すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「バートン版 千夜一夜物語」 第4巻  <筑摩書房 文庫本> 【Amazon】
世界最大の奇書「千夜一夜物語」を、世界に名高いバートン卿が翻訳した「バートン版 千夜一夜物語」の全訳。大場正史氏の流麗な翻訳文に、古沢岩美画伯の甘美な挿画を付した、文庫本全11巻。
にえ さてさて、では、どのような構成になっているかってお話を。
すみ お話じたいが入れ子細工のようになってるっていうのは第2巻のときにしたから、もうちょっとパッと見でわかるところのお話ね。
にえ パラパラッと見たとき、すぐに気づくのは、物語の中に詩がたくさん挿入されているってことかな。このたくさんの詩のおかげで、じつは分厚い見かけによらず、サクサク読み終えることができたりするんだけど(笑)
すみ 五行詩もあれば、かなり長いものもあり、日本の俳句みたいに、だれかの作った詩に対して、他のだれかがお返しの詩を書くってパターンもあったね。あと、ルートに合わせて歌う歌詞のようなものもあった。
にえ 内容も、私たちがこれぞ詩だと認識しているような、選びに選んだ言葉によって美しく人や花を讃えたようなものもあれば、話し言葉と変わらないようなものもあったよね。わざわざ詩にしなくても、そのまましゃべればいいのにってぐらいの。あと、短い物語になっているものもあった。
すみ こういう詩ってものは、ホントに世界中、どこへ行っても古くからあるよね。言葉が生まれたあとには、かならず詩が生まれるようにできているものなのかしら。イスラム圏の人たちは、今でもとくに詩を詠むのが好きみたいだけど。
にえ 詩の次に目につくのは、やっぱり原注だよね。バートンが本当に細かく解説してくれてあって、ひとつの物語が終わるごとに、たっぷり原注がついてるの。
すみ これについては、もちろん番号が振ってあるんだけど、読んでる最中によっぽど引っかからないかぎり、あとでまとめて読んだ方がいいと思う。
にえ そうそう、物語を読むうえで重要な解説が付いているときもあるんだけど、違うときもあるよね。イスラム文化を学ぶうえで、ためになる知識をたっぷり書き込んでくれているものもあるし、あと、 物語の途中で読むと、がっくり脱力するようなのもあるの。たとえば、「東洋の女主人公は常に食欲旺盛で、健啖ぶりを発揮する。分別のある東洋人なら虚弱なパリ娘をどこまでもさげすむだろう。わたしならそうした娘を病院に入れたいところである。」なんてのもあったりして。 こういうのはぜんぶ読み終わってからだと微笑めるけど、物語の途中で、なんだろう、と思って必死でページをめくると、ガクンときちゃう(笑)
すみ ああ、妹よ、また夜が白々と明けてきてしまいました。読んでいくうちに思った千夜一夜物語におけるイスラム教の考察なんてものを、ちょっとやりたかったんですが、それはまた次の夜に。
「カマル・アル・ザマンの物語」 第170夜〜第249夜
ペルシャ人の国境にある、ハリダン諸島を治める王シャーリマンは、老いてからようやくできた息子カマル・アル・ザマンを深く愛した。しかし、年頃になったカマル・アル・ザマンが決して女とは結婚しないと言いだして、 ほとほと困り果てていた。大臣の進言で3度めに結婚を勧めたとき、カマル・アル・ザマンは家臣たちの居並ぶなかで父王シャーリマンを罵倒した。怒ったシャーリマンはカマル・アル・ザマンを塔に閉じこめたが、その塔に魔女神(ジンナー)が訪れて、美しい娘を連れてきた。 その娘は遠い国の、どうしても男と結婚したくないと言い張って、父王に閉じこめられていた王女だった。
<ニアマー・ビン・アル・ラビアとその奴隷娘ナオミの話>
カマル・アル・ザマンの息子アムジャッドとアスアドを慰めるため、バーラムが話したところによると、むかしクファという都にいた商人の息子ニアマーは、奴隷女の娘ナオミと兄妹のように育った。やがて二人は愛し合い、結婚したが、ナオミのあまりの美しさに目を奪われたクファの副王アル・ハジャッジは、 大教主アブド・アル・マルク・ビン・マルワンにナオミを贈りたいと思い、奸計をめぐらせた。
にえ これは、この巻の3分の2ぐらいを占める長めのお話。まるで昼メロのように話は急展開しまくり、やたらとエロティックな方向へ持って行かれるから、ちょっと物語としては破綻しかけているんじゃないかなって気はするけど、 妙に魅力的でもあったりするの。
すみ 清らかで一途だった女性が、時を経ると姦婦に変貌したりして、なかなかすさまじいお話だったよね(笑)
「アラジン・アブ・アル・シャマトの物語」 第249夜〜第269夜
