=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「形見函と王妃の時計」 アレン・カーズワイル (アメリカ)
<東京創元社 単行本> 【Amazon】
ニューヨーク公共図書館に勤める司書アレクサンダーは、図書の請求票コレクションを趣味としている。フランス人女性で、本やカードなどのデザイナーである妻ニックと二人で、「愛の伝票」なるオリジナル本を製作しているほどだ。 そんなアレクサンダーにとって、ヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世の請求票は、ぜひともコレクションに加えたくなるような逸品だった。目もさめるような古い様式の筆記体。ヘンリー自身も、18世紀の紳士そのままのような装いだった。 ジェスンは1983年、パリの骨董品オークションで手に入れた、18世紀のある発明家の形見函について調べていた。それは10の仕切りに分かれていて、ひとつだけ空のままだった・・・。 | |
アレン・カーズワイルの2冊目の邦訳本です。上のあらすじ紹介を読んでいただければおわかりかとも思いますが、これは前作「驚異の発明家の形見函」の姉妹編です。 | |
「驚異の発明家の形見函」については、私たちは大満足とは言えなかったんだよね。なんか中途半端感が残っちゃったような・・・。 | |
とはいえ、18世紀末のフランスという舞台背景や登場人物などについての描写なんかが、デビュー作とは思えないような、落ち着きのある美しさ、巧みさで、次に翻訳されるものに期待したいな〜って気持ちも強かったんだよね。 | |
でも、まさかこういう形になるとは思っていなかった! 姉妹編というより、2冊あわせて1冊の本になったような・・・。 | |
こっちだけ読もうとしてる方がいたら、まず「驚異の発明家の形見函」から読むことを勧めたいし、「驚異の発明家の形見函」を読んで大満足だった方、私たちみたいにちょっと不満が残った方には、ぜひこちらも読んでみてと勧めたいな。 | |
復習から始めると、「驚異の発明家の形見函」は、1983年に「わたし」がクロード・パージュという悲劇の天才発明家の形見函を見つけたところから始まり、18世紀末に生きたクロード・バージュの人生が綴られていくのよね。 | |
そうそう。で、こちらの「形見函と王妃の時計」は、主人公が、1983年にクロード・バージュの形見函を手に入れた「わたし」こと、ヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世に出会い、その形見函の10の仕切りの内の1つだけ空になったところに入っていたはずのものを探す話。 | |
なるほど、そういうつながりなのか〜と読んでいくと、どんどんリンクしていって、意外なところで意外な結びつきに驚くことになるんだけどね。 | |
まさに仕掛けだらけだよね。クロード・バージュの発明した自動人形も仕掛けだらけってことになるけど、こっちの小説はそれ以上に仕掛けたっぷり。この本じたいにもちょっとした仕掛けの一つがあったのね、と気づいたりもして。 | |
とにかくヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世から調査を依頼された主人公のアレクサンダーが、ちょっとしたヒントから謎を解いていくんだけど、次々に興味を惹かれる新事実が出てきて、楽しいこと、楽しいこと。 | |
ヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世じたいがまた興味深い人だったよね。現代的なものをいっさい拒否して、18世紀を生きているような人なの。 | |
拒否しきってはいないでしょ。親の遺産を注ぎ込んで、18世紀のアミューズメントパークかってぐらいの凝った屋敷に住んでいるんだけど、現代的なものも取り入れつつ、巧妙にそれをすべて隠していたりしてね。 | |
ヘンリー・ジェイムズ・ジェスン三世の屋敷はおもしろかったね。いろんな隠し扉があったり、ビックリしちゃうような手の込んだ品物がさりげなく置いてあったり・・・部屋じたいがそれぞれ凝りに凝ってるし。これまた仕掛けだらけ。 | |
主人公とその妻がまた職業がらみで魅力的だったよね。主人公はニューヨーク公共図書館に勤めている司書なんだけど、この図書館内の描写がとっても活き活きしてて、引き込まれちゃう。 | |
やたらと規則を増やしたがる、いやみな上司がいると思えば、図書館の生き字引みたいな初老の男性がいたり、コンピュータ検索なら任せとけって感じの同僚がいたりしてね。 | |
そこで会議があったり、棚卸しパーティーなるものがあったりするんだけど、これはもう図書館というと連想する静かな、静かな雰囲気とはぜんぜん違ってて、スピード感とスリルのある、楽しい学園ものみたい名乗りだった。 | |
アレキサンダーの奥さんニックがまたいいのよね。フランスから来て、アレキサンダーと結婚することでアメリカ人になった女性で、あまり英語が得意じゃないんだけど、そのぶん、あれやこれやととってもキュートなものを作ってくれるの。 | |
ジェスンの屋敷が18世紀美術の結晶のようなら、ニックが作り出す世界は、原色使いのポップアートよね。想像するだけで目がチカチカするぐらいの、まばゆく楽しい世界。 | |
でも、ニックはアレキサンダーがジェスンに雇われることに反対で、そのためにニックとアレキサンダーの中はギクシャクしちゃうんだよね。 | |
それじゃなくても、二人は新婚初夜での失敗から、ニックが立ち直れなくなっていることで、ずっと問題を抱えたままなのにね。そのへんの先行きも読んでて気になってしかたなかった。 | |
でも、なんとかアレキサンダーを刺激しようと、ニックが繰り出すあの手この手はとってもキュートで微笑ましかったけどね。とにもかくにも、こちらは謎から謎を追っていく展開もおもしろかったし、登場人物たちにも魅了されたし、文句なしに最初から最後まで一気に読める楽しさだった。あ、もちろんこちらも上手にこちらの知らなかった知識を盛り込んでくれてて、それもまた楽しかったしね。 | |
日本の刺青についての言及については、ちょっと首を傾げてしまったりもしたけどね(笑) でも、ホントにこれは楽しめた。この本が大満足だったから、「驚異の発明家の形見函」を読んだことも、読んでよかったと満足感に変わったな。あとはまたお値段と相談してくださいってことになるけど、そこが引っかからなければ、オススメです。 | |