=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「コンスエラ ―7つの愛の狂気―」 ダン・ローズ (イギリス)
<中央公論新社 文庫本> 【Amazon】
残酷でグロテスク、そして悲しい7つの愛の短編集。 カロリング朝時代/ヴィオロンチェロ/ガラスの眼/マドモアゼル・アルカンシエル/ごみ埋立地/一枚の絵/コンスエラ | |
私たちにとっては、2冊めのダン・ローズです。これはイギリスでは、私たちが前に読んだ「ティモレオン」の前に出た本ってことになるのよね。 | |
長編小説の「ティモレオン」を読んだ方のほとんどが、この作家さん、短編が巧い作家さんなんだなと思ったよね。ダン・ローズの短編集を期待していた人、多いのでは? | |
巻末解説読んだら、「ティモレオン」のあとに発表された作品も邦訳が決まっているみたい。これまた楽しみだね。こちらは女性名前のペンネームで書いたものだそうで、それについてはこの「コンスエラ」を読むと、なんとなくわかる気がするかも。 | |
独特の愛の世界だったよね。7つの短編集のうちの大部分が、美しい女性の容貌に惚れた男性と、容貌ではなく、中身を愛してほしい女性の話だった。 | |
かなりグロテスクなものが多かったよね。でも、内容以上に、もっと私自身を愛してよと男に要求する女のほうがグロテスクだったかも。たしかに「愛の狂気」だ。 | |
男たちはナイーヴで、純粋すぎて幼くさえ思えるほどで、女の要求に応えようとする姿は痛々しいほどだった。 | |
うん、痛々しかった。時間をかけてゆっくりはぐくむ愛は、この本にはなかったね。「ティモレオン」を読んだときにも、こういう残酷さを求めるのは作者の若さゆえかな、なんてことを思ったりしたけど、 この本についてもまた同じことを思ったりもした。 | |
とにかくでもまあ、若手イギリス作家ベスト20のうちに選ばれるような方だから、やっぱり上手いね。独自の雰囲気がしっかりあって。 | |
<カロリング朝時代>
建築学部の高名な看板学者である教授は、この30年来、個人指導はカロリング朝時代についての歌うように節のついた話からはじめている。今日も、フランス人留学生の女学生にこの話から始めたが、目は彼女の美しさから逸らされることはなかった。 | |
これは年老いた教授と、若く美しいフランス人女子留学生の短い邂逅のお話。若さはいつも残酷だね。 | |
けっきょく、教授は女学生の美しさしか見てないんだよね。女学生は教授の授業どころか、言葉さえも理解できていなくて。でも、美しさに惹かれるのは悪いことじゃないと思うんだけど。 | |
<ヴィオロンチェロ>
ベトナムで、19才の少女ゴックは、両親を手伝って5人の弟たちの面倒を見ながら、大学を目指していた。そして、毎週日曜と火曜と金曜の夜7時になると、閉館した図書館の前で1時間だけチェロを弾いていた。しだいに美しさを増していくゴックのチェロの音は、 いつしか観客を集めはじめていたが、なかでもテュアンがゴックに寄せる想いは特別だった。 | |
これはいきなり舞台がベトナムだったから、ちょっと驚いた。チェロを弾く美少女と、その美少女に報われない恋をする青年の話。 | |
展開も驚くよね。ストーリー的には珍しくはないし、予想のついた結末ではあるけど、痛みとともに美しさが心に残るようだった。 | |
<ガラスの眼>
コケッティータは自分よりずっと年下の青年と、森の真ん中の小さな空き地にある、ハート型のベッドのうえで暮らしていた。青年はコケッティータの美しさに魅了され、初めて愛を知ったと思った。コケッティータの皺も白髪も、そして左目の義眼さえも、彼にとってはすべてが魅力だった。 | |
これはもう、初っぱなから狂気の世界。皺だらけで白髪の老婆と、愛ゆえにその老婆を美しいと信じきる青年が、なぜか森の中のハート型のベッドで暮らしているという。 | |
読者からすればわかることが、当事者にはわからないってところが愛、もしくは愛と思えたものの狂気なんだろうな。 | |
<マドモアゼル・アルカンシエル>
引っ越してきた早々から、ジャン=ピエールは家主のジャン=リュックは友達になった。お気に入りのベランダで、一緒に食事をし、ビールを楽しむ。向かいに住んでいるマドモアゼル・アルカンシエルは感じの良い素敵な女性で、 どうやら仔猫を飼いはじめたらしい。ジャン=ピエールは地下室でひそかに練習しているトロンボーンを、いつかはマドモアゼル・アルカンシエルに聴かせるつもりだった。 | |
これはフランスが舞台かな。二人の青年に一人の美女ってお話。ありがちなすとーりーではあるけれど、マドモアゼル・アルカンシエルはたぶん、この本の中で一番魅力的な女性かな。動物が好きで、靴が汚れていてもセーターが破れてしまっても、いいの、いいのって笑っているような人で、一緒に暮らせば幸せになれそうな。 | |
狩ってきたウサギをさばいて調理するシーンが怖かったな。美味しそうでもあったけど(笑) | |
<ごみ埋立地>
自治体に個別のゴミ箱を撤去された彼は、ゴミを捨てるために忍びこんだゴミ捨て場で、マリアという少女に出会った。マリアは焦茶色の肌に淡いブルーの瞳の美しすぎる少女で、素肌に拾った物を着て、ごみ埋め立て地の夢を語った。 | |
ゴミ捨て場の美少女と、美少女に恋をする青年のお話。青年はゴミになんて興味はないけど、ゴミに夢中な少女に気に入られるためには、ゴミやゴミ捨て場に興味を持っているふりをするしかなかったのよね。 | |
相手に気に入られるために、相手の好きなものを自分も好きなふりをするって、恋の常套手段だし、そのまま自分も好きになっちゃうってこともよくあると思うんだけど、ダン・ローズの世界では、そういういいかげんさは赦されないのねえ。 | |
<一枚の絵>
森の奥の小さな空き地で絵を描いていた画家は、完成した絵のなかの美女に恋をして、夢中になって絵を見る以外なにもできなくなってしまった。画家は衰弱し、死んでしまった。 | |
これは悲しいながらも、ちょっと笑ってしまう? 絵のなかの美女の魅力で、死が連鎖していくお話。 | |
あくまでも美しさにこだわるこの作家さんは、とうとう現実の美女だけじゃなく、紙の上の美女にまで、美による力を与えてしまうのね。 | |
<コンスエラ>
裕福な家の素晴らしくハンサムなペリコは、同じく裕福な親族の娘たちのいずれかと結婚することになっていた。ところが、薪を積んだラバを追う農家の娘コンスエラと出会って、その美しさに魅了されてしまうと、 コンスエラ以外とは絶対に結婚しないと決めた。 | |
美貌によって、ハンサムで裕福な男性を射止めることができたコンスエラは、自分の美貌ではなく、自分自身を愛することを男に要求しつづけるの。 | |
女の私からすると、こういう女は甘やかさないで痛い目に遭わせた方がいいんじゃないか、とか思ってしまうんだけど(笑)、ダン・ローズは愛ですべてを乗り越えさせなくては気が済まないのね。とはいえ、わかるような気もするんだけど。 でもでもそれ以前に、ここまで同じテーマにこだわるこの人の過去には、いったい何があったのかしらと思ってしまう。 | |