=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「シッピング・ニュース」 E・アニー・プルー (アメリカ)
<集英社 文庫本> 【Amazon】
ニューヨーク州北部の荒涼とした町のいくつかで育ったクオイルは、不器用で とりえもなく、親に疎まれ、兄に虐められ、ブクブクと太って巨漢になり、だれからも愛されることも、誉められたことも なかった。はじめてできた友だちは、自信満々の黒人記者のパートリッジ。パートリッジは自分が勤める三流新聞社を紹介 してくれ、クオイルはそこで働きはじめる。給料は安く、都合のいい時期だけ雇われてあとはクビになって給料さえもらえ ない仕事だったが、クオイルはいいように利用され、踏みつけにされていることに気づくことさえなかった。やっと愛する 女性ができ、結婚したが、その女性もまたクオイルを利用するだけで、あとは次々に恋人をかえて遊び歩く。それでも愛に しがみついていたクオイルだが、三十歳の時に妻が浮気相手と交通事故を起こして亡くなり、妻が二人の娘を売ろうとして いたことを知り、両親が借金を抱えて身勝手な自殺をとげ、とうとう三流新聞社を永久に解雇されると、人生をやり直すた め、二人の娘たちと両親の死をきっかけに知り合った叔母アグニス・ハムを伴い、父祖の地、カナダの東に浮かぶ島ニュー ファンドランドへ渡ることにした。 1993年度全米図書賞受賞作品 | |
ものすごく地味な企画になってる「全米図書賞受賞作品を読もう!」の8冊めです。 | |
だれも期待していないって噂が(笑) | |
いいの、自己満足だから。それに、こういう読み逃してた素敵な小説に出会えるから、 やっぱりやってみてよかったと思うのよね〜。 | |
うん、ほんとにいい小説だった。主人公が典型的なダメ男なんだけど、 読んでてイライラさせられるところが一か所もなかったし。 | |
そうそう、踏んづけられててもわからないようなところはあっても、 ものすごく共感できるタイプだったよね。 | |
文章は下手くそでも、不思議と人の話が聞き出せる男っていうような 描写があったけど、そのままの人格がこっちに伝わってきたみたい。 | |
ビクビクしてて、まったく行動がとれないような人ではなかったからかな。 前の奥さんが子供を売ったって知ったときも、すぐに助けに行ったし。やるときはやるよね。 | |
それにしても、ひどい奥さんだった。クオイルが奥さんを喜ばせようと山ほど クリスマスプレゼントを贈っても、奥さんはクオイルの存在すら覚えてないのか、なにも買ってないからって冷蔵庫に 入ってた卵を2個、プレゼントよって平気で渡せるような人なの。 | |
それを、大事な意味があるに違いないって無理に思いこんで、喜ぶクオイルもクオイルなんだけどね。 | |
そんな奥さんも亡くなって、両親も自殺して、出会ったのが叔母のアグニス・ハム。 | |
忘れられないつらい過去がいくつもあって、でも自活できるだけのバイタリティーがあって、 しゃきっと背筋を伸ばしてる小柄な女性を想像したな。 | |
アグニスがファンドランドで暮らそうって誘うのよね。 | |
ファンドランドは寒さが厳しくて、漁業が中心だったけど、海外からきた漁船のために 漁場は荒らされ、素敵〜なんてノンビリ言ってられる島じゃなかった。 | |
出ていく人が多いみたいだしね。とくにクオイルたちが住もうとした家は、 古くて、しかもちゃんとした道が通ってなくて、自動車よりボートで行ったほうが楽な僻地だし。 | |
クオイルは唯一の友人パートリッジの紹介で、地元紙「ギャミーバード」の 記者の職を得ることができたから、まだ良かったけど。 | |
これがまたかなり変わった新聞社だったけどね〜。ワンマン経営のオーナーは漁師だし、 他の記者たちも、とてもじゃないけど記者とは思えないような人たちだし。 | |
でも、風変わりなようで、深く知ることができると、素晴らしい人たち だって気づくことができるのよね。 | |
ほかにもいろんな人たちに出会い、海を知り、船を知り、さまざまな出来事があって、 少しずつ、少しずつクオイルは変わっていくの。 | |
そういうふうに言うと、ありがちな癒し系小説だと思われちゃうよ。じっさいはけっこう シビアだったじゃない。登場人物が気づかないあいだに、あとで関係を修復できないような人を傷つけることを言ってしまったり、 人の痛みが見過ごされてしまったり。 | |
大人が子供を理解することの難しさも出てくるしね。かならずしも全部がハッピーエンド、なんて 甘いものじゃなかった。だけど、読んでるあいだ、すっごくあたたかい気持ちになれたな〜。 | |
作者の人生経験の深さが、そのまま深い味わいのある小説に反映されてるって気がしなかった? | |
うん、ホントにホントに上質の小説でした。ぜったいオススメ! | |