すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「バートン版 千夜一夜物語」 第1巻  <筑摩書房 文庫本> 【Amazon】
世界最大の奇書「千夜一夜物語」を、世界に名高いバートン卿が翻訳した「バートン版 千夜一夜物語」の全訳。大場正史氏の流麗な翻訳文に、古沢岩美画伯の甘美な挿画を付した、文庫本全11巻。
にえ さてさて、このたび、ちくま文庫から全11巻で、バートン版の千夜一夜物語の全訳が復刊されましたので、この機を逃す手はないと読んでみることにしました。一気に連続してではなく、飛び飛びでご紹介していこうかなと思っています。
すみ これまでにも、この大場正史さん翻訳の「バートン版・千夜一夜物語」の全訳は、河出書房新社の単行本、角川書店の文庫本などで出ているんだよね。
にえ 11回も話す機会があるわけだから、ごく根本的なところから話していくけど、恥ずかしながら、私はずっと、この「千夜一夜物語」の原書っていうのがあることすらわかってなかったんだよね。民間に口承で伝わる物語、つまりは民話的なものなのかなと思いこんじゃってた。
すみ もともとはパフラビー語で書かれていたものが、8世紀の後半頃、アラビア語に訳され、それが原書ってことになるみたいね。作者は不明ってことだけど。
にえ 一人の人が書いたとも限らないよね。本書を読むと、当時のことがわかってくるけど、王族たちの間では、おもしろい話を見聞き、経験すると、それを書き記して保存する習慣があったみたいだから、その集大成なのかもしれないし。
すみ それにしたってきれいにまとまっているから、個々はともかく、全体としては、だれかが一つの物語としてまとめたのはたしかだと思うけど。第1巻の巻頭に、長々と前書きがあったから、それについて書かれているのかなとちょっと期待したけど、こちらは原書の英語訳についてのこれまでの歴史を語っているって感じだったね。
にえ そうそう、バートン版っていうのは、リチャード・F・バートン卿という、1821年イギリス生まれで、ヨーロッパ、インド、中近東、アフリカ、ブラジル、シリアなど、まさに世界を渡り歩き、なんと36カ国語に精通し、東洋文学の大研究家として名高い、でも、人生としてはわりと孤高の、というか、不遇だった方が訳したもの。 バートン版の前にもいくつか英訳、フランス語訳などあったみたいだけど、現在でもバートン版が決定版として扱われているぐらいだから、正確さ、その他もろもろの出来が違うみたい。
すみ 読み比べると、訳者によってかなり内容が違ってくるみたいね。私的には、前に「バートン版カーマ・スートラ」なんて読んでみたって経緯があったりするものだから、バートンさんの訳だと、エロティックさが強調されてしまってるんじゃないかな、なんて疑ってみたりもしたんだけど。
にえ まあ、「バートン版カーマ・スートラ」も、今読めば、ほとんどまったくと言っていいほど、Hには感じられない本だけどね。
すみ でも、「千夜一夜物語」はエロティック、いや妖艶淫靡だったよね。まあ、現代人の性的興奮につながるってことはなさそうだし、エロはいや!と避ける必要はないと思うけど、さすがに小学生とかには読ませられないかも(笑)
にえ 冒頭から、いきなり驚いちゃったよね。ええっ、こんな話だったのか〜っと(笑)
すみ それぞれがそれぞれの国で国王をしている兄弟の話から始まるんだよね。弟が妻の浮気現場を目撃して、傷心のまま兄のもとへ行き、そこで兄の妻の浮気の現場を見てしまうの。
にえ その浮気現場ってのが、度肝を抜くじゃない。20人の女奴隷を引き連れて、美貌の王妃が花園の噴水に繰り出すと、王妃の命で20人の女奴隷はパッと服を脱ぐ、するとそれは、じつは10人の男と10人の女で、いっせいにまぐわりはじめ、王妃もまた木から飛び降りてきた黒人と・・・とまあ、ホントにホントに絢爛豪華な浮気っ。
