すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ロクス・ソルス」 レーモン・ルーセル (フランス)  <平凡社 平凡社ライブラリー> 【Amazon】
4月初めの木曜日、私たちは友人の科学者マルシャル・カントレルの美しい別荘に招かれた。モンモランシーにあり、広大な庭園を有するその別荘は、ロクス・ソルス(人里離れた場所―ラテン語)荘という名前だった。 カントレルはその別荘で弟子たちと、成果豊かな様々な研究に携わっていた。最後の客が着くと、カントレルは私たちを連れて敷地内を散策しながら、研究の成果である驚くべき展示物の数々を見せてくれた。
すみ 私たちにとっては、「アフリカの印象」から久々、2冊めのレーモン・ルーセル作品です。
にえ この「ロクス・ソルス」は1988年にペヨトル工房から単行本が出ていたんだけど、その後、ペヨトル工房は出版活動を中止。もうこの作品の邦訳本が出ることもないだろうと諦めていたんだけどね。 それがなんと、2004年に平凡社から、もとの翻訳者みずからが改訳したものが出ることになったという嬉しい1冊。
すみ ホントに嬉しいよね。無理だとは思いつつ、出て欲しかった〜っ。しかも、巻末のあとがきによると、フランスでレーモン・ルーセルの遺稿が大量に見つかり、全集が出始めているそうじゃない。
にえ レーモン・ルーセルがどういう作家かは「アフリカの印象」の紹介でちょっと触れたから省くけど、本当に素晴らしい作家だよね。「アフリカの印象」でも感激しまくったけど、その感激が「ロクス・ソルス」で確信に変わったかな。
すみ 一般受けしづらいってところはあるのかもしれないけど、この奇抜で豊かな想像力から繰り広げられる、奇妙にして美しい小説の魅力には悩殺されてしまう人も多いと思うよ。
にえ 一人の頭の中から、これほど独創的な発想が次々と出てくるっていうことには本当に驚かされるよね。
すみ これを読んでみて思ったけど、初めてレーモン・ルーセルを読む方には、「アフリカの印象」よりもこっちの「ロクス・ソルス」をオススメしたいかも。
にえ そうだね。え、なになに?って感じの、興味深くもなんのことやらサッパリわからないような仕掛けや見世物的なものの細やかな描写が続き、そのあとですべてが説明されて、深い意味があったことなんだと驚き、 その物語の豊かさに感動してしまう、という基本構造は同じだけど、「アフリカの印象」の場合は、1冊の本の前半部分がそのわからないものの描写、後半部分が謎あかしの物語となっているから、前半分を読み終えるまでがちょっと大変だった。その点、「ロクス・ソルス」はそれほど長くない 各章ごとでその構成になっているから楽っ。
すみ とはいえ、「アフリカの印象」を読んだときの、あの大きな衝撃も忘れがたいけどね。
にえ うんうん、あれは衝撃だった! 不思議なものたちの描写のあとで、エキゾチックで奥行き深い物語が裏に隠されていたんだと知り、震えがくるぐらい感動してしまった。もう面白さに魅了されまくったし。
すみ 「ロクス・ソルス」で、まあまあ、もしくはかなりいいかも、と思ってくれた方には、ぜひ「アフリカの印象」も読んでいただきたいね。
にえ 「ロクス・ソルス」のほうは、天才的な科学者カントレルの案内で、カントレルの別荘の敷地内にある、カントレルが発明した不可思議な装置などなどを見て歩き、ひとつ見るごとに、説明が入るっていう、章ごとにあるていど独立した構成になってるの。
すみ まあ、とにかくその奇想天外な発想による驚くべき装置などについては、読んで語り手とともに驚きまくってもらいたいね。
にえ たとえば、ダイヤモンドのようにキラキラと光る水が入った水槽の中で、普通に呼吸をしながら髪の毛で音を奏でる美女。たとえば、小さくも美しい音楽が聞えてくる、薄いトランプ。もちろん、本文中ではこんな簡素なものじゃなくて、もっともっと謎めいていて複雑なものなんだけど、 まずは、説明なしにそういうものが細やかに描写されているんだよね。
すみ ちょっと文字だけじゃ理解しにくい複雑な装置とかもあったけど、まずはざっと読んでみるといいかな。どうせあとで説明が入ったときに、もう一度読み返したくなるから。もう一度読むときに、なるほどなるほど、とわかってくればいいって感覚で。
にえ とにかく、興味深くも、だからいったいなんなの?ってものが細かく、細かく描写されていて、頭の中が「?」だらけになりつつ読み終えると、次にはカントレルによる解説が。
すみ これがまた化学的だったり、生物学的だったりする科学的な説明もありつつ、歴史上の有名人、著名人も出てくる史実を踏まえていたりする、悲しかったり、微笑ましかったり、とにかく胸躍る物語が紹介されているのよね。
にえ ただ〜し! だよね(笑) 物語を裏付ける科学や歴史といった知識の数々は、真実とルーセルの想像が複雑に絡み合い、というか、ルーセルの想像のほうが大部分を占めるか、でも、まことしやか、でもでも、奇想天外、荒唐無稽、でもでもでも、美しくて、すべて真実とむりやりにでも信じたくなる。これを嘘ばっかり、なんて片づけたりはしないで欲しいっ。ルーセルの想像世界に身をゆだねてっっ。
すみ 物語がまたどれも素敵なのよね。娘を失った悲劇に苦しむ父親、小さな出来事によって危うく保たれていた精神がガラガラと音を立てて崩れ落ちていった女性の秘めらた過去・・・どれもこれも、そういうことだったのかとわかったときには、そういうことだったのか〜、ジーンと感動。
にえ 奥行き深い物語以外では、植物や動物の話が好きだったかな。美しく光ったり、並はずれて賢かったり。
すみ 読んで確かめていただきたいから、なるべく語りたくないけど、一人でも多くの人に読んでもらって、その中の何人かが悩殺されてくれればいいなと思うから、強く推したくなるし、こういうときは話すのに困るね。
にえ 本の裏表紙にあった紹介文の中の、「言葉の錬金術師」ってまさにレーモン・ルーセルにピッタリじゃない? この方以上にこの言葉が合う人っていないと思う。とにかくまあ、読んでみてくださいよ。ということで、オススメですっ。