すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「西瓜王」 ダニエル・ウォレス (アメリカ)  <河出書房新社 単行本> 【Amazon】
18才のトーマス・ライダーは、生まれたときから父も母もなく、祖父と、アンナという女性に育てられた。祖父が亡くなり、アンナから、母ルーシー・ライダーがアシュランドという町で自分を産み、 亡くなったことを教えられたトーマスは、自分のルーツを求め、アシュランドに向かった。そこは、かつてスイカで栄え、スイカ祭が行われていた町だった。毎年、童貞の男が西瓜王に選ばれ、女性と結ばれることでスイカの豊作が約束される祭…その祭がなくなってしまったことと、 母の死にはどうやら密接なつながりがあるらしい。ダニエル・ウォレスのHP
すみ あまりにも素敵な装丁に惹かれ、初めて読んでみました、ダニエル・ウォレスの「西瓜王」です。タイトルからしてすごいっ(笑)
にえ でもさあ、装丁やタイトルから、YA本っぽい感じかな、ノスタルジックな雰囲気の、アメリカの片田舎の町のお話だろう、と決めつけていたら、違ったね。
すみ うん、こんなに複雑さのある小説だとは、ぜんぜん思ってなかったし、ホラーなのかとも思わせるような内容も、意外すぎて驚いた。
にえ 宣伝文句に入っていた「大切なことを忘れかけた大人のためのファンタジー」っていうのも、読んでみると、内容とあまりにも印象が違うような気が・・・。
すみ あんまり自分の子供時代と結びつけて考えるところはないような、現実からはかけ離れたお話だもんね。でも、おもしろかった。とっても変わった感触で。
にえ 4つの章に分かれてるんだよね。最終章はエピローグ的なおまけの章で、本文といえるのは3つかな。
すみ 1つめは、アメリカ南部の田舎町アシュランドに、トーマスが訪ねていって、町の人たちに話を聞くんだけど、それぞれの人の話をそのまま書き留めたような、インタビュー記事みたいな感じなんだよね。
にえ トーマスは18才で、美少年だけど生まれつき片脚がちょっと短くて、脚をわずかに引きずるようにして歩くのが特徴なの。そのトーマスが、自分の出生の秘密を知りたくて、アシュランドに行くの。
すみ トーマスの母親ルーシー・ライダーはそこでトーマスを産んで、死んだんだよね。
にえ ルーシーのお父さんが不動産屋をやっていて、いくつか自分でも物件を所有しているんだけど、そのうちのひとつが、アシュランドにあったんだよね。父親の手伝いでルーシーは物件を見回っているうちに、 そのアシュランドの家に住み着くことになったみたいなの。
すみ アシュランドは、スイカの町なんだよね。驚くほどスイカがたくさん採れて、しかも、世界一かってぐらい美味しいスイカで、まさにスイカで成り立っている、スイカの町。
にえ そして、町の最大の行事といえば、スイカ祭! 祭では、巨大スイカの種の数当てコンテストとか、いろいろ行われるんだけど、メインイベントは西瓜王。
すみ 毎年、童貞の青年が選ばれて、果肉をくりぬいたスイカの皮を頭にかぶらされ、ひからびたスイカの蔦を笏(しゃく)のかわりに持たされて、荷車で運ばれ、選ばれた三人の女性のうち、黄金のスイカの種を引いた女性に童貞を捧げるという・・・。
にえ なんともいえないイベントだよね。そのスイカ祭、西瓜王と、トーマスの母の死には、深いつながりがあるみたいなんだけど。
すみ 2つめは、トーマスが育ってきた過程、とくに祖父のことについて、軽い回想録のような小説として書かれているの。
にえ トーマスのおじいさんは、ダニエル・ウォレス原作の映画「ビッグフィッシュ」を彷彿とさせるような、楽しい法螺吹きなんだよね。
すみ そうそう、不動産屋さんなんだけど、それぞれの家に、夢のような来歴をつくりあげ、語って、家を売ってるの。おじいちゃんが作ったどの話も、楽しく素敵だった。
にえ でも、そこには悲しい理由が潜んでいたりもするのよね。
すみ そして、3つめの章では、順を追った普通の小説として、トーマスがアシュランドを訪れ、アシュランドの人々と、どんな交流があったかが書かれているの。
にえ まあ、詳しいところは話せないけど、とにかく歪んだ感じの雰囲気で話が進んでいくよね。ものすごく変わってて不条理だとか、ぎゃーっと驚いちゃうとかじゃないんだけど、非常識が常識にすり替わり、 それが最後まで押し通され、話がぐんぐん進んでしまうというか。
すみ こういう話を、ここまでキッチリ、ジックリ書き上げることじたいに感心してしまうよね。なんかもっと短い話ですませてしまいそうなアイデアを、 信じきってカッチリと書いたことによって、世界ができあがってるみたいな。
にえ なかなかおもしろかった。力ずくだろうが、なんだろうが、読ませてくれる作家さんなんだなと思ったし。興味があったらどうぞ。