すみ 結局まあ、王妃は処刑され、国王は女性不信に陥って、2度と裏切られ、恥をかかされまいと、それからは女と褥をともにするのは一夜だけ、朝になったら殺してしまうという過剰にして残酷な用心ぶり。その国王に挑むのが、大臣の娘シャーラザッドなんだよね。シャーラザッドは魅力タップリのお話を、毎晩、毎晩、途中まで話し、先が聞きたさに国王はシャーラザッドが殺せない、と。
にえ シャーラザッドって名前だったよね。なんか「千夜一夜物語」といえば、シェヘラザードでしょうってところが私にはあったんだけど。
すみ それよりさあ、私は毎夜、毎夜、シャーラザッドの話を聞くのは国王だけだと思っていたんだけど、シャーラザッドの妹も一緒に話を聞いていたんだね。おっと、長くなってきたから、今回はこの辺にしておく? とにかく読みはじめれば、こんな昔に書かれた話が、どうしてここまでおもしろいのってぐらいおもしろくて、話したいことがいっぱいあるんだけど。
にえ お姉さま、そのおもしろさについて、もっと聞きとうございますわ。
すみ それについては次の晩、とくと語らせていただきましょう。ただ王様さえ私の命をお助けくださいますならね。
「商人と魔神の物語」 第1夜〜第2夜
食べた棗(なつめ)の核(さね)を投げたばかりに、その核があたって息子が死んだと魔神(アイフリット)から命を奪われそうになった商人は、三人の不思議な老人の話により、命を救われることとなった。
<一番めの老人の話>
一番めの老人は、連れている羚羊(かもしか)が、自分の妻であり、父方の伯父の娘だと語った。子宝に恵まれない妻は、夫の子供を産んだ奴隷女に嫉妬して、女と息子を魔法で牝牛と子牛に変えてしまったが・・・。
<二番めの老人の話>
二番めの老人は連れている二匹の犬が、自分の二人の兄だと語った。父親が遺した金貨三千枚を平等に分けた三人兄弟だったが、兄二人は無謀な旅で使い果たしてしまったのだが・・・。
<三番めの老人の話>
三番めの老人は連れている騾馬(らば)が、自分の女房だと語った。家を空けているすきに女房は奴隷と浮気をした。それを見とがめた夫を、女房は魔法で犬に変えてしまったのだが・・・。
にえ 似たような話の繰り返しかな〜と思ったら、じつはそれぞれに違う話へと発展していくのでした。
「漁師と魔神の物語」 第3夜〜第9夜
毎日4回だけ投網をする漁師は、ある日、網にかかった壷を開けたばかりに、出てきた魔神に殺されそうになってしまった。
<大臣と賢人ズバンの話>
漁師が魔神に話して聞かせたところによると、病に苦しむユナン王に賢人ズバンは、飲み薬や軟膏を使わずして、その病を治すと約束し、みごとその約束を果たしたが・・・。
<シンディバッド王と鷹の話>
賢人ズバンを疑った方がいいと進言してきた大臣に、ユナン王が話して聞かせたところによると、昔、ファルスに王者の中の王者と呼ばれたシンディバッド王は、ことのほか自分の鷹を寵愛していたのだが・・・。
<亭主と鸚鵡の話>
ユナン王が大臣にもうひとつ話して聞かせたところによると、美しい妻をもらった商人は、自分の留守中に妻が浮気をしていると疑って、鸚鵡に留守中のことを話させたのだが・・・。
<王子と食人鬼の話>
ユナン王に大臣が話して聞かせたところによると、狩猟のたいそう好きな王子様が、ある日、荒野で獣を追っていると、そこに娘が現われたのだが・・・。
<魔法にかかった王子の話>
漁師が持ってきた4匹の珍しい魚に導かれた王様が出会った、臍から下が石に変わった若者が、王様に話して聞かせたところによると、都の王であった若者が妻の浮気を知り、ひそかにあとをつけたのだが・・・。
