すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「バートン版 千夜一夜物語」 第9巻   <筑摩書房 文庫本> 【Amazon】
世界最大の奇書「千夜一夜物語」を、世界に名高いバートン卿が翻訳した「バートン版 千夜一夜物語」の全訳。大場正史氏の流麗な翻訳文に、古沢岩美画伯の甘美な挿画を付した、文庫本全11巻。
にえ さてさて、とうとう第9巻まで来ました。残すは第10巻、第11巻の2冊のみっ。
すみ そろそろまとめに入り始めますか、とりあえず、最終巻では、どれが好きだったかって話になるだろうし。
にえ そうだね。まず、これから読もうかどうしようかと迷っている方に。読んでみたい、でも、11巻はきっついな〜と思っている方もいるのではないかと。
すみ そういう方もいるかも、っていうより、私たちがそうだったんだけどね(笑)
にえ でも、読みはじめてみたら、これはよっぽどこういう話が嫌いな人じゃないかぎり、読了しようって気持ちさえあれば、だれでも読了できると思ったよ。そこは安心してほしい。
すみ まず一話ごとで考えるといいんだよね。それほど長くなくて、おもしろおかしいお話がサクサクと進んでいく。これだったらだれでも読了できるでしょ。あとは、これを何度も繰り返すというだけのこと。
にえ となると、飽きるかなって心配があるかもしれないでしょ。でも、一話ずつが完結していて、一気に読まなきゃいけないってことはまったくないから、たとえば毎年正月に読みはじめて、1年に1冊ずつ読んで、11年かけて読了するとか、先に5冊読んで、20年後に残りの6冊を読むとか、 そんな読み方でもぜんぜんかまわないの。
すみ あと、先に第7巻を読んでから、第2巻を読むとか、そういう読み方をしても支障はないよね。もちろん、2つの巻にまたがってるお話だけは、続けて読んだほうがいいけど。
にえ おもしろそうなお話だけ、先にチョイスして読んじゃうとかね。けっこう似たような話がいくつかあったりするから、むしろずぼらに、あいだをあけつつ読んだ方が楽しめるんじゃないかってぐらい。
すみ おっと、抄訳版と完訳版とか、そのへんの選択についてもお話ししたかったんだけど、まあ、それはこの次に。針師の手で目の片隅にほりつけておきますれば、痛いめにあってもよい者には薬となりましょう。
「モハメッド・ビン・サバイク王と商人ハサン」 第756夜〜第778夜
ペルシャの王モハメッド・ビン・サイバクは、古人の物語、詩歌、逸話、史談、冒険談、伝説などをこよなく愛していた。珍しい話を語って王の御心にかなったものは、多大な褒美を受け取ることができる。王は学識豊かなことで知られる商人ハサンの噂を聞き、さっそく呼び寄せ、珍しい話をするよう命じた。 ハサンは一年間の猶予を求めた。そのあいだに、幻の奇譚「サイフ・アル・ムルク王子とバディア・アル・ジャマル王女の話」を探すつもりだった。
<サイフ・アル・ムルク王子とバディア・アル・ジャマル王女の話>
エジプトの王アシム・ビン・サフワンと大臣のファリス・ビン・サリーは、サバの国のダビデの子ソロモンに知恵を授けられ、ようやく子宝に恵まれた。二人の子サイフ・アル・ムルク王子とサイドは、兄弟のように一緒に育てられた。成長した二人はそれぞれの親に地位を譲られ、王と大臣になったが、そのときに受け取ったソロモンからの贈り物のなかに、 麗しい乙女の肖像を織り込んだ陣羽織があったため、アル・ムルク王子は救いようのない恋の病におかされた。それは、バベルの都に居を定め、<大王アド>の子イラムの園に住む大魔王シャーヤル・ビン・シャルフの娘バディア・アル・ジャマル姫の肖像だった。アル・ムルク王子とサイドは、姫を王子の妻として迎えるため、国をあとにして旅立った。
にえ これは前に読んだ話と同じアイデアがいくつも使われていたけど、物語としては、わりときれいにまとまった物語になっていて、楽しめたかな。
すみ 今までになく新鮮で好きだったところは、まず出だしだな。とびきりおもしろい話を探してくるなんて始まり方だと、どうしても作中作への期待が高まるじゃない。あと、巨大女に誘われるっていうのは笑えた〜。
「バッソラーのハサン」 第778夜〜第831夜
バッソラーの国のハサンは、商人だった父が遺した巨万の富を使い果たし、金細工師となった。まじめに精進して店を持つまでになったが、そこに錬金術師の老人が現れ、目の前で銅の灰皿を純金の塊に変えられたため、運命を狂わせることとなった。苦難の末、魔王の7人の娘が住む屋敷にたどり着いたハサンは、そこでようやく安楽な生活をすることができた。 ところが7人の乙女の留守中に、開けてはいけないと言われていた部屋に入り、水辺に飛んできた鳥たちが羽衣を脱いで美しい乙女になるのを目撃したとたん、苦しい恋の病におかされてしまった。ハサンは7人の乙女の力を借り、意中の人である大魔王の娘を妻に迎えようとした。
にえ これは300ページに及ぶ長めのお話。ハサンと大魔王の姫君との出会いからはじまって、その顛末まで、いろんな人が絡んで、豪勢な物語が展開するんだけど、そのわりにキチンとまとまっていて、これはなかなか。
すみ 何話も読んだあとだと、同じアイデアってのが多くて感動が薄くなっちゃうけど、この話だけで1冊の本になってたら、まあ、なんて楽しい物語だろうと、かなり感動したかも。
「バグダッドの漁師ハリファー」 第831夜〜第845夜
バグダッドの漁師ハリファーは、あまりに貧乏で妻さえいなかった。ある朝、投網を担いで出掛けると、なんと網にかかったのは醜い猿だった。がっかりするハリファーだったが、なんとその猿はしゃべりだし、猿に言われたとおりにもう一度網を投げると、 今度は赤い毛で、腰に青い腰布を巻き、手足をヘンナで染め、両目をコール粉で黒々とくまどった、見目のよい猿があがってきた。二匹の猿はハリファーに、金持ちになる方法を伝授した。ところが、ハリファーはあまりにも愚かで・・・。
にえ これは抱腹絶倒の物語。楽しかった。アホのハリファーに教主ハルン・アル・ラシッドがからんでくるんだけど、とにかくハリファーがアホアホで、酷い目にあいまくってしまうの。
すみ 展開も意外性があって楽しかったよね。リズム感があって、サクサク進んでいくお話に乗ってしまった。
「バグダッドの漁師ハリフ」(ブレスル版による)
バグダッドのハリフは、おしゃべりで運に恵まれない漁師だった。ある朝、投網を担いで出掛けると、なんと網にかかったのは醜い猿だった。がっかりするハリフだったが、なんとその猿はしゃべりだし、猿に言われたとおりにもう一度網を投げると、 今度は姿がきれいで、耳に金飾りをつけ、青い腰布を巻いた猿があがってきた。二匹の猿はハリフに、金持ちになる方法を伝授した。ところが、ハリフはあまりにも愚かで・・・。
にえ これは「バグダッドの漁師ハリファー」の別バージョンってことになるんだけど、ほとんど同じ話。研究家でもなんでもない私たちには、単に同じ話を2度読まされたってだけかしら。
すみ こっちのほうが短いんだけど、短くしている分、かえってテンポが悪くなってるし、物語の豊かさも半減してしまっているような気が。「千夜一夜物語」のなかの物語が長々しく感じても、それを短くしちゃうと、味わいが減って面白味も薄くなるんだなとわかったことが収穫かな。
  
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