の名前をつけているから、勘違いしちゃうよね〜。
にえ どっちかというと、ノア・ゴードンの<千年医師物語>を思い出させたかな。アメリカ医療の歴史が大きく絡んでいて。ただ、あちらは医学ジャーナリストから作家になった方、こちらは歴史に重きを置く方ってことで、視点はかなり違ってたけど。でも、共通するところも多々あった。
すみ もともと私たちが、昔のヨーロッパでは、床屋は外科医や歯科医などの役割も兼ねる、内科のほうが地位はずっと上っていうのを知ったのも、ノア・ゴードンの<千年医師物語>を読んで、だよね。
にえ そうそう、この小説の最初の主人公の一人ルーカスも、床屋兼外科医なの。ただ、イギリスでは床屋と外科医は同じ学校で同じように学ぶけど、最終的にはどちらになるか選ぶようだったけど。ギルドの関係からかな?
すみ ルーカスは床屋なんだよね。でも、メスを握って外科の治療をするほうの能力がとにかくズバ抜けて高くて、本人もそちらのほうに気が行っているみたい。
にえ 結果的には、そのせいで妹のサリーを連れ、オランダに、そしてアメリカに渡らなきゃならなくなっちゃうのよね。物語はそこから始まるの。
すみ ルーカスとサリーの兄妹は、もともとイギリスの貧困家庭の生まれ育ちなんだよね。11人兄弟で、貧しさと大人たちの暴力にあえぎながら、明日もないような暮らしをしている子供たち。
にえ そのなかで、ルーカスだけは頭が良くて、なんとか自力で未来を勝ち取っていこうと努力して、仲のいいサリーにも読み書きを教え、自分と一緒に家族から逃げる機会も与えたの。
すみ アメリカに着いてからも苦難の数々が待ちかまえ、でも、力を合わせて生きていく・・・と思ったのだけれど。
にえ まあ、それは置いといて(笑)、そういうスタートで始まる長い長い物語は、1661年から1798年まで、7代かな、とにかく広がりつつも複雑に絡み合う一族の物語。
すみ 世代を超えて、何度も出てくるのは、外科医としての能力に優れている者、薬草学に優れている者、と、まさにルーカスとサリーの血が脈々と受け継がれていくのよね。
にえ 同族でありながら、というか、同族であるからこそ、憎しみ合い、ときには報復したり、されたりもするんだよね。
すみ いろんな血も混じっていくしね。最初はイギリス人、そこからアイルランド人やユダヤ人、黒人、インディアンの血が混じり・・・。あ、そういえば、描かれている時代が時代だけに、先住民や移民に対する差別用語もビシバシ出てきてしまうのだけど。
にえ とにかく、家族の歴史がそのままアメリカの歴史ともなっていくよね。
すみ 歴史的な出来事もどんどん挿入されていったよね。まさに家族は歴史に翻弄されていくことになるんだけど。この小説に書かれている時代は、移民がしだにやってきて、ヨーロッパのいくつかの国が取り合いをしている最中の植民地時代から、激しい戦争の末、アメリカ合衆国として独立する頃まで。
にえ 歴史はどんどん進んでいくのに、医療がなかなか進歩しないのが焦れったいぐらいだったよね。そのへんの焦れったさを上手く書いてあるんだ〜。
すみ あと、奴隷問題とか、ユダヤ人の台頭とその反発とか、女性の地位の問題とか、処刑制度とか、とにかく現代にも通じるようないろんな問題が書かれていたよね。私たちがアリス・ウォーカーの「喜びの秘密」で衝撃を受けた女性割礼のこととかも出てきて、驚いたりもしたし。
にえ 当たり前といえば当たり前なんだけど、ニューヨークが原野だらけで、発展していってもまだ小さな田舎町ていどの規模だったりするのには、なんとも不思議な感じがしたよね。もうずいぶんとニューヨークも開けたなあ、と思ったら、1400戸で人口9000人とか書いてあって、ええっ、まだそんなものなの?!と驚いちゃったりして(笑)
すみ とにかくまあ、一族の愛憎劇のすさまじさに、グイグイと引っぱられ、一気に読んじゃうよね。栄えたり、落ちぶれたりって起伏も激しかったし。これだけ長くても、急展開につぐ急展開で、飽きるところはまったくなかった。医療関係についての記述も、作者は専門外らしいけど、読めばそうは思えない詳細さ。よほど細かく調べ上げたのねえ。
にえ 最良の娯楽小説だと思った。純文学の重みや深みや洗練はないにしても、エンターテイメント系の小説としては、もうタップリと知識も盛りこまれ、ストーリーや人物の魅力にも溢れで、大満足。個人的には、シドニィ・シェルダン小説のおもしろさに、グググッと厚みを増させたような濃厚な味わいと思ったんだけど。そういうのが好きだと思ったら、ぜひぜひのオススメですっ。