すみ 疑うべきか、信じるべきかというひとつの主題だけで、これほどさまざまな物語が次々と繰り広げられていくなんて、ホントに素敵っ。
「バグダッドの軽子と三人の女」 第9夜〜第19夜
昔々、バグダッドにいたある軽子(かるこ)は、見たこともないような美しい女に籠を持ってついてこいと言われた。あれこれと買い物をした女が軽子を連れていったのは、その女に勝るとも劣らないぐらい美しい門番女と女主人がいる館だった。 軽子が三人の女と戯れていると、そこに三人の左目が潰れた托鉢僧(カランダル)と、身分を隠した教主(カリフ)とその供が訪ねてきた。
<最初の托鉢僧の話>
女主人に求められ、最初の托鉢僧がその片目をくりぬかれた経緯を話したところによると、もとは都の国の王子であった彼は従兄を訪ねているあいだに国を大臣に乗っ取られ・・・。
<二番めの托鉢僧の話>
女主人に求められ、二番めの托鉢僧がその片目をくりぬかれた経緯を話したところによると、もとは王子であって、あらゆる学問に精通した彼が家来を連れて航海に出ると・・・。
<ねたみ深い男とねたまれた男の話>
魔神の妻との密会を知られた彼が、命乞いのため、魔神に語ったところによると、隣人にひどくねたまれた男は荒れた土地に引っ越すことにしたのだが・・・。
<三番めの托鉢僧の話>
女主人に求められ、三番めの托鉢僧がその片目をくりぬかれた経緯を話したところによると、王子であった彼が航海に出ると、船がみなから恐れられている磁石山に引き寄せられてしまったのだが・・・。
<姉娘の話>
教主に求められ、女主人が自分のことを語りはじめたところによると、黒い牝犬は二匹はじつは自分の姉たちで、三人の父が遺した三千ディナールを、三人で公平に分けたところが・・・。
<門番女の話>
教主に求められ、門番女が自分のことを語りはじめたところによると、もとは美しく若い未亡人だった彼女が、老婆に導かれてある若者の家を訪れ、そこで恋に堕ちて結婚にいたったところが・・・。
にえ 胸を引き裂かれるような悲劇につぐ悲劇! どれも本当に壮絶な物語だった。ふ〜っ。そうそう、<姉娘の話>は前に似た始まり方をした話があったんだけど、と思ったら、ちゃんとまったく違う展開になっていきました。
「三つの林檎の物語」 第19夜〜第20夜
民の声を聞くため、市井に出た教主ハルン・アル・ラシッドは、川に沈んだ箱を見つけ、王宮に持ち帰った。なんとその箱の中には、19片に切り刻まれた、肌の白い女の遺体が入っていた。大臣ジャアファルは犯人探しを命じられた。

「ヌル・アル・ディン・アリとその息子バドル・アン・ディン・ハサンの物語」 第20夜〜第24夜
女殺しの元凶として、処刑されかけた奴隷の命を助けるため、ジャアファルが教主ハルン・アル・ラシッドに語ったところによると、昔々エジプトの国の大臣に、美しい二人の息子がいたのだが、兄弟はある日、兄が弟に結婚するなら同じ時期、子供は兄夫婦に娘、弟夫婦に息子、娘と息子は結婚させようと仲良く話していたところ、その持参金をどうするかで喧嘩別れをしてしまい、弟は遠国に行ってしまったのだが・・・。
すみ このふたつは章を分けてあるけれど、ひと繋がりのお話。運命の気紛れに翻弄される人の姿が、悲劇として、美しい男女の物語として、それぞれ語られています。出だしでは、推理小説が始まるのかと驚いてしまった(笑)
<せむし男の物語> 第24夜〜第26夜
ひょんなことから人を殺してしまった仕立屋の夫婦は死体を持て余し、医者の家にすてて逃げたのだが・・・。
にえ これは途中までで終わって、続きは第2巻へ。ひとつの死体をめぐって、次々に犯人が自首するという、ちょっと落語のような趣のある物語だった。
  
 「バートン版 千夜一夜物語」 第2巻へ