すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「最後にして最初の人類」 オラフ・ステープルドン (イギリス)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
<最後の人類>は我々<第一期人類>に語り始める。我々にとっては永遠に等しいとも思えるほど遠い未来までに連なる、地球における人類の興亡史を。なぜなのかはあとで語ろう。 その前に、まずはすでに我々<第一期人類>の時代から、人類の精神は崩壊の兆しを見せていることを理解せねばならない。
すみ 私たちにとっては、「スターメイカー」に続く2冊目のオラフ・ステープルドンです。
にえ これで代表作の「スターメイカー」「最後にして最初の人類」「オッド・ジョン」「シリウス」の4作がすべて邦訳済みってことになるみたいね。
すみ 私たちがまだ読んでない2作は、先に読んだ2作より、わりと楽しく読める内容みたいだから、なんか気が楽かも。あとの2作もぜひ読みたいっ。
にえ 「スターメイカー」は宇宙の壮大な歴史が語られてたけど、この本は地球人類の壮大な未来歴史が語られてたね、なんか2冊読んだことで、気持ちがスッキリしたような。
すみ 「スターメイカー」は前半が宇宙旅行記、後半が宇宙の最初から最後までの歴史を語るって感じの内容だったけど、「最後にして最初の人類」は完全に歴史書だったね。たとえば原始時代から現代までの人類の歴史を1冊にまとめた本を読むような感覚で、 現代から20億年後の未来の歴史を読むみたいな。
にえ これは1930年の本。普通、ちょっと昔に書かれたSFって、現代科学に照らし合わせて、ちょっと笑いながら読むというか、 そういう気楽さを持って読めるんだけど、これは読んでるあいだ、顔が引きつりっぱなしだったな。怖いっ。
すみ 「スターメイカー」でもそうだったけど、違和感はたっぷりあるんだよね。近未来については、中近東諸国が完全に無視されてたり、中国人的な道徳心というのが理解できてないなと思ったりとか、 人類が宇宙旅行できるようになる時代を、先のほうに設定しすぎてるなとか、なんか変だなって感じは読んでて常にある。でも、それにしても、1930年に書かれたものだと言われると、怖いよね。
にえ まずは近未来については原爆のこととしか思えないような記述でしょ、世界がアメリカに反発を感じつつもアメリカ化してくるという記述でしょ、クローン技術のこととしか思えない記述でしょ、オゾン層破壊後の地球としか思えないような描写でしょ、 なんか読んでると鳥肌が立ってくるね。
すみ 書いたときにはまだ、第二次世界大戦が始まってすらいなかったんだよね。それを考えるとたしかにゾゾッとしちゃう。あと、進化の過程で新しい色が見えるようになるって発想も妙に説得力あったな。
にえ 世界がアメリカと中国の2大勢力で争われることになるってのはちょっとずれてるけど、ハズレとも言い切れないかな。第二次世界大戦後のアメリカと旧ソビエト連邦のことを考えると。
すみ クローン人間を作るところでは、たしかに体の一部を切り取ってたね。あれもは驚いた。
にえ そうだ、あと、病原菌を使った生物兵器についても書かれてたよね。1930年でしょ、どうなんだろう、軍事的なことに関わってた科学者だったりすれば、 まだ出てくる発想なのかもしれないけど。
すみ 書いたオラフ・ステープルドンは科学者ですらないんだよね。
にえ それどころか巻末に書いてくれてあったオラフ・ステープルドンの生涯を見ると、金持ちの家に生まれて学生時代はまじめな優等生、 大学卒業後は教師となるけど1年と持たず、父親の会社で事務に就くけど、これまた長続きせず、28才で父親から援助を受けて自費出版で詩集を出して・・・って、こういう本を書くとは思えないような人だった。
すみ どうして「スターメイカー」やこの本みたいな発想が出きるのか、ますます謎だね。
にえ 「スターメイカー」でも、人類はやがてテレパシーで会話をするようになるってあって、この本でもやはり繰り返し語られてて、こうなってくると、この予言も実現するのかしらと気になってしまう。
すみ この歴史書のような本の内容は、人類の盛衰史。人類が繁栄し、独自の文化を発展させ、やがて絶滅の危機に瀕し、また新たな人類が現われ、そこからまた繁栄、衰退、そしてまた誕生、とそれを繰り返していく話なんだけど、それはもう変化に富んだ展開でした。
にえ 人々は生活を変え、生態や形態すら変え、そういう激しい変化のなかでも人であり続けるんだよね。哲学を学んでるだけあって、普通のSFと比べると、思想や宗教観などに重きを置いてるかな。決してすべてに共感し、同意するってものではないだけど。
すみ でもとにかく、その広がっていく想像には圧倒されるよね。本当に一人の人間の頭の中で考えて出来上がったものなのだろうか。
にえ なんかねえ、読了後は、読んじゃいけないものを読んでしまったような気がしたよ、それぐらいの衝撃はあった。最後は人類讃歌になってはいるんだけどね。
すみ だれか一人主人公がいて物語があるって小説ではなかったけど、それでも人間の好奇心や嫉妬、集団のなかの従順さも自我の強さも、なにもかもがしっかり書かれてるって気がしたなあ。完璧な小説っていうのではなく、 なんだろう、とにかくこちらの想像を超えたスケールがあり、とてつもないエネルギーを発する小説だね。凄かった。
にえ こういう内容だから、読みたい人が読むってところで、オススメもなにもないんだろうけど、うん、覚悟して読めば、期待を超えたものは得られると思う。読んでよかったと言える本でした。