=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ダイング・アニマル」 フィリップ・ロス (アメリカ)
<集英社 単行本>
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デイヴィッド・ケペシュは現在70歳、コンスエラ・カスティリョと知り合ったのは8年前、デイヴィッドが62歳、コンスエラが24歳の時だった。 文化評論家としてテレビ番組に出演し、デイヴィッドは大学で1クラスだけ授業を受け持つ教授だったが、コンスエラはそのクラスの学生の一人だった。 独身生活を謳歌し、多くの女性と関係を持ってきたデイヴィッドも、裕福なキューバ人亡命家族の令嬢コンスエラのゴージャスな魅力には抗えなかった。 | |
私たちにとっては2冊めのフィリップ・ロスです。 | |
わりと薄めの本で、老いた男の性への渇望を深く掘り下げた作品ってことだったから、前に読んだ「ヒューマン・ステイン」の71歳の老教授と34歳の女性の恋、 その愛欲部分だけが強調されたような作品なのかな〜とあまり期待していなかったんだけど。 | |
結果としては、期待しなかったのがよかったよね。こんなもんだろ〜って前予想して読みはじめたら、そこからハズレてもいなかったけど、もっと肉付けがしてあって、その肉付け部分がなかなかおもしろくて、けっこう読み甲斐があった。 | |
期待しすぎてたらどうだろうとは思うけどね。でも、おおよその内容の予測はつくから、それはないか。 | |
語り手は老教授デイヴィッド・ケペシュ。ユダヤ人の父親に育てられ、若いうちに結婚して離婚して、現在42歳の息子がいる独身の70歳。 | |
この方は前にロスの他の2作の作品でも主人公で、ちょっとフィリップ・ロスの分身的存在のようなところがあるみたいね。 | |
デイヴィッド・ケペシュは1クラスしか持っていない大学教授だけど、文化評論家としてテレビ番組に出演したりしてて、地元ではちょっと知られた顔なの。 | |
でも、その実体は、とにかくいろんな女性と関係を持つことを常々考えているエロ教授? | |
凄いよね、若いうちからそうだし、結婚生活のあいだもそうだったし、60歳を過ぎても相変わらず、求めるのは女。飽きないのかなあ(笑) | |
独身だし、ターゲットは女学生だけど、とりあえず自分のゼミが終了するまでは気のあるそぶりも見せない、すべて終了してそれからってことで、とりあえず赦される範囲ではあるんだよね。 | |
もちろん、女性にその気があるときに限るしね。 | |
そうそう。でも、突発的な性欲とかじゃなくて、かなり計画的なだけに、なおさらそれだけのために生きてるのかって感じだけどね。 | |
でも、そこにはケペシュなりの哲学というのか、そういうものもしっかりあって、そういう自分の基準から社会を批判したりするから、まあ、そういう考え方もあるかなって気にはなるけど。 | |
もちろん、息子は完全に反発してて、道徳的であろうという意識がものすごく強くなっているみたいね。 | |
父親のそういう性癖のために家庭が崩壊してるんだから無理もないよ。 | |
で、ケペシュが62歳になって出会ったのがコンスエラ・カスティリョ。24歳で長い黒髪と大きく美しい胸を持つ、アメリカで生まれ育ったキューバ人女性。 | |
かなり大柄な女性みたいね。長身で大柄な女性へのこだわりは「ヒューマン・ステイン」にも出てきたけど。 | |
ケペシュにとっては、最初で最後の愛する女性、と言えるのかな。それまでは性欲を満たすためだけに女性が存在するみたいなものだったから、執着心というものがなかったけど、この女性は違ったみたい。 | |
でも、私が一番おもしろいと思ったのは、思い出話で出てくるジェイニーという女性だな。 | |
ジェイニーは存在感があったよね。賢く、生まれながらのリーダーで、ヒッピーでもなく革命家でもなく、大学を性の解放へ導いていった女学生。まあ、彼女たちとのつきあいのために、ケペシュは奥さんと別れることになったみたいだけどね。 | |
なんと言いましょうか、性欲に翻弄されるんじゃなく、性欲を正当化し、一夫一妻制さえ批判しようとするかのような老いた主人公の文学作品。共感しないまでも、なるほどなるほどと思いながら読んだかな。 | |
まあ、私たちが共感するのは最初っから無理だったんだけど、でも、それはそれとしてまあ良かったってことで。 | |