すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「遺失物管理所」 ジークフリート・レンツ (ドイツ)  <新潮社 クレストブックス> 【Amazon】
連邦鉄道に勤めるヘンリー・ネフは、遺失物管理所に配属になった。人々が電車の棚に、駅のホームに置き忘れた品々が届くところ、そこがヘンリーの新しい職場だ。 そこには様々な事情を抱えた人々がやって来る。そして、ヘンリーと同じ24歳の、サマラ出身のバシュキール人である、工科大学の客員教授フェードル・ラグーティンとも忘れ物がきっかけで知り合った。
すみ アルネの遺品」から約1年、ドイツの国民的作家ジークフリート・レンツの翻訳本です。クレストブックスとしては2冊め。
にえ ジークフリート・レンツにとっては14作めの長編小説で、なんと77歳の時の作品だって。良いねえ、作家が長生きして、円熟味のある作品をたくさん残してくれるっていうのは、読者としては嬉しいところ。
すみ う〜ん、そういうふうに言われると、辛口でしゃべれなくなるっ(笑)
にえ 私たちが感激しまくった「アルネの遺品」とはかなり色調が違ったよね。独特の透明感は健在だったけど。
すみ 同じドイツが舞台でも、「アルネの遺品」は小さな港町でのお話、この小説はハンブルグらしき大きな都市でのお話なのよね。
にえ 連邦鉄道に勤める主人公のヘンリーは遺失物管理所に異動になる、物語はそこから始まるの。
すみ 伯父が同じ会社の本部長、家族は大きな陶磁器のお店を営んでいるという、なかなか恵まれた環境の青年。でも、遺失物管理所への異動はたぶん左遷なんだよね。
にえ 会社は経営を立て直すために、人員削減とか必死にやってるみたいよね。遺失物管理所にも監査官が来たりしていて。
すみ 遺失物管理所にいるのは責任者のハネス・ハルムス、年配の同僚アルベルト・ブスマン、女性の同僚パウラ・ブローム。
にえ 遺失物管理所にはいろいろな忘れ物が届けられ、さまざまな忘れ物をした人が訪れ、そのものに対する思いとか、意外な忘れ物とかに、ヘンリーは驚き、その驚きを喜びとしていくの。
すみ 工科大学の客員教授フェードル・ラグーティンとも、彼の忘れ物をきっかけに知り合うのよね。
にえ フェードルはサマラ出身のバシュキール人。イランのほうのサマラじゃなくて、ロシアのほうのサマラね。フェードルの家族は、山羊の乳を飲んだり、養蜂をやっていたり、テントで暮らしたりと、ヘンリーには想像もつかないような牧歌的な生活をしているみたい。
すみ フェードルの奥行きの深さ、人柄の温かさにはヘンリーだけじゃなく、ヘンリーの姉バーバラも惹かれていくのよね。
にえ ヘンリーはアイスホッケーの選手でもあって、試合に出ることになると、二人で応援に行ったりしてね。
すみ ヘンリーのほうはパウラに一目惚れするけれど、どうやらパウラには俳優で声優の仕事もしている夫がいるみたい。
にえ のどかな生活かと思えば、ヘンリーが暮らすマンションには暴走族が集まってきて、住民に悪さをしたりして、なんとなく不穏な様子だったりもするの。
すみ ん〜、それでね、感想を言うと、私にはいまひとつピンとこなかった。
にえ ヘンリーは私たちが魅了された「アルネの遺品」のハンスと違って、ちょっととらえどころのない青年だったね。やさしいようで真剣みに欠けて、口で言ってることと比べて行動にちょっとだらしなさが目立つような。
すみ お姉さんからお金を借りても借りっぱなし、母親との待ち合わせはすっぽかす、パウラに夫がいるとわかっても迫りつづけ、でも、パウラの夫とも仲良くしようとしたりして、う〜ん、なんかよくわからなかった。
にえ 暴走族に襲われても警察に連絡せず、自分でなんとかしようとしたり、ちょっとわからなかったね。
すみ 他の人もね。フェードルは素敵だと思ったけど、最後にはその繊細さが理解できなくなっちゃったし、パウラもヘンリーに対して拒否しつつ思わせぶりだったり、年配の同僚アルベルトも仕事中に酒飲んでるのがなんだかなぁだし。ヘンリーは気持ちのいい職場であることを強調するけど、最後の最後で、一緒に働いている人たちはヘンリーをまったく理解してないんだなと思うようなところがあったし。
にえ う〜ん、「アルネの遺品」は寒そうな港町にハンスの優しさがホワッと灯っているようだったけど、この小説はホワホワしているのに、底がヒヤッと冷たく感じてしまったかな。なんか読む人によっては違う受け取り方ができそうだったけどね。私たちはダメだったってことで。