すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ビッグフィッシュ」 ダニエル・ウォレス (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
余命幾ばくもない病気のため、エドワード・ブルームは別人のようになってしまった。若いうちはとてもハンサムで、歳を取ってからはエイブラハム・リンカーンに似ていると言われたのが嘘のようだ。 それでもエドワードはいつものようにジョークを飛ばす。人を楽しませるジョークの蓄えならいくらでもあった。だれもがエドワードのジョークを愛していた。しかし、一人息子のウィリアムが聞きたいのはジョークではなかった。ジョークの奥に隠された本当の父親の話が聞きたかった。
すみ 私たちにとっては、「西瓜王」から2作目のダニエル・ウォレス本にして、見てきたばかりの映画「ビッグフィッシュ」の原作です。
にえ 映画はスンゴイよかったよね。小さなサーカス団やフリークスといった、いかにもアメリカの南部の古く、そして妙に懐かしい気持ちになってしまう世界が繰り広げられて、その独特の色合いの美しさにウットリもしたし、 作り話としか思えない大袈裟な話に笑ったり、驚いたり。
すみ そういう楽しさに魅了されながらも、揺るぎない夫婦愛とか、父と息子の心の結びつきとかを強く感じて、ジンジンしちゃうの。最後には二人して泣いちゃったね〜。
にえ さてさて、そんな素敵な素敵な映画の原作をさっそく読んでみたんですが・・・正直、中盤過ぎるまでは、あの豊かな世界を描いた映画に比べて、ずいぶんと貧相な原作だなと思っちゃったんだけど。
すみ そうそう、お話じたいも一筋だけ残してあるだけで、あとはぜんぶ変えてるって感じで、原作を読んでるっていうより、ちょっと似ているけど別の話を読んでるみたいだったね。
にえ 原作のほうはあくまでも現実的で、それほどウットリするような幻想的なところはないってところかな。
すみ 映画を見てなかったら、それほど幻想的じゃないぞって感じることはなかったかもしれないけどね。エドワードの人生の要所、要所に出てくる川の少女なんて素敵だったし。
にえ そうそう、映画とくらべるのをやめれば、これも素敵な小説なんだ、とようやく気持ちを切り替えられたのが中盤過ぎだったのよ。
すみ エドワードというアラバマの小さな田舎町で生まれ育った青年が、都会に出て、貿易商として成功し、得た金を意外なところに使い、 みんなには愛されたけど、家庭を顧みずに働いたために、妻や息子は寂しい思いをした、とそれだけの話なんだけど、読むとこれがとても素敵なのよね。
にえ 映画とまず違うのは、若き日のエドワードは、映画ではでっかい、でっかい、大志を抱いた、どこかスケールの大きさを感じる田舎町出身の青年って感じだったけど、小説だと、同じ生まれ育ちとはいえ、農家の息子ってイメージのほうが強かったってところかな。
すみ うん、生い立ちについては土の匂いがしっかりしたね。子供の頃の話は、田舎の農家のおうちならではの出来事で。
にえ その田舎町でも、田舎町を出てからも、不思議な経験をいろいろするんだけど、どの話も大なり小なり映画とは違ってて、映画と比べるとコンパクトにまとまってるって印象だった。
すみ 映画のように、バラバラだった話が、あとからあとからすべてつながっていくってのはないのよね。エピソードじたいが小説にしかないもの、映画にしかないもの、それから小説と始まり方だけは似てるけど、そこから先はまったく別の話に展開していくもの・・・とほとんど違ってた。
にえ 小さなジョークまで変えてあったよね。これは原作を先に読んだ人への配慮だったのかな。同じのは1つだけだったよね?
すみ ジョークに関しては、どっちもそれぞれ負けず劣らずでおもしろかったよね。映画のも笑えたけど、小説のも吹き出しちゃった。ただ、内容は違っても、父と息子の言葉の掛け合いのリズム感みたいなものは、けっこう同じだったりしたんだけど。
にえ ジョークとホラ話、これがエドワードの魅力であり、本当の父親を知りたい息子にとっては、本質に近づくのを邪魔する壁になってるのよね。これは一緒。でも、映画だとなんといっても壮大で、ユーモラスで、でも美しいホラ話のほうにだんぜん重きを置かれてたけど、小説だと、それよりジョークを連発する人って印象が強かった気がする。
すみ 原作にはサーカス団やら、戦時中の大活躍やらっていう、ワクワクする話じたいが出てこないから、ホラ話のほうは静かな印象なのよね。
にえ ただ、川の少女については、映画ではちょっとその存在がわかりづらくて、なんなの?ってぐらいで終わっちゃったけど、原作を読んだら、とっても神秘的で、しっかり存在意義があったから、これに関しては原作のほうがいいかなと思った。
すみ それに、なんといってもラストだよね。ラストに関しては、余計なものを足してない、シンプルな原作のほうがいいと思った。
にえ そうそう、余韻深いラストを読んだら、ああ、小説もよかった〜。原作と映画、ぜんぜん違うけど、どっちもいいなと思った。
すみ 要するに、比べたりしないで、別物だと思えばいいんだよね。ちょっとだけ同じだけど、ほとんどが違っているんだし。
にえ ということで、ジョークを連発し、ホラ話としか思えないような過去を語ってばかりいる父と、真実を求める息子。父親の話は夢物語にすぎないとしても、あまりにも美しくて・・・という話。色鮮やかでファンタジックな映画、 地味ながらもジンワリと感動が迫ってくる小説、どっちもよかったということで。