すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「オールド・エース」 アニー・プルー (アメリカ)  <集英社 単行本> 【Amazon】
短期大学を卒業後、2度めの就職先であるグローバル・ポーク社で、養豚施設の用地探し担当者の一人となったボブ・ダラーは、テキサスのパンハンドルに向かった。 周囲に撒き散らす耐え難い悪臭などから養豚場を嫌う住民たちの反感を避けるため、グローバル・ポーク社の人間であることを隠さなくてはならなかったボブ・ダラーは、 老人用の保養住宅用地を探しているということにして、まず地域に溶け込むことにした。しかし、待っていたのは一癖も二癖もあるような牧場主ばかりだった。
すみ 私たちにとっては、「シッピング・ニュース」から、だいぶあいだがあいての2冊め、アニー・プルーです。
にえ 「シッピング・ニュース」で好き!と思った作家さんだったけど、この本でもう心酔したってところかな、良かった〜。もう無条件に良かった〜。
すみ ホントに良かったよね。ただ、「シッピング・ニュース」を読んで、ちょっと退屈だと思ってしまった方には勧められないかも。そんな方には、この本はもっと退屈かも。
にえ ほとんど最後の最後のほうになるまでは、ストーリーはあるようなないような、かなりダラダラと進んでいく感じだよね。
すみ というか、最後の最後になって、じつは向かってる方向がちゃんとあったんだって気づく感じよね。いや、だんだんとその流れが見えてきて、最後の最後にパカっと視界が開けるって感じかなあ。
にえ とにかくまあ、起伏のあるストーリーとかは期待せず、のんびりと導かれるままになってるのが一番だよね。そうすれば、いつのまにか読み終わりたくないってぐらいに魅了されてる。
すみ うんうん、二段構えになっているから、厚さで予測したよりも読むのに時間がかかったけど、それでも最後のページにたどりついちゃったときには、もっと読みた〜いっ、と心底思ったよ。
にえ でも、この小説の良さを言葉で伝えるのは難しいな。読んで感じ取ってもらうしかないような。
すみ 私もそう思う。でも、いちおう、ストーリーというか、設定的な物だけは説明しておくと、主人公のボブ・ダラーは25歳の青年。8歳の時、かなり貧乏な古物商のタムっていうおじさんに預けられ、それっきり両親は行方不明。
にえ 古物の靴を履かされ、古物の服を着せられ、狭い家で暮らすことになるのよね。でも、タムおじさんは、それこそ無条件でボブを愛して大事にしてくれたから、ボブもつらい思いはしなくて済んだんだけど。
すみ でも、職を転々として、あげくに子供を捨てた父親のようにはなりたくないっていう気持ちは強くなったし、古着ばかり着ているから、なかなか友だちが出来なかったりしたんだよね。
にえ で、まあ、どんな青年かといえば、この小説の中で他の登場人物にも言われているけど、フワフワとした柔らかい印象の青年。25歳にしては、ちょっとノンビリしすぎているような。
すみ ノンビリしながらも、将来の不安とか、どう生きるべきかとか、ボブなりには悩んでいるよね。新しく就職したグローバル・ポーク社で、なんとか実績を上げたいと思ってるし。
にえ グローバル・ポーク社は、豚皮スナックの会社なんだよね。これはポーク・ラインドといって、豚皮の皮下部分を揚げた駄菓子なんだって。アメリカ南部ではメジャーなお菓子みたい。
すみ それを作るためには豚が必要で、その豚を育てるための養豚施設の用地を探しに、テキサスのパンハンドルってところに行くんだよね。ところがそのあたりではすでに他の会社の養豚施設があって、そこが出す悪臭で病気になる人が出ているほど。
にえ だから、とりあえず老人の保養住宅用地を探しているって触れ込みでパンハンドルに入り、土地を手放そうとしている老人を探すことにしたの。
すみ パンハンドルの人たちは気さくで、昔話が好きで、親切で。でも、しばらくいるとわかってくるけど、けっこう頑なで、閉鎖的なところがあって、ボブも苦労するんだよね。
にえ そこには実は、開拓からの長い歴史が背景としてあるんだけどね。もともとは自然の営みだけで保たれていた土地が、いかにして荒れてしまったか、だんだんとわかってくるんだけど。
すみ もともとはバッファローの土地なんだよね。バッファローがいることで保たれていた緑の草原が、あとから連れてこられた牛によってダメにされる、どうしてだか知ってた? 知らなかったよね。
にえ その牛にしても、自由放牧の時代から有刺鉄線の時代に移り、乾いた土地だけに水車の歴史というものがあり・・・とにかく、読んでいくうちに、そうか、パッと見ではわからなくても、土地、土地にはそれぞれ深い歴史が、変遷ってものがあるんだなと肌で感じるように理解できていって、それだけでももうジーンときてしまった。
すみ あと、パンハンドルの人たちの人生の要所、要所が幾度も語られていったよね。どこにでもいるような老人にしか見えなくても、それぞれが自分の人生をなんとか切り開いていこうとした歴史ってものがあるんだなと、それもまたジーンと来っぱなしだったよ。
にえ アニー・プルーって、その土地に移り住み、そこで暮らすことによって少しずつ学び、その土地を少しずつ愛し、その土地の人間に少しずつなっていく、そういう経験を小説のなかでさせてくれる作家さんだよね。「シッピング・ニュース」でもそうだけど、この小説ではもっともっとそうだった。
すみ だから、小さな町でのちょっとした出来事も、自分がその場にいるみたいにドキドキしたり、主人公が他の登場人物に言われた何気ないセリフに、ズキッときてしまったりするんだろうね。「シッピング・ニュース」も何度も読み返したい小説だなと思ったけど、これもそうだな。何度も何度も読み返して、パンハンドルに暮らしていたい。
にえ どうしても翻訳本が好きだとアメリカの作家を読む機会が他の国の作家より多くなってしまうけど、アニー・プルーはもう2冊読んだだけで、アメリカ作家のなかで私たちの好きなベスト10に入ってしまったね。いや、ベスト5内と言っていいかな。のんびり読む覚悟ができた方には、かなり強くオススメしたいです。