=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「星と呼ばれた少年」 ロディ・ドイル (アイルランド)
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1901年、ヘンリー・スマートはダブリンのスラムで生まれた。父親の名前もヘンリー、片足が義足で、娼家の用心棒。どこで生まれ育ったのか、なぜ片足を失ったのか、そういったことはまったくわからず、 訊いてもまともに答えなかったし、結婚式にさえ、両親や親戚というものも現れなかった。母親の名はメロディ、可愛らしい名前に似合わず、若いうちから老け込んでしまったのは、 12才の時からロザリオ製作所で働き、16才で結婚してからは、間も開けずに妊娠しつづけていたためかもしれない。ヘンリーは5才の時から弟を連れ、外で寝るようになった。空腹を抱え、盗みをはたらいてどうにか生き延びる。 ダブリンでそんな子供たちは珍しくもなかった。それは、ヘンリーたちがアイルランド人として生まれたためなのか? | |
私たちにとっては久しぶりのロディ・ドイル。ブッカー賞を受賞した「パディ・クラーク ハハハ」を含むバリータウン4部作で惚れこんでしまった作家さんです。 | |
バリータウン4部作といえば、アイルランドの庶民的、もしくはもうちょっと貧乏? な家族の悲喜劇だよね。離婚する両親にはさまれた少年の話とか、大家族の中の若い娘が相手のわからない子供を産むとか、 そんな家族にしてみれば大きな出来事だけどってところを描いてあって。 | |
ユーモアたっぷりだったりするけど、でも、ちょっぴり悲しくて、つらくて、切なくてって、人間味のあふれる作風だよね。 | |
私たちはアイルランドの、いわゆる普通の人たちがどんなふうなのかってところを、このロディ・ドイルから教えてもらったようなものだよね。家族ってものをとっても、とっても大事にしてて絆が強くて、悲しくても笑っていようとするような。 | |
この方の影響でか、私はアイルランドの男性というと、大酒飲みで声が大きいけど、根はあたたかく、しかも繊細ってイメージになっちゃってるんだよね。 | |
とにかく、ロディ・ドイルといえばアイルランド。でも、私たちのそういう、なんとなくで持っているイメージとは比べものにならないスケールで、ロディ・ドイルはアイルランド人であることを意識している人だと思う。この小説の存在を知ったとき、 ああ、ロディ・ドイルだったら、こういうものを書かずにはいられない、というか、いずれ書くべき人、書くことが書く前から決まっていた人なんだなと思った。 | |
この「星と呼ばれた少年」は三部作ものの第一部にあたるそうだね。一話ごとに完結はしているけれど、同じ主人公を追い続けた話で。 | |
第二部は今年、2004年に発表されたばかりだそうで、第三部はまだ原書でも出てさえいないんだよね。でももう、この三部作がアイルランドの文学史上にしっかりと光り輝く作品となることは、決まってしまったような感さえあるな。 | |
読み継がれるだろうし、読み継がれるべき作品だろうね。アイルランドの人たちにとって、これが特別な存在になることは当然だけど、私たちにとっても、ひとつの転換となりそうな・・・。 | |
そうなんだよね、アイルランドの独立については、今ひとつわかりきれていないようなところもあって、過激すぎたんじゃないかと思ったり、でも、アイルランドの人たちが文化さえ奪われ、虐げられで、やむを得なかったのかもなと思ったり。で、この小説で印象はガラリと変わったというか。 | |
自分たちがあまりにもなにも知らなかったんだと、ただただ驚くばかりだったよね。呆然としてしまう。表面的なものしか見ていなかったんだなと痛感させられたというか。 | |
この小説では、というか、三部作では、ヘンリー・スマートという、歴史に名を残さなかった闘士の物語なんだよね。 | |
ヘンリーはダブリンのスラム街の生まれなの。得体の知れないところのある父親ヘンリー、あまりにもなにも知らないまま、幼くして結婚してしまった母親メロディのあいだに生まれた子供。 | |
ヘンリーが生まれる前に、子供は二人死んでいるんだよね。母親の若さに加えて、貧しさ、不潔さ、無知、そういうものが原因だろうな。 | |
メロディは子供の世話も満足にできない母親だよね。生きている子供の世話もきちんとできず、夜空を見上げて星を指し、あれが死んだ子供のヘンリーだって、めそめそ泣いているような母親。 | |
そのメロディの子供っぽさが切なかったよ。母親なんだからしっかりしろって言うべきところなのかもしれないけど、そういうことをいう気持ちにはなれなかった。 | |
あとから回想して語っているらしきヘンリーにも、怒りや憎しみなんてものはまったくなかったよね。あるのはただ慕う気持ち、愛情だけ。ただ、満たされない愛情ではあるのだけど。 | |
死んだ子供の名前もヘンリーで、死んだ子供のことばかり話されて育ったら、自分が「しょうもない代役」だと嘆いたり、「ぼくがヘンリー・スマートだ」とことあるごとに叫ばずにはいられなかったりっていうのもわかるよね。 | |
5才でもう家を出て、それからはストリートチルドレンとなるけど、ダブリンの街にはヘンリーのようなストリートチルドレンがあふれているんだよね。そのほとんどがアイルランド人。 | |
そこから成長して、アイルランド独立をめざす闘士の一員になるんだけど、虐げられたアイルランド人の救出と独立の信念に闘志を燃やす、っていうのでもないんだよね。これについては最初のうち、え、なんでこういうタイプの主人公?と思ったけど、それは追々納得できてくる。 | |
それにしても、凄まじいばかりの死の連続。バリータウン四部作よりずっと暗くて重いよね。でも、ものすごい迫力で、読みだしたら止まらない。それに、暗くて重いとはいえ、いろんな人との出会いがあり、ときには微笑み、素敵な会話にドキッとしたり、温かい気持ちにもなりで、もうホントに小説そのものが愛しくなってしまうの。 | |
登場人物を愛することが、あとで自分を切りつける刃ともなるけどね。でも、愛さずにはいられないよね。おかしな答えばかりする父親、学校に入れてくれた美人の先生との軽妙な会話、まさにむさぼり読むって感じの本好きのおばあちゃん・・・、あ、それに、ヘンリーは背が高くて、とびきりのハンサムで、しかも頭も良いから、とにかく女性にもてるの、その女性たちの切なくも激しい出会いと別れ。ただ一人の女性との強い絆。 | |
アイルランドの独立については、読んで感じ取ってもらうしかないよね。歴史のさまざまな側面のひとつということになるし、いろんな受け取り方がされるべきだし。とにかく、私たちがこれを読んだことで、これまでの印象をガラリと変えさせられたってことだけ強調しておきたいけど。 | |
これはもう、なにをおいても読むべき一冊でしょう。そうだなあ、小説のタイプとしては私たちが読んだなかでは「ケリー・ギャングの真実の歴史」あたりが一番近くて、もっと濃厚、もっと強烈にした感じかな。とにかく強くオススメですっっ。 | |