すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「時間のかかる彫刻」 シオドア・スタージョン (アメリカ)  <東京創元社 文庫本> 【Amazon】
1983年刊のサンリオSF文庫『スタージョンは健在なり』の改題・再刊。ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞作品「時間のかかる彫刻」を含む全12編の中短編集。
ここに、そしてイーゼルに/時間のかかる彫刻/きみなんだ!/ジョーイの面倒をみて/箱/人の心が見抜けた女/ジョリー、食い違う/〈ない〉のだった――本当だ!/茶色の靴/フレミス伯父さん/統率者ドーンの〈型〉/自殺
にえ 私たちにとっては3冊めのスタージョンの短編集です。サンリオSF文庫で「スタージョンは健在なり」というタイトルで出ていたものの再刊だそうです。
すみ 改題・再刊ってことは、改訳版ではなく、翻訳文はそのままなのね。
にえ でしょうね、たぶん。別に古さは感じなかったから、手直しするところはなかったのかも。
すみ 巻末の解説が翻訳者さんじゃなかったためか、疑問が残ったままになったところもあったりしたのだけど。まあ、いいか(笑)
にえ 全体としては、けっこう良いのもあったし、そうでもないかな〜って気がしたのもあったよね。
すみ スタージョンだ、スタージョンだって期待して読むと、ちょっとガッカリなところもあるかもしれない。でも、スタージョンだってことは忘れて読んでいくと、けっこうおもしろい短編集だなって思うんだけど。
にえ そうだね。SFじゃないよなってのもあったし、「不思議のひと触れ」でズキズキ来た繊細さも影を潜めていたし、でも、そういうのを取っ払うと、これはこれでおもしろいんじゃないかというものが幾つもあったし、 満足はできたよね。
すみ スタージョンが初めてだったら、なにもこの本から読まなくてもいいかなって気がするんだけど、そうじゃなければそこそこ読み甲斐のある短編集だと思いましたってことで。
<ここに、そしてイーゼルに>
ジャイルズは画家だったが、今は絵を描いていない。彼はロゲーロという名の騎士で、ピポグリフを乗りまわす魔法使いの虜となっていて、牢番アトランテスに啓示を与えられているところだからだ。 そこにミス・ブラントという、あまり美しくない女性が訪ねてきた。ミス・ブラントはどうしてもジャイルズに絵を描いてほしいようだ。
にえ これはスタージョンがかなり気に入ってる作品みたい。正直なところ、騎士ものが超苦手な私には読みづらくて苦労してしまったし、ラストが「良い話」的な終わり方なのもちょっと物足りなかったりしたけど。
すみ パラレルワールドものって言えばいいのかな。絵描きであるジャイルズの現実と、ジャイルズの頭の中で繰り広げられる騎士の冒険物語が同時進行していて。この騎士もののほうは、なんの世界を描いたものがわかったとき、しまった〜、先にそれ読んでたら楽しめたかも、とちょっと悔しかったりしたけど。
<時間のかかる彫刻>
病による死を目前にした二十代半ばの彼女は、果樹園でなめし革のような肌をした四十男に出会った。果樹園も、発明品にあふれかえった屋敷も、すべてその男のものだった。男は彼女の病気を治してやると言った。
にえ これを読んだ直後にたまたまテレビで年代物のエレキテル治療器を見たから驚いちゃった。
<きみなんだ!>
カリフォルニアで愛車モンスターを乗りまわしているときに、彼は彼女に出会った。すぐに愛し合い、一緒に暮らすようになって、彼はビリヤードをやめ、 車好きの仲間とつきあうのもやめ、仕事も夜勤をやめて昼間だけにした。
すみ これは男と女のズキッと来るお話だった。SF的要素はまったくないし、目新しい主題ではないけど、短いからこそ共感しやすいラストだった。
<ジョーイの面倒をみて>
チビ助のジョーイがバーで大男に喧嘩をふっかけ、面倒なことになってくると、のっぽ男のドワイトが駆けつけてきた。ドワイトは四六時中ジョーイを見守り、 ジョーイの身に何か起きないようにと気を配っていた。どうしてそうまでして赤の他人の面倒を見るのか、気になった俺は二人のあとを追った。
