すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「アルネの遺品」 ジークフリート・レンツ (ドイツ)  <新潮社 クレスト・ブックス> 【Amazon】
ハンスは両親に頼まれ、アルネの遺品を片づけることにした。灯台の模型、海の地図、マニラ麻の ロープ・・・アルネが大切にしていた物たちが、アルネの思い出を語りはじめる。
ある冬の日、北ドイツのエルベ河畔の港町に住む一家のもとに、12才の少年アルネはやって来た。 アルネはハンスの父の友人の息子で、一家心中のたった一人の生き残りだった。明るいブロンドの短い髪、 薄い肩、青白い顔、いかにも頼りなげな少年アルネは、17才のハンスと一緒に広い屋根裏部屋に住むことになった。
にえ 私たちにとって、はじめてのジークフリート・レンツです。・・・と言って、 あとはしばらく絶句、だね、これは。
すみ うん、良すぎた。あまりにも良すぎたね。私も絶句したい。余韻から抜け出せない。
にえ 内容もいいんだけど、静かで、心地よくやさしいハンスの語り口がとにかく良くて、 抑えた、やわらかな声が聞こえてくるようだった。
すみ ハンスは弟一人と妹一人がいるお兄ちゃんなんだけど、長男気質というのか、 年下の少年に対する眼差しがとにかく包みこむように優しいのよね。
にえ 悲しみや憤り、後悔もなにもかもすべて抑えこみ、時にはアルネに話しかけるように、 時には弟のラースに話しかけるように、妹のヴィープケに話しかけるように、やさしく、やさしく、ゆっくりと思い出が語られていくの。
すみ 思い出は3年前、アルネが一家のもとに引き取られたところから始まるの。 ハンスのお父さんがアルネのお父さんの古くからの友人で、一家心中のたった一人の生き残り、アルネを引き取ることにするんだけど。
にえ ハンスのお父さんですら、どういう事情でアルネの一家が心中したのか、 詳しいことは知らないのよね。アルネが来る前に、話したくなったら話すだろうから、むりに聞き出したりは絶対するなって子供たちにも言いきかせてあって。
すみ お父さんがまたいいのよね。あまり口数の多いほうじゃないけど、たくましくて、港の人たちの信頼も厚くて、 一歩引いて相手の気持ちを考えようってする人なの。
にえ そんなお父さんに絶対的な信頼を寄せてお父さんのもとで働きながら、お父さん以外の人とは話すことさえ避けている カルックっていう男の人がいるんだけど、この二人の交流についてもチラチラと話に出てきて、これがまたいいのよね。
すみ カルックには、罪を犯した過去があるんだよね。
にえ アルネは広い屋根裏部屋でハンスと一緒に暮らすようになるんだけど、 ハンスはあまりにも純粋で、まっすぐすぎるアルネを、好きになると同時に心配にもなるの。
すみ アルネは特に語学に長けていて、学校では飛び級の推薦もされるほど賢い子なんだけど、 結んだ紐をほどくと風が起きるとか、そういう子供しか本気で信じないことを疑いもせずに信じ切っちゃうようなところがあるんだよね。
にえ アルネはとにかく純粋でまっすぐだから、こうと思いこむとまっすぐ突き進んじゃうようなところもあるしね。長男気質のハンスとしては、とにかくアルネに傷ついてほしくないのよ。守れるものなら守ってあげたい。 もう充分、つらい思いはしたんだから。でも、そうもいかない。
すみ 弟のラースはなぜだか初めて見たときからアルネを嫌って避けているし、 アルネにとっては憧れの人となった妹のヴィープケも、なぜかアルネを少し避けてるのよね。
にえ なんとなく、アルネは自分たちより上の世界で生きているような感じがあって、 ずっと年上のハンスならそれも賞賛するだけでいいだろうけど、年の近い二人には、そうもいかなかったりするんだよね。 とくにラースはちょっと意地悪。
すみ アルネはラースに嫌われても、それを気にしないどころか、どうにかして、いやな思いをさせずに 仲良くなる方法はないだろうかと模索するの。それはもう、ハンスの目から見ると切ないほどで。
にえ アルネとしては、ハンスを慕って、ハンスにはいろんなことを話すことも できるんだけど、やっぱり年の近いラースと友だちになりたいのよね。
すみ アルネにとって嬉しかったこと、悲しかったこと、その思い出が少しずつ、 アルネの遺した物とともに語られていくんだけど、最初からわかっているのは、15才のアルネが自らの死を選んだこと。 そこにいたるまでに何があったのか・・・。
にえ 背景となっている港町の情景がまたいいの。船を修理するドックがあって、 子供たちが乗り込めるような廃船があって、子供なら絶対欲しくなるような速度計とか、コンパスとか、ランタンとかって 航海用の品々があちこちにあって、もらえたりして。
すみ そこに暮らしてる人たちも、穏やかで、思いやり深くて、少し遠慮がちなところがあっていいのよね。
にえ そうなの、海が近いとはいえ、河畔の港町だってところがポイントよね。どうしても海のほうの 港町というと、ちょっと粗野で荒っぽく、寄港した船員たちの大騒ぎとか想像しちゃうけど、この小説の舞台となる港町は、ずっと静かで、 気の知れた仲の人たちが互いに気づかいながら暮らしてるって感じなの。
すみ 悲しいお話なのだけど、ほんのりとあたたかい気持ちになれたりもして、とにかく、やわらかな美しさに 心を揺さぶられました。これはオススメ!