=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「クレモニエール事件」 アンリ・トロワイヤ (ロシア→フランス)
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1988年、フィリップ・クレモニエールは、ニースの別荘で妻を殺した罪で逮捕され、15年の禁固刑を命じられた。しかし、証拠はほとんどなく、 フィリップは罪を否認し続けていた。当時、フィリップには15歳の娘マリ−エレーヌと12歳の娘シャルロットがいたが、二人は母親の従姉リュシーに預けられることとなった。 1996年、父の冤罪を信じ続けたマリ−エレーヌが弁護士会随一の切れ者といわれるポルケス弁護士に冤罪裁判の弁護を依頼することで、ようやくフィリップは無実の罪から解き放された。 | |
さて、2冊目のアンリ・トロワイヤさんですが、これは自伝的小説だった「サトラップの息子」とはうって変わって、完全な創作ものです。 | |
これが3冊のなかでは一番コンパクトに話がまとまっていて、一番暗いかな。 | |
どれもハッピーエンドってわけじゃないから、暗さの比較はできないと思うけど。ちなみに私は、このハッピーエンドを避ける傾向は、フランス文学ならではかなあ、なんて勝手に考えてるんだけどね。 | |
ちょっと面白い設定だよね。殺人事件、冤罪の話なんだけど、それらはもう済んだことで、主人公マリ−エレーヌの父フィリップが晴れて釈放され、家に戻ってからのお話。 | |
これは正直なところ、読む前は「サトラップの息子」と違って、あんまりおもしろくないんじゃないかなあと思ったよ、私は。 | |
そうなの? でも、読みはじめたらもう一気だったでしょ、これも。 | |
そうなのよ。やっぱり上手い、アンリ・トロワイヤさんっ。読みはじめると、滞るところなく、スルスルスルッと読めちゃうのよね。だからって内容が薄いってわけではなくて。 | |
なんだろうね、ここまでスッキリときれいな小説を書く作家って他にいたかなあと、そこまで思っちゃうよね。 | |
とにかく、裁判が終わり、父親が釈放されることになりました、とそこから話が始まるの。 | |
この時、主人公のマリ-エレーヌは24歳。父の冤罪をはすために青春のすべてを費やしてしまったと言っていい女性だよね。 | |
わりと綺麗な人みたいなんだけどね、亡くなった母親に似て。マリ-エレーヌの回想から察するところ、母親は、美しくて、かなり奔放な女性だったみたい。マリ-エレーヌは姿形は似ていても、 母親から発せられていたような色気のたぐいはないタイプ。 | |
マリ-エレーヌの妹シャルロットは、姉とは真逆の道を歩いてきたみたいね。冤罪裁判にもほとんど関わらず、ずっと年上の男性と結婚して、子供を作り、今は家庭のことしか頭にないの。 | |
そんな妹にマリ-エレーヌは苛立ちを感じてたよね。で、裁判で無実の判決が下ったとたんに、マリ-エレーヌのもとにはマスコミが集まり、いろんな人の注目を浴びることに。 | |
新聞に載り、テレビにも出て、スター扱いの時の人となっちゃうんだよね。これまでの戦いを書いた本を出さないかって出版の話まで舞いこむの。 | |
マリ-エレーヌは嫌がりもせず、というか、むしろ喜んで、取材もすべて断らずに受けるし、本も書くことにするし。 | |
嫌がってたのは父親のフィリップだよね。釈放されて家に帰ってからは、ほぼ引き籠もり状態に。 | |
家にはリュシー小母さんっていう世話焼きの女性がいるんだよね。両親が不在となってからは、マリ-エレーヌとシャルロットの面倒はこの人が見てくれたんだけど、シャルロットはリュシー小母さんを嫌ってるの。 | |
父親が戻ってきてからは、リュシー小母さんとくっつかないかと心配してたね。 | |
マリ-エレーヌはいつしか、見かけは冴えないけど辣腕の弁護士ポルケスと恋仲に。そして父娘は……ってお話なんだけど。 | |
う〜ん、なんとも苦々しさの残るお話だったね。結局さあ、マリ-エレーヌは自分が犠牲になったと思い、冤罪が晴れてからは失った青春を慌てて取り戻そうとするけど、 ぜんぶ自分の意志でやったことで、それで父親に感謝を求めるのはエゴになるのかもしれないけど…。 | |
それにしてもさあ、マリ-エレーヌの心理描写がホントに的確で、その時、その時の心の流れを、無理なく受けとめながら読み進められたよね。こっちは自伝的、じゃなくてホントに創作そのものだから、 よけいアンリ・トロワイヤの上手さを感じたな。 | |
ストーリーは小ぶりで、先も見えるし、まとまりすぎてた感はあるけど、とにかくまあ、ここまできれいに書かれてしまったら、文句を言うほうがおかしいよね。これも良かったってことで。 | |