にえ これは読んでるあいだはなんだろう、なんだろうと思わされて、ラストに、そういうことかとニヤリとできる、なかなか小気味いいお話だった。
<箱>
不時着でパイロットとミスター・ペトリーリとスタイン坊やは死に、そのあとロドニーも死んだ。生き残ったのは、ハル、トミー、パム、ファティ、フリップという5人の子供と、鬼婆の保護観察官ミス・モーリン。 ミス・モーリンは一人ずつに忠告を与え、5人で大事な箱をキャンプ・シドニーまで運べと命じて死んでいった。
すみ 「ぼくら」という語り口で5人の子供のことが語られていくけど、1人1人の話のときは、それぞれが名前で呼ばれて、だれが語り手っていうこともわからない不思議な小説だった。
にえ その語り口と内容がどう関係するのか、ラストまでよくわからなかったけどね。でも、ストーリーのほうは「良い話」的ではあるけど、殺伐としたなかにホワッとやさしい気持ちになれて好きだった。
<人の心が見抜けた女>
サムは同じモーテルで暮らしているアフガン犬を連れた娘と知り合った。サムは彼女に、弟の復讐のために自分を殺そうとしているミリカインのことを話した。 人の心が見抜けるという彼女は、ミリカインに本気かどうか訊きに行った。
すみ これは突き刺さってくるようなラストで、苦々しいけど、そういうことかと納得もし、うまいなと思った。こういう痛さは好きかも。
<ジョリー、食い違う>
金曜日の夜、外出しようとしていたジョリーは、母親に呼び止められた。シャッズは薬で捕まるだろうし、ストローブにムスタングで来るような連中は事故で死ぬのが落ちだし、ジョーンのような娘は病気持ちに決まっている。 罵りつづける母親を残し、ジョリーはようやく外へ出た。
にえ これは最初から最後までがきれいにまとまっている短編だった。ガツンと来るほどのラストではなかったけど、なかなかっ。
<〈ない〉のだった−本当だ!>
ヘンリー・メロウはオフィスの自分専用トイレでふんばっているとき、トイレットペーパーの切れ端から、人類の歴史を変えるような発明を思いついた。
すみ 発明品はともかくとしても、発明に至るまでのレポートのようなものが挿入されていて、その内容にけっこう感動してしまった。そうか、人間ってそうだったのか、そういえばそうなんだよな〜。
<茶色の靴>
メンシュとフォーナはあるリゾート・タウンに近い森の中の小さな家で暮らしていた。そのあたりは若き芸術家たちが暮らしていて、若い二人も自分たちなりに快適な暮らしを謳歌していた。 ところが、メンシュが特殊な装置を発明したために、二人の暮らしは変わってしまった。
にえ これも発明品が出てくる話。でも、主題はそちらではなく、メンシュとフォーナという男女間のつらい隔たり、かな。苦いな〜。
<フレミス伯父さん>
田舎町で暮らすフレミス伯父さんは人気者だったが、一部の人には憎まれているようだった。たとえば鍛冶屋がそうだったが、そこは田舎町のこと、フレミス伯父さんが嫌がらせを受ければ、みんなが面と向かって抗議はしないまでも、 その鍛冶屋に行かなくなり、鍛冶屋はつぶれて町を出て行くしかなくなった。伯父さんは定職を持たず、ときおり木の枝で井戸を探しあてたり、ガツンと一発叩いて電化製品をなおしたりして手間賃をもらって暮らしていた。ところがある日、伯父さんはいなくなってしまった。
すみ なんだかとっても魅力を感じるフレミス伯父さんと、なんだかやたらと借金をして上滑りな生活をしている青年の話。これは良いよ。まさか、ああ、でも、そうだったのか、フレミス伯父さん! 
<統率者ドーンの〈型〉>
大尉が構えたレーザー銃は、統率者ドーンの眉間に狙いを定めた。これで人々は支配から解放され、自由を手に入れられるはずだった。ところが、大尉の目の前が真っ暗になった。 何が起きたのか? 女に邪魔をされたのだ。女はドーンのシークレットサービスの盾を持っていた。
にえ これはなんか私的には、ああ、そうですかで終わってしまったんだけど。
<自殺>
ボイルは飛び降りた。そして、なぜか山の急斜面に落ちていた。
すみ なんというのかな、こういうストレートに良心的な哲学を差し出されるお話って私は引いてしまうんだけど。