カイロの商人シャムス・アル・ディンは、ようやく恵まれた息子アラジン・アブ・アル・シャマトが無事に成長するよう、地下室から出さずに育てることにした。まだ髭ははえそろわないながらも、 ようやく地下室から抜け出したアラジンは、父に頼んでバグダッドへ旅立った。しかし、連れの忠告を聞かなかったため、身ぐるみはがされ、供の者もなくし、ようやく辿り着いたバグダッドで途方に暮れていると、老人に声をかけられ、中間婚礼の夫役を頼まれた。
にえ 中間婚礼というのはコーラン法で、一度離婚してしまった夫婦が再婚したいとき、妻がいったん他の男と結婚して、離婚してからでないと前の夫と結婚できないという決まりがあることからきたもので、アラジンが結婚させられることになったズバイダーは、一夜かぎりでアラジンと別れ、もとの夫とよりを戻す予定なの。
すみ でも、ズバイダーは前の夫がもとから好きじゃないんだけどね。そこに現れた見目麗しき青年アラジン、と話は進んでいくの。
「タイイ族のハティム」 第269夜〜第270夜
タイイ族のハティムの墓がある山の麓に、ヒムヤルの王ズ・ル・クラアが野宿をした。ズ・ル・クラアが冗談で、墓のあるほうに向かって、客なのにひもじい思いをしているぞ、と叫んだところ・・・。
「ザイダーの子マアンの話」 第270夜〜第271夜
マアンが狩猟中、喉が渇いて溜まらなかったところ、三人の少女が水を入れた革袋を持ってきてくれた。そこでマアンは礼をしようとしたのだが・・・。
「ザイダーの子マアンとバダウィ人」 第271夜
マアンがある日、狩猟に出掛けたところ、太守マアンに買い取ってもらえるよう胡瓜を運んでいる男と出会った。男は相手がマアンだと知らず・・・。
「ラブタイトの都」 第271夜〜第272夜
ロウムの国の都ラブタイトにある塔は、国王が変わるたびに錠前を増やしていったので、門に24個もの錠前がついていた。ある日、国王が錠前を開け、中を見たいと言いだして・・・。
「ヒシャム教主とアラブ人の若者」 第272夜
教主ヒシャムが狩猟の最中、出会った若者に、逃げていった羚羊のあとを追えと命じたところ、若者は生意気にも、教主の口の利き方がなっていないと言い返し、怒った教主は・・・。
「イブラヒム・ビン・アル・マーディと理髪外科医」 第272夜〜第275夜
甥のアル・マアムンが教主に即位したことを嫌ったイブラヒムは、ライイに赴いて、そこで王となった。しかし、服従することを拒んだイブラヒムを赦さないアル・マアムンがイブラヒムの首に賞金をかけたため、バグダッドへ逃れることにした。
「円柱の多い都イラムとアビ・キラバーの子アブズラー」 第275夜〜第279夜
行方不明になった牝駱駝を探しに行ったアブズラーは、遠くさまよっているうちに、宝玉や金銀で造られた、あまりにも美しい都に迷い込んだ。しかも、その都には住む人がない。なぜなら・・・。
「モスルのイサアク」 第279夜〜第282夜
アル・マアムン教主のもとを辞したイサアクは、一軒の家から大きな籠がさがっていることに気づいた。酒の酔いから籠の中に座ってみると、籠はするすると引き上げられ、イサアクは美しい娘のいる館へ連れて行かれた。
「掃除夫と上臈」 第282夜〜第285夜
メッカの巡礼季節に聖殿のまわりで、「おお、アラーよ、どうかあの女がもういっぺん亭主に腹を立てて、わたしがあの女とねんごろになれますように!」などと不埒なことを叫んでいる男がいた。巡礼奉行のもとに引き立てられたその男が説明したところによると・・・。
にえ ここらは短いお話の集まり。最初に気前がいいってことにまつわるお話をすると、気前がいいといえばこんな話もあります、というふうに、次々と短いお話が繰り出されていくという。
すみ それにしても、ここにきて話を聞いている王様は寝るのが早くなったね。寝つくのが早くなったっていうのは、それだけシャーラザッドに心を赦したってことなのかしら?
「いかさま教主」 第285夜〜第294夜
教主ハルン・アル・ラシッドは、大臣ジャアファルをお供に、商人のなりに身をやつし、こっそりと夜の町に出てみた。チグリス川のほとりに老爺が小船を浮かべていたので遊びがてらに乗り込むと、立派な御座船が通りかかり、たいそう美しい服装をした青年が乗っているのを見かけた。驚いたことに船頭は、あれは教主の船で、乗っているのは教主様だと言った。
にえ ハルン・アル・ラシッド教主はジャアファル大臣をお供に、よく変装して町へ出掛けるよね。もう何度、教主がおしのびで出掛ける話を読んだだろう。単独でこういう話もあるし、長い物語の一部で出てくることもあるし。
すみ 遠山の金さんか、水戸黄門ってところだね。最初は身分を隠して庶民たちの悩みを訊き、最後には宮殿へ呼び寄せて、身分を明かしてスパッと名さばき! が基本形。
  
 「バートン版 千夜一夜物語」 第5